交戦
「ガベルは離脱しました!」
アネストのオペレーターがジーネンに振り向く。
「よし、こちらに向かっているんだな。」
敵もおまけかとジーネンは呟く。
ジーネンはイブにアダムを呼んでくるように促した。
「館長、アダムが拒んだら…」
イブが下から見上げるように言う。
「強化し直しね。マインドコントロールは趣味じゃないけれど。」
イブは黙って俯いていた。
廊下から喧騒がする、司令室に人影が入ってきた。
「誰だ、ズケズケと!ここは…」
ジーネンが言葉を切らす。人影はアダムだった。
「アダム…。やってもらえるかしら。」
ジーネンが何か言いたげなイブを制して言う。
「敵艦が来るんでしょう。ここの人達は関係ない。」
「二人には専用機がある。作戦説明も兼ねます、着いてきて。」
ジーネンはそう言ってアダムに一瞥し、司令室を出た。
「あなた戦えるの?」怪訝そうにイブが言う。
「お前と喧嘩してられるか。」
アダムは言って踵を返した。
薄い青のタイタスとは違う、深紅のタイタス2機が並んでいた。
周囲のメカニックはジーネンと後ろに続く2人を見る。
「あれがネオ…なんとかか。つまるところ強化人間だろ。」
遠巻きのメカニックの1人がが呟いた。
「やめておけ、それは侮蔑らしい。ネオ・エンズルズだ。」
もう1人のメカニックがこちらに聞こえるように言う。
「それで帳消しにできると…」
アダムはそちらを睨む。
「アダム、聞いていたかしら。」
ジーネンがアダムを見据える。
「…すいません。」アダムは目を伏せる。
「ガベルは敵艦インペネスを連れてきます。そして最初に降下してきたタイタニスと合流するルートに入っていると予想される。」
「つまり時間が稼げるんですね。」
アダムの隣のイブが言う。
「ガベルをアネストに迎えてから敵艦を撃ちます。おそらく戦える状態まで持って行けているのはあなた達2人。」
ジーネンが深紅の機体を見上げる。
「2人で戦えるのですか。」
アダムが少し苛立っている。
「ネオ・エンズルズは並の兵士とは違う。この機体を母体にして、直接接続することができます。」
ジーネンがイブの背中を見せて言う。
イブの背中には、パイロットスーツの裏に管を迎え入れる器官があった。
「あなたのスーツにもついている。」
ジーネンがアダムのパイロットスーツを指す。
道具にされたと再度自覚できた。
「一つ念頭に置いて欲しいのは、宇宙から来た彼らがあなた達をこうしたということ、そして私達も。」
ジーネンはそう言ってメカニックに声をかけに言った。
アダムは機体のつま先に映った自分の顔を見る。
生前と言いたくはないが、昔と遜色ない顔だった。
「巡洋艦、インペネス、タイタニスと連結完了。」
重々しい見た目をした艦体が二列に並び、戦艦同士が海上で連なる。神話の浮島を連想させる。
「シャキリ大尉、ようこそ。」
メノクス達の後ろに付いたシャキリに声がかけられる。
シャキリの眉がピクリと上がる。
「バジーリオ少佐、ご丁寧にありがとう。」
アシュクはミレン達を連れてタイタニスの廊下に入って行った。
簡単な握手を交わす。
「敵の捕虜と機体を鹵獲したと聞いた、さすがだな少佐。」
「そんなことはありません。私は、あなたが地球に降下してくれて頼もしい。」
シャキリは一息遅れて返事をする。
「その言葉額面通り受け取ろう。」
シャキリの方からパッと手を離した。
「捕虜はどこにいるのかな。」
シャキリが周囲を見渡して言う。
「なぜです。」
「好奇心さ。」
タイタニスに入荷される物資と機体を見ながらシャキリが呟く。
「ははは、そういう人でないのは知ってますよ。」
「地球人の顔を拝んでやりたいだけさ。」
「我々と変わらず人ですよ。」
それを聞いてシャキリはくるりと歩き出した。
地面を踏む音がいささか乱暴だった。
バジーリオはそれに続いて作戦室に入る。
シャキリは着席し、インペネスと中将を除いたタイタニスの乗組員も座っていた。
