64.【白銀の機体】
ロングレンジバレットはスパークを起こし、黒煙を上げていた。
「再装填まで20分……。出力を抑えれば撃てないことはないが……。」
汗を拭い、照準を睨む。
細かい音を発するそれは、墜としそこねた戦艦を捉える。
サブモニターにユナのコックピットが現れる。
肩で息をし、ヘルメットを外していた。
自殺行為だ。と片目を失ったシャキリだから言えた。
「大尉、その兵器は使用なさらないでください。」
ユナは自身の胸の前で拳を握る。
「なぜだ。」
「軍旗違反です、我が軍の兵士でも巻き込んでみてください。大尉、あなたは……」
「敵を殺すことの何が違反だ!これまで黙認されてきたのだ。民間人を嬲ることも!なぜ、今になって貴様にそんなことを言われなければならんのだ、えぇ!?」
操縦計を叩きつけ、子供のように喚き散らす。
「大尉……。」
「お前は、開戦後もノコノコと月にいたからそう言えるのさ。お前は黙ってついてくれば良いと言った!役目を果たせ、女が戦場に出るとはそういうことだ!わかるな!」
ユナは何も言わず暗く俯き、左のサブモニターはプツリと暗転した。
「シャキリ、あなた痛々しいわ。片目を失ってしまって。昔、家族を一緒に待っていたでしょ。毎晩……。」
メインコンピューターへ、うつ伏せになるように乗り掛かり、肩を震わせる。モニターの上空、左右は艦隊の陰に隠れていた機体が突撃をかけ始めていた。
嗚咽の音がコックピットに響き続けるが、それは誰にも届かなかった。
「女というのは、戦いの場で母親のように説教をするのではない。そんなものは求めていない。女でありながら、戦うと決めたのなら、私を撃墜した奴のようにやってみせろ!」
男を遥かに上回る、Gへの耐性。そして母性さえ見出させる共感力。それをもっても、大抵の兵士はラッツェルのように暴力に走るか、ただ怯えて泣き叫ぶかの二択だ。
それではいけない。性別の変わっただけの、
アシュクの代わりを求めているのではない。
武装を折りたたみ、機体は再び、余分な2本の腕を、首の前に収納する。
機体を加速させる、複数の機体が等速で進み、
ブザーがコックピット内を鳴動した。
風を切る音が真横を通る。余らせた一隻の反撃だと分かった。機体をさらに加速させ、エンジンが高音で唸る。
煙を吐き出す音と共に、周囲の景色と、風を裂く細かい音が四方に鳴り響く。
右足のペダルの下、機体が爆発し、その部品が飛び散り、他の機体を誘爆させる。
敵の反撃は、それを恐れて減速をすれば、自滅する。
被弾した味方に巻き込まれるか、自分が次の的になるかだ。後ろを確認すると、ユナのセルヴスはシャキリの後をつけていた。
「そう、それで良いんだ。後は敵を撃墜するだけだ。」
再びブザーが鳴り響く。巨大な甲冑のような、大槍と盾を構えた機体が突貫する――
機体をそれに正対させたまま、急降下。
雲に紛れ、視界が奪われるが、そのためのこの兵器だ。
ロングレンジバレットを再び組み直す。合金を合致させる音が聞こえて、コックピットがガクリと揺れた。
「出力は20パーセントで良い……。」
右サブモニターを操作する。
一連を終えて、照準が索敵を始めるが、それを待たずにスイッチを押し込んだ。
機体が揺れ、雲が弾ける。青空を背に、上半身を削り取られたように、橙色と、灰色のフレームを露出させたその機体は、降下を始め、暫くして雲を赤に染め上げた。
「中尉、一か十でものを考えるから、浅はかな考えに行き着くんだ。3を選べば良いんだ、5を選べば良いんだ!野生動物じゃないんだ、人間は!」
右サブモニターに映し出される青空に、
緑の枠線が浮かぶ。索敵をするということは、
それだけの推力を持つものだと言うことだ。
「……新手か!」
機体を加速させ、雲の中へ身を隠す。
シャキリがいた空域と雲に無数の穴が開けられていた。
方向感覚を奪われるが、再びビームレーザーを射出する。
短いスパンで射出されるそれは、雲に大穴を開けるが、その機体はそれを読んでいるように回避している。
右サブモニターの枠線が、それを伝えてくる。
「避けている。相手も見えていない筈だ!」
雲を突き抜けようと、機体を上昇させる。
上から永続的に叩きつけられるような力が、シャキリを押さえつける。
青空は解放感と共にやってきた。艦隊との距離は離れている。兵士を押し上げながら進むからだ。
暫くして、
雲が激しく吹き上がるように、それを押し出す。
太陽の光に照らされ、その機体は青い空の中で、
舞うように上昇していた。
白銀の機体。中世の甲冑のような無骨なものではなかった。
マシーンに女性的というのは、言葉足らずなのかもしれない。しかし、その機体の動きと、腰のくびれを感じさせるフォルム。両の腕から直接なる刃、そして、白いベールのような半透明なフードを靡かせ、上空から自身を見下ろすその機体は、白銀と純白の品性を見せながらも、機体の頭部は、アイアンメイデンのそれであった。




