63.【ロングレンジバレット】
「少佐、敵機です。敵艦は……3。我々では……」
プティッカ級戦艦、「ノクターン」
ブリッジには、作戦指揮のヴィーナ・ラビーネと、イスィーズ・ジェイミールの姿があった。
「そうは言っても、やらなければね。大佐は怖い方だから。そもそも、この部隊をあの地球の戦艦にぶつければ、混乱に乗じて姫様も回収できる。そうよね、イスィーズ?」
ヴィーナはブリッジの壁に寄りかかるイスィーズへ視線を向けた。
「えぇ、奴等はなんの後ろ盾もありませんから。」
「そう。出撃頼めますか?機を見て地球の艦隊の元へ撤退します。」
ヴィーナは用意された座席に座り込み、インカムを手に指示を出し始める。
「はっ、援護が必要な場合は……」
「わかっています。私が出ます。」
イスィーズは顔を歪め、ブリッジの扉を閉じた。
「准尉、私はお前とこういう関係を築きたかったのだ。」
廊下に声がこだまし、イスィーズはその反響を消し去るように足音を立てながら、歩き出した。
***
「大尉、敵機出ました。」
左下のユナが呟く。ユナは、使い慣れたセルヴスに乗っているからだろうか。報告も、索敵も出来ている。
どうやらガルーラほどの根性無しではないらしい。
ストラッズから射出された2機がモニター左上に映る。
アコニットと、もう一機は新型だろう。
メインコンピューターを操作する。
腰で、半分に両断された兵器が駆動音を立てながら、
組み立てられる。
アルカロ・アコニットを挟み込むように、バチン!と破裂音を立て、その兵器は完成される。
モニターに映り込む。機体の胸元からなる巨大な砲身。
ロングレンジバレットだった。
「大尉、それを使うのは!」
ユナが咎めるように機体の側に近寄る。
「このマシーンと兵器を手渡したのは、帝国だ!私を実験の肴にするということは、こういうことだよ。」
シャキリは笑いながら、ヘルメットのバイザーを上げる。
メインコンピューターから照準が立ち上がり、砲身の目の前を浮かぶ艦隊を、補足する。
ロングレンジバレットの根本には、それぞれ4本のレバーが上下2本ずつに分かれて作動する。
4本の腕はそれを掴み、重心を固定させる。
銃身そのものがこの機体を巻き込み、依存しているから、機体の反動と姿勢制御の心配は無い。
戦争で唯一褒められるのは、この人殺しへの執着から来る開発力だった。
「お前達を詰ってやれば、少しは気が晴れるだろ!」
砲身は紫のエネルギーを溜め込み始める。
「シャキリ、あなたそんな怖い人じゃなかった!」
ユナは叫びながら、機体を離す。
こちらの艦隊も何かに気づき、距離を取る。
ストラッズの部隊も同様だった。
「シャキリは何をしようとしている!」
メノクスが、ブリッジに入り込む異常な、紫の光を浴びながら、叫ぶ。
「新兵器です!セルビウスに実験的に配備されていたものの、完成形の!」
通信オペレーターの女性は汗を流す。
「そんなものを使うのか!」
「大佐、良いでしょう。帝国へデータを送れますし、
人型のマシーンが敵戦艦を撃墜する。こんなに士気が上がることもない。」
小さなモニターでラダンが笑っていた。
「遊びでないんだぞ!出撃した機体はこちらに寄らせろ!」
メノクスは叫び、それぞれの戦艦に機体が張り付く。
「ラッツェル大尉、あれは!」
ゼガームのククルが叫んだ。
「ふん、当てつけのつもりか、シャキリ。お前は率先して人を殺すが、後で自身の首を絞めるのも、お前であるのに。」
「一旦ストラッズへ下がるぞ!あれが放たれた後、突撃をかける!」
ゼガームとアコニットはストラッズの後ろへ隠れるように退避した。
「同族殺しも甚だしいが、姉と、母親と、父親と同じルーツというのも恥だ!お前達も射線上に来ると良い!電灯に集る虫みたいに、殺してやるんだよ!」
機体がガタガタと震え、銃口からははち切れんばかりに、エネルギー粒子が装填された。
コックピット全体は紫一色で、バイザーが異常を検知し、自動で下がる。
視界が白く染まり、次に真緑と黒を混ぜたようになっていた。
それでも、敵艦からは目を離さない。
あの、夢を犯す下卑た女の記憶。
照準が赤く輝く。振り切るように操縦桿のボタンを押し込んだ。
耳の感覚を無にする音。
一切の途切れなく射出するその濁流は、自身さえも呑み込んでしまうようだった。
機体が後ろに引っ張られるが、腕に力を込めさせ、踏ん張る。
ロングレンジバレットから、雲と大気に大穴を開ける、ビームレーザーが射出された。
それは太陽の光を遮り、街を紫に染め上げ、陸であっても、直視した人間は、視力を奪われる光。
***
「光!?」
機体が高音と紫一色に包まれ、次に橙色と赤を混えて、雑音混じりの通信から、叫びが広がる。
母艦のヤックヌーだろうか。あの二つに割れて、爆発した物体は。
青い空に、星が駆けてくるようだった。
アダム・ヴァレン、やはりジェナを殺してはいなかった。
あの2人は本当に愛し合っていたんだ。
「ジェナ……似合ってるドレスじゃないか。」
「イスィーズ隊全滅、ヤックヌーも撃沈!」
通信オペレーターが瞳を閉じながら、呟く。
ノクターンの横には、一本のレーザービームだろうか。
帝国の、新兵器だというのか。
イスィーズ達のいた場所は、雲ごと掻き消され、
粒子が消え去った後、爆発と轟音が、ヴィーナ達の
戦艦を押し除けた。