「あと20分程で先程の敵巡洋艦に接触する。
今回は敵の施設を前にしている、機体が射出されたのはそこらしいなアダム少佐。」
メノクスがバジーリオに目配せをした。
「はっ、スレッグ達の観測データでは、そこで間違いありません。」
「ふむ、あの巡洋艦からは3機しか出てこなかった。相手が様子見をしている可能性もある。その施設から新型が出る可能性もな。」
「捕虜のものを解析できんのですか?」
シャキリが手を上げて言う。
「あれは一度捕虜ごと帝国へ送り返す。物資搬入も兼ねた艦が後に接触する手筈だ。
「捕虜を利用できるのでは?」
シャキリが怪訝そうに言った。
「バジーリオ少佐曰く、敵機鹵獲の際にあの施設は何もしなかったらしい。そしてあの巡洋艦も敵機を捨てて行った。この星の連中は兵士1人に執着はしないな。」
メノクスが資料に目を落としながら言う。
「さすが、質より量の星だよ。」
シャキリは背もたれに寄りかかって言う。
「バジーリオ少佐、シャキリ、お前達を先発する。あの巡洋艦が数を出せば我々も後続をだす。あの施設もだ。」
「はっ。」
バジーリオとシャキリは立ち上がって敬礼をした。
ガベルが入港する。巨大な戦艦が施設の中に収容され、従業員が慌ただしく動き出す。
「でかいな…」
アダムが呟く。イブはそれを横目にメカニックに武器の説明をしていた。
「イブ准尉、それでは他の武装が…」
「私は鎌され持てれば良いと言った。ましてや飛び道具なんて…」
アダムに目配せをして、「臆病者が使うもの」と一蹴した。
メカニックは頭をかきながら、しぶしぶ赤いタイタスにその武装を装備させる。
「折りたたみ式ですので…」メカニックの言葉を遮ってイブがクレーンに乗る。
「イブ・ナティア准尉、出撃準備に入る。」
タイタスの胸のそばでコンピューターを操作していたメカニックに声をかける。
「接続致します、ハッチは開けられますね?」
メカニックがコックピットを覗いて声をかける。
「当たり前。」
イブはタイタスを起動させ、コンピューターと操縦桿が手元に来る。モニターが3dで生成され、タイタスの目が輝く。
「アダム准尉、背中を…そうです。接続します。」
アダムの背中に管が接続される。
アダムが顔を動かすとタイタスが同じように顔を動かした。
「光を当てて瞳孔を確認します。」
メカニックがアダムの目にライトを当てると、アダムの瞳孔が縮まる。それに反応して、タイタスの目とされるカメラも縮小した。
「武器を取ってください。マシンガンと剣です。操縦桿を握って、あとは実体と同じように。」
メカニックが言いながらコックピットから出る。
「メットを忘れないで!」
「母親じゃないんだぞ。」
アダムはぼやきながらメットをはめる。
その間にタイタスは武器を手に取っていた。
モニターにイブが映る。
「腕が4本、足が4本ある感覚で動けば良い。」
「わかりやすく言ってくれ…」
アダムはイブ機を見て言う。
タイタスの首が動き、イブのタイタスが隣にいるのがわかるが、モニターは遅れてそれを表示した。
「ジーネン館長、それは本当ですか……」
ノックチルグは虚げに呟く。
「ええ、シスメは戦死、ナーケルは機体ごと奪取されました。」
「ナーケル達が?……」
「ご安心頂きたい。次の戦闘開始時、私達アネストの強化人間を使います。もちろん、無断出撃はさせません。」
ジーネンは続ける。
「敵艦が追ってきます、ガベルを表に出してください。あの二機が前線を張ります。」
ジーネンが駆動テスト中の二機に目配せをする。
「では」とジーネンは足早に去っていった。
ノックチルグは、ガベルに戻り、乗組員に旨を伝えた。
タイタス牽引、メカニックは退去せよ。繰り返す………
一つ沈んだ場所から、タイタニス二機が列をなす。
「アダム、まずは私が出撃をする。それに習えば良い。」
この女、こう言ってすぐに撃墜されればお笑いだな。
