05.【裏切りのその先で】
レナは視線を走らせる。
ガベルへ通信をかけるためだ。
しかしガベルはもういなかった。
「艦長…?」
マシーンのテスト中に通信をかければ、直ぐに応じていた声が返ってこない。足元の感覚がなくなり、吐き気がしてきた。
艦体が動いている感覚はしていた。しかし、それはあくまで援護が目的だと思っていた。
そもそも、レオ達が撃墜されて、それでなぜ増援の機体が出張らなかったのか。
自分を……
「あと一騎、終わらせる!」
シャキリが呟いて、雲に隠していた機体を前進させる。
「シャキリ、敵の巡洋艦を逃した。」
インペネス、シャキリ達の母艦、機銃座の兵士が左コックピットに姿を映す。
「逃しただと?」
目に見える苛立ちだった。敵機を落とすチャンスを邪魔され、この母艦は仕事をしていないからだ。
「お前達が射線にいたんだよ、好き勝手に
動き回っていたからな。」
機銃を担当している人間も苛立っているようだった。
「……そうか。」
シャキリはメットを外す。
ため息を吐いて、散り散りになった3機を一点に集めさせる。
左のモニターが切り替わり、
アシュクからの通信だった。
「大尉、敵機が離脱します!武装も解除している!」
「逃げるのか。」
シャキリ背もたれに、もたれ掛かり、最早追いかけようと言う気力も湧かなかった。
敵前逃亡を犯す女1人を必死に追いかける。
こんなに馬鹿な話はない。
「だから、戦場に女が出しゃばるなと言うのだ。裏切りも、逃亡も、駆け落ちも。常に女が事を起こすのが先なのだから。」
レナは叫びながら、機体を飛ばす。
海面スレスレを飛ぶそれは、自身の背中を曝け出し、いつ撃墜されてもおかしくなかった。
バイタルの異常を検知して、パイロットスーツの左腕から警告が流れていた。
ただここから消えたかった。
「大尉、追撃を?」
ミレンがシャキリの側に寄り、
機体を乗り出す。
「機銃の人間にやらせろ。くだらない。」
シャキリはマシーンの中央のメインコンピューター部分を動かして、機銃担当に通信をする。
「敵機逃亡、数は1。繰り返す、敵機逃亡、数は1。誘導ミサイルを要請する。」
「了解、珍しいな。」
機銃の男がそう言って、インペネスの腹部辺りから音と煙を上げて、ミサイルが射出された。
海域で爆発が起き、それは海面を荒らして、高波が起こる。
「敵機撃墜、殲滅完了。」
ブリッジが左の小型モニターに映し出され、オペレーターがそう言った。
「任務完了。シャキリ隊、インペネスに帰投する。」
「了解。」
シャキリのセルヴスが腕を振り上げ、その後に2機が続いた。
インペネス艦長、指揮官専用の部屋には
メノクス・ハナダ大佐とシャキリが立っていた。
窓から覗かせる、海を横目に。
「シャキリ、今後あのような戦いは避けてもらう。戦術を責めているのではない、宇宙とは違うと言っておく。」
この人間の声音から叱責はない。
シャキリは視線を逸らした。
「了解いたしました。」
短く答え、敬礼を行う。姿勢は正され、ヨーロッパ圏のルーツ特有の彫りの深さと赤茶色の髪。青い瞳が自身を見つめる。
「タイタニスと合流する。逃げた巡洋艦を叩く。」
メノクスが言った。タイタニス、つまりあの男がいる。
「ガベルは離脱しました!」
アネストのオペレーターがジーネンに振り向く。
「よし、こちらに向かっているんだな。」
敵もおまけかとジーネンは呟く。
「結局、アダムは部屋から出てこなかった。
イブ、申し訳ないけれど。」
ジーネンは扉の側に立つイブに目配せをして、促した。
「館長、アダムが拒んだら…」
イブが下から見上げるように言う。
「強化し直しね。マインドコントロールは趣味じゃないけれど。」
イブは黙って俯いていた。
廊下から喧騒がする、司令室に人影が入ってきた。
「誰だ、ズケズケと!ここは…」
ジーネンが言葉を切らす。人影はアダムだった。
「アダム…。やってもらえるということで、良いのかしら?」
ジーネンが何か言いたげなイブを側に寄せて、呟く。
「敵艦が来るんでしょう。ここの人達は関係ない。」
「二人には専用機がある。作戦説明も兼ねます、着いてきて。」
ジーネンはそう言ってアダムに一瞥し、司令室を出た。
「あなた戦えるの?」怪訝そうにイブが言う。
「お前と喧嘩してられるか。」
アダムは言って踵を返した。
薄い青のタイタスとは違う、深紅のタイタス2機が並んでいた。
その15メートル級の巨体には、人が群がっている。
棒のようなものを当てて、火花を散らしているメカニック。
周囲のメカニックはジーネンと後ろに続く2人を見る。
「あれがネオ…なんとかか。つまるところ強化人間だろ。」
遠巻きのメカニックの1人がが呟いた。
「やめておけ、それは侮蔑らしい。ネオ・エンズルズだ。」
もう1人のメカニックがこちらに聞こえるように言う。
「それで帳消しにできると…」
アダムはそちらを睨む。
「アダム、聞いていたかしら。」
ジーネンがアダムを見据えた。気性が荒くなっているアダムを咎めるようでもあった。
「…すいません。」
アダムは子供のように視線を逸らす。
「ガベルは敵艦インペネスを連れてきます。そして最初に降下してきたタイタニスと合流するルートに入っていると予想される。」
「つまり時間が稼げるんですね。」
アダムの隣のイブが小さく手を挙げて呟く。
小学生かこいつは。
「ガベルをアネストに迎えてから敵艦を撃ちます。おそらく戦える状態まで持って行けているのはあなた達2人。」
ジーネンが深紅の機体を見上げる。
深紅のそれの側、
大きな銃火器の武装をクレーンで牽引され、近接武器のような、ビルより遥かに巨大そうな剣もあった。
しかし、盾が無いではないか。
「2人で戦えるのですか、それと、盾は?防御できなければ…」
アダムが少し苛立っている。
「ネオ・エンズルズは並の兵士とは違う。この機体を母体にして、直接接続することができます。それと、我々は防御手段として、
ディフェンデーレというオートディフェンス機能を機体に備えさせています。有事の際に展開されるね。盾は重量があるし、剣を見ての通り、武装は巨大よ。盾に関しては、この機体を覆えるサイズが必要になる。費用も馬鹿にならないし、これから街で戦うこともあるかもしれない。投げ捨てる訳にはいかないでしょう。」
ジーネンはもっともらしくペラペラと喋る。
それならば、空なんか飛ばずに、こんな巨体を持って戦争など起こさなければ良いのだ。
先代が起こした無責任な行為の尻拭いを、なぜ自分がしなければいけない。
ジーネンはイブの肩を持ち、イブは背中をこちらへ向ける。
自分も年頃だから、女性のそういう姿勢には
ドキリとする。
煩悩は、理不尽への怒りをかき消してしまう。
イブの背中には、パイロットスーツの裏に管を迎え入れる器官があった。
「あなたのスーツにもついている。」
ジーネンがアダムのパイロットスーツを指す。
道具にされたと再度自覚できた。
「一つ念頭に置いて欲しいのは、宇宙から来た彼らがあなた達をこうしたということ、そして私達も。」
ジーネンはそう言ってメカニックに声をかけに言った。
アダムは機体のつま先に映った自分の顔を見る。
生前と言いたくはないが、昔と遜色ない顔だった。
文章を少し書き換えてます。あまりにも読めたものではないからです。