アダムは頭の隅で過らせ、メカニックの誘導に従う。
「確かに歩く感じはする、俺達が暴れる可能性もあると知らずに…」
ガラス張りの場所にジーネンがいた。
「後ろのタイタスがこちらを向いていますが…」
ジーネンの少し前にいる中年の男が言う。
「あれはアダムね、悪態をついているんでしょ。モニタリングはできているか?本部にデータを送れよ。」
ジーネンはフッと笑った後、コンピューターの前にいる女性に声をかける。
「バイタル共に良好です。2番機の心拍が少し上昇気味ですが。」
その女性が言う。
「緊張というわけではないはず。だからこうやってヘイト役を買ったのよ。」
ジーネンが腕組みをしながら答える。
女性オペレーターの隣にいた男が叫ぶ。
「敵艦です、2隻!」
「出撃だ!イブ、アダム頼んだ。」
モニターに向けてジーネンが言う。
艦内でアラートが流れる。
ーーメカニック、その他従業員は退去せよ。繰り返す…ー
それを聞いてイブとアダムは操縦桿を握り直す。
「ではお先に。」
イブ機がカタパルトに足を乗せ、アダム機を振り返る。
アダムは黙っていた。
ーー射出まで、3.2.1ーー
ブザー音と共にイブ機が射出された。
「では准尉、エンジンの起動をお願いします。」
モニターから先程のメカニックが声をかける。
「言われなくともやってる!」
タイタスの反重力エンジンが起動し、背中の辺りがじんわりと温かくなる。足元が浮ついてくるようだった。
「カタパルトに乗せてくれ!」
豆粒のようなメカニックがスピーカーから声をかける。
機体がズシリと唸り、カタパルトに両足を乗せる。
アネスト全体が微かに揺れた。
「アダム・ヴァレン、出撃する!」
一気にシートに押し付けられ、ウッと呻く。
轟音の後に、海が広がり、開放感が来た。
モニターに小さくイブのコックピットが映される。
「出てきた?敵艦の場所に行くよ。」
イブ機が近づいて、アネストを振り返る。
後ろにはガベルが出航していた。
「イブ准尉、アダム准尉、先発頼む。我々は後ろから援護しよう。ミサイルはなんとか避けてもらう。」
イブのコックピットの横に座席に腰掛けるノックチルグ映される。
「こいつ、感動というのがないよな。」
アダムは太陽に照らされる海を見てボヤく。
「敵が出張ってきたな。少佐、シャキリ。」
メノクスが言い、インペネスを前に出す。
「中将は後ろから援護を…高度を上げていただいて構いませんよ。」
インペネス司令室にタイタニスのサラスを映して言った。
「そうさせてもらう、大佐。」
タイタスニスはインペネスのやや後ろで高度を上げた。
「まったく…」
メノクスはため息をついて、シャキリとバジーリオ機の射出を見送る。
「大佐、敵機と先程の巡洋艦を目視しました。」
バジーリオのコックピットがモニターに映る。
「インペネス前進、あの二機の尻につける!」
インペネスがタイタニスとの連結を破り、二機の後に続いた。
二つの戦艦が向かい合わせになる。
ガベルはアネストを背にかばう形で、ゆっくりと高度をあげる。
海上からは遥かに離れていた。
「あの施設、やはり何かあるんだな。」
メノクスが呟く。
「バジーリオ少佐、腕が鈍っていないか見てやる。」
シャキリ機がバジーリオ機を振り返る。
「はっ、学習させていただきます。」
バジーリオ機が返して、シャキリ機が停止した。
双方の二機が向かい合った、間合いを測る距離にいる。
「赤いな、既存のものじゃない。」
シャキリが言う。
「大尉が最初に接敵したものも、違うのですか。」
バジーリオが敵を睨んでシャキリ機に並ぶ。
「イブ、敵も二機だ。」
ヴァレンが呟き、メットのバイザーを下げる。
「わかりきってることを、いちいち報告しないで。」
イブ機が鬱陶しそうに動く。
「妙に人間臭いな。芸をやるマシーンなのか、この星のものは」
シャキリが呟いて剣を抜く。
「どう出るんだ。少佐、このままお見合いか。」
「敵の出方がわかりません。外見は鹵獲したものと同じ、しかしそれでは餌を与えに来たようなものだ。」
バジーリオがシートにから若干乗り出す。
「二人とも、何をしている。貴様らが動かなければ、こちらも砲撃ができん。」メノクス大佐の催促が入る。
「じれったい!!」
シャキリの機体が唸り、ヴァレンの機体に突撃する。
「アダム!」
イブの鎌がシャキリの剣を遮り、アダム機の前で火花が散る。
「大尉!」バジーリオが咎めるように叫ぶ。
「敵を前にして、仲良くおしゃべりか。冗談じゃないぞ!」
「鎌を持った方はやる、片割れは置き物なんだな!」
シャキリが鎌を弾いて、イブ機と向かい合う。
「誰が!」ヴァレン機が剣を弾き抜いて、シャキリ機に突進をかける。
ヴァレンの機の剣とシャキリ機の剣が重なる。
金属同士のぶつかり合いで火花が散る。
機体に向けてチッチッチッという音が降りかかった。
「やはり近接武器を持っていたか。趣味がいいな!!」
「戦いは…侵略は生活を奪うんだ、遊びじゃないんだぞ!」
ヴァレン機がシャキリを蹴り、距離を取る。
それをイブが受け止める。
「アダム、私は奥のをやる。あなたは…」
「言ってないでやれよ!」
ヴァレンは鬱陶しく感じて振り解く。
「大佐、戦闘開始です!」
オペレーターの女がメノクスに振り返る。
「誘導ミサイル用意。目標、敵巡洋艦!煙幕弾も共に発射させろ!」
インペネスから轟音と共にミサイルが発射された。
「ミサイル、母艦からか。大尉、注意して戦ってください!」
バジーリオが言いながら、イブに向けてマシンガンを放つ。
イブとアダムは散開し、ガベルから弾幕が来る。
バジーリオはモニターと連動してそれを横目にイブとすれ違った。
「飛び道具を使ってこない、いや装備されてない。」
腰の折りたたみのハルバードを展開して、上昇する。
「ミサイルに巻き込まれるのを嫌う。大した奴じゃない!」
イブもそれに続いて上昇した。
下に潜り込んでやる——
シャキリが機体を下に向けようとする刹那、視界に閃光が走る。
「誘導ミサイル……!」
インペネスから次はないと言われた気がした。
「言われなくとも、同じ轍は踏まない!」
機体を右に叩きつけ、ヴァレンに特攻する。
ヴァレンはウッと呻き、首を振る。
モニターには映らないが
ヴァレンの背に冷たいものが走る。
途端、視界より早くくる敵意。
迫り来る剣を寸前でとめた。再び火花が散る。
「こいつ、反応したのか!」
火花に照らされて、シャキリが驚いた声を上げる。
「一端ではないんだな……ははは!」
戦艦達より上空に上がり、イブがバジーリオのセルビウスを見据える。
「そう、あなたが殺したのは女。」
イブがコックピットで呟く。
バジーリオは汗が流れる。
相手の赤い機体が女性的に見えてくるから。
「母親を持たないで、父と弟を支えた人間をお前は奪った!」
イブ機が鎌を持ち直す。
「エスパーではないはずだ!」
バジーリオ機は突撃をかける。
しかし、うっと呻きをあげた。
イブの機体は、のけ反らない。
片足に推力をつけ、イブの鎌をバジーリオ機が蹴り上げる。
「アダムの邪魔は…させない!」
圧に押し返される。
後頭部を掴まれている感覚だった。
「こんなもの、振り切ってやる……!」
言葉とは裏腹に手に震えが見え始める。
バジーリオ機が四方に動き、連撃を上げる。
しかし致命傷に当たらない、すんでで交わされている。
バジーリオにシスメの顔が浮かんでくる。
顔も知らない話したこともない人間が、別の人間にはそうでないことであると確信する。
ーーこちらが有利な筈だ!!ーー
言い聞かせるように必死だった。
「そうやって、滅裂になってるうちにお前はミサイルに晒されて死ぬよ!」
イブが鎌を振り上げた。
「少佐?あんな戦いをする男だったか…。」
シャキリはモニターの上端に映る。バジーリオを見据えで呟く。
「油断したな、緊張が解けてるんだよ!」
ヴァレン機が迫って剣を振り抜く。
ーーぬかった…!ーー
真横で風を斬る音がした。
シャキリ機の片腕が吹き飛ばされた。
警告アラートがコックピットに鳴り響く。
衝撃がシャキリのメット越しの頭を何度も壁に打ち付けた。
視界が、赤く染まる。額から血が流れ出した。
「ははは…赦しはしないぞ、赤い奴!」
シャキリ機は上昇する。
太陽が背に映り、シャキリを陰に隠す。
「ぐっ、眩しい」アダムはメットのバイザーを下げていなかった。
「さっきの女部隊とは別物だな、それでいいんだ!!」
上空から勢いをつけてシャキリ機が飛来する。
「私は違う、星の性は利用するんだ!!」
「くそっ、遮光フィルターがないから!」
マシーンが瞳孔を狭めるから、余計視界が悪くなる。
何かに引っ張られるように、光がくる。
ヴァレン機が勢いよく突進されたー
「ああっ!」ヴァレンは機体の衝撃を受け、呻く。
シートはヴァレンを固定する。
「敵が煙幕弾も撃ってきているのか!」
ノックチルグが叫ぶ、その間にも艦隊内に振動が走る。
致命傷でないことはモニターが表示するが、ノックチルグの額には汗が滴る。
「煙幕弾を迎撃するな、めくらましになってしまう!」
オペレーターに指示を出す。
「艦の撃墜コンピューターが敏感に反応してしまうのです!」
「オフにできんのか!」
「ミサイルも同時に激突します!」
ガベルは後退を迫られた。
「ガベルはなんで下がってる、アダム…!」
イブが声を上げる。機体がシャキリ達の方へ向く。
「煙幕か、こちらにも影響が出ていてはな。」
バジーリオがバイザーを上げ、汗を拭う。
バジーリオは相手にされていないと自覚した。
催眠と幻覚で敵を惑わして、自分は呆ける。
「許せるはずがないだろ!」
バジーリオが前進する。
「まだ来る…人殺しが!」
イブが鎌で応戦する。
「お前もそうなるさ。嫌でも、戦いとはそうさ!」
ハルバードでイブの腕ごと弾く。
「開き直りは、決まって弱者がやるんだよ!」
右、左、次は上と下。
イブの行動が攻撃か回避なのかわからない。
一撃離脱が通用しない。
バジーリオは焦りがぶり返した。
「……同じ人間のできることじゃない。」
メノクスが呟く。
「バジーリオ少佐が有利ですが?」
オペレーターが振り向く。
「相手の動きを見てみろ……誘導ミサイルがブレている。」
「…………?」
「あの施設でお前達だ。何か隠してるんだな!」
シャキリが機体を後退させながら叫ぶ。
「勘繰るのは勝手だけどな、お前達がこなければさ!」
ヴァレンはそれを追いかけて前進する。
「食い付くな、気味悪いやつ!」
シャキリはメットを外し、片目に臨時の眼帯を装着する。
片目は潰れたが、もう片方の視力を通じて眼帯は片目の感覚を生成する。視力は戻らないが、ないよりは良い。
「お前達が宇宙に押し出したんだ。雑用としてな。そのツケを喰らえよ!」
シャキリが再び勢いをつけ、ヴァレンに真上から突進する。
「光が邪魔なら、見なけりゃいいんだ!」
ヴァレンは目をつぶって、機体もそれに合わせた。
シャキリの機体は僅かに傾いていた。
「ええ!こうも引っ張られやすかったか!」
シャキリは舌打ちをして、操縦桿を操作する。
「相手も、不自由な部分がある!」
ヴァレンのタイタスはそれに合わせて上昇する。
「受けに回らんのは、いい判断だよ!」
シャキリは叫んで両機が激突した。
ヴァレン機の首を剣が掠め、シャキリ機は足を貫かれる。
「くそっ!片腕がなくなってバランスが!」
「おおっ!」
ヴァレンはシャキリ機を投げ飛ばす。
シャキリのセルヴスの片足が霧散する。
「トドメを刺さないのが、甘ちゃんなんだよ!」
叫んで、エンジンを蒸す。
異常を伝える不愉快な音。
「!?……」
警告音だった。失ったパーツのものではない。
視界が一転して真っ白になる。
耳にキーーンと激しい高音。
敵艦のステルスミサイルだった。
ーーオートディフェンサー…ェンサー作動ーー
有事に展開されるビームバリアが機体の形を保たせた。
「大尉!」バジーリオの焦りが分散する。
墜落寸でのシャキリ機をバジーリオ機が受け止め、上昇した。
ミサイルの攻防は引き続き行われていた。
イブがヴァレンに近付く。
「アダム、意識はある?」
「問題ない、ただ腹部の損傷がある。無理には飛べない。」
ヴァレンがコンピューターを操作しながら言う。
「肩をかす。」イブがヴァレン機の腕を背負い、ガベルの側に近寄ろうとする。
「ノック中佐、アダム機に損傷があります。ガベルに収容を…」
ガベルのモニターにイブが映る。
「わかった。しかし、こちらは敵艦のミサイルに手こずっている。准尉、足止めを頼めるか。」
ノックが少し落ち着いたように話した。
「了解、ハッチを開けてください。」
イブのタイタスがアダムのものと共にブリッジから離れて収容どころの側に近寄る。
「なにやってる!」収容所のメカニックが叫ぶ。
「ハッチを開けろと命令が…」
レバーに手をかけている男がギョッとしながら答えた。
「ミサイルが飛んできてるんだ、死ぬぞ!」
「強化人間が帰ってきてるんですよ!」レバーに手をかけていた方がシャッターを開く。
金属が擦れる巨大な音がして、風圧と青空が広がった。
メカニック2人は風に仰がれ、呻く。
「捕まるものは…!」レバーに手をかけていないメカニックが吹き飛ぶ。
「敵だ、うわぁ!」
入り口付近で爆発が起こり、機体が高速で通過する。
レバーそのものが破壊された。
「おい、イブ!増援だぞ。」
ヴァレンはモニターの上空を見上げながら叫ぶ。
イブは「わかっている」と返しアダムを半ば無理矢理入り口に押し込む。
「人はいない?投げ込みます!」
言葉の後にヴァレン機を投げ入れる。
振動がきて、ガベルは揺れた。
機体を囲むように管を持ったメカニック達が駆け寄る。
「近寄る前にハッチを閉めて!」
イブは叫んでエンジンを蒸し、飛んでいった。
「乱暴なんだよ…」
アダムはぼやきながら頭を抑えた。
「大尉、だから無茶だったんだよ!」
アシュクはセルヴスの中で叫ぶ。
「相手はあの鎌持ち一機…」
敵巡洋艦のハッチは破壊した。操縦桿を前に倒し、機体を突撃させる。
「敵の数が増えてる、ミサイルに着弾した機体を庇うのね。」
イブは寄ってくる一機を無視して、大破したシャキリとそれを抱えるバジーリオに肉薄する。
「こいつ…さっきの鎌持ち!」
バジーリオがのけ反りながら、機体を後退させるためにバーニアを蒸す。
「逃がさないと言ってる!」
イブは前屈みになり、機体も首から先を前に出す。
「少佐!ここからは援護が出来ない、砲撃をやめろって言ってるんだよ!」
アシュクは備え付けのインカムを取り出して、機体のスピーカーを起動する。
「艦長、増援がきました。2番ハッチも損傷しています!」
オペレーターの男が言う。
「パレード用のタイタスがあったな、あれで穴を塞がせろ、その後補強作業だ!」
ノックはそう言いながら、椅子のマイクを取り出して、作業員に伝達する。
「イブ准尉が孤立しています!」
「あれはそうやられはしない、鹵獲はごめんだ。一斉射!敵を殲滅する!」
ガベルからさらに弾丸とミサイルが飛ぶ。
「こちらはインペネスの救助隊だ、敵対の意思はない。繰り返す、敵対の意思は……」
アシュクはハッチを破壊したことを後悔し始めていた。
「くそっ、なんで冷静でいられんだ。」
「艦長、敵が通信を切り替えて何か言っています!」
「拾え」と指示をしてノックは席を立ち、オペレーターの側に寄る。
「こ…は……す……な……」
「コハスナ……?艦のことでしょうか。」
オペレーターは汗を拭ってノックを見上げる。
「こちらはアレにハッチをやられてる。要求は飲まない。」
ノックはさらに攻撃を強めるよう指示をした。
「クソっ!」アシュクはコクピット内でマイクを叩きつけた。




