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第二の星で  作者: ぷりお
49/100

49.【開戦】

朝日がインペネスの格納庫を照らす。それは機体も同様であり、シャキリのアコニットはやや古びて、装甲の紫を消し、黒一色となっていた。


「シャキリ大尉、では。」

メカニックは敬礼を行い、クレーンを下げる。

茶色のシートに座り込み、コンピューターを操作する。両の操縦桿が起き上がり、モニターは外の物々しい光景を映し出す。


ヘルメットを被る、呼吸音が篭ったようになり、常時に比べて遥かに耳に届きやすい。青白いバイザーを上げて、サブモニターを操作する。アシュクとナーケルも同様に、コックピットで操作を行っていた。


「準備が出来次第、報告をしろ。」

シャキリはサブモニターへ向けて呟く。バイザーを上げると、外の景色は若干青みがかっていた。


黒い操縦桿を握る。手袋の素材のビニールがミチミチと軋んだ。

戦闘の度に、コックピット共々清掃が行われる筈だが、

その操縦桿には、大量の血がこびり付いているように見えた。



「……ルーラさん。」

シャキリはメインコンピューターの左に位置するサブモニターに小さく覆い被さるように貼られた写真を撫でる。

ガルーラ、アシュク、トーガン、ルーラとミィカが映っていた。



「大尉、発進いつでも行けます。」

マシーンの駆動音に紛れて、モニターのアシュクが呟く。

ナーケルも同様に自分達のコックピットにはない、機械を身に纏わせていた。


メカニックが搭乗したアッシスがシャキリの足元へ向かってくる。


「よし、シャキリ隊出るぞ。」

操縦桿を前に倒すと、アコニットは起き上がるように、

ハンガーからその片足を前進させた。




部屋の中でジェナの名前とメッセージが添えられたヘルメットを眺める。しかし、外が騒がしい。


部屋をから顔を出すと、クストがパイロットスーツを見に纏っていた。


「アダム、起きたか!」

クストは部屋の扉を無理矢理こじ開けようとして、アダムは急いで扉をスライドさせた。


「どうしたんですか。」

アダムは周囲を見渡す、ノア内部に聞き慣れたくはないが、そうなってしまった警音が鳴り響く。


「こないだの襲撃を行っていた歩兵部隊がこちらに向かってきているらしい。マンチェスターに駐留していた艦もおまけでな。」

クストはそう言いながら、足早に歩き出す。

アダムもその後ろに着いていく。


「お前、パイロットスーツは!」

クストは足音に気が付いて、こちらに振り向く。ヘルメットこそ抱えているが、これでは機体が動かせない。


「すぐに着替えてこい、私達は先発するから、お前もドミティアンで出ろ!」


「民間人がいるんでしょ!マシーンなんか出したら…」

ヴァレンは走り去ろうとしたクストの背中に叫ぶ。


「ジェナさん達が、朝バイセッコーで出たきりなんだ。探せ!」

クストは廊下の角へ消えていった。ヴァレンは嫌な鼓動が身体中に響き渡った。





「なぜ、歩兵部隊が我々より先発している!」

シャキリはモニター下の街を見下げて叫ぶ。


街は火と黒い煙を上げ、家は崩壊し、人より遥かに大きいアッシスの歩兵部隊が跋扈していた。民間人を追いかけ、銃火器で撃ち殺す光景をモニターは拡大する。



「アシュク、インペネスはまだ現着していないな。」

シャキリはサブモニターを開き、それはアシュクのコックピットを映しだす。


「その筈です。歩兵部隊の艦はインペネスへ付随しているから、こんな事は起こらないはずだ。」

アシュクも眼前の光景を見て、歯を食いしばる。

しかし、この街を襲っている部隊は間違いなく、自分達の仲間だった。


「ナーケル、貴様はサリー州を歩兵部隊と襲撃したんだったな!」

シャキリはナーケルのコックピットへ向かって怒鳴り声を上げた。


「えぇ、よく見ると機体のエンブレムも同じですな。」

ナーケルはモニターを下を眺めるようにして、鼻歌混じりで答える。


「そういう事だ。こいつらはサリー州襲撃から独立して、我々の命令を待たずに攻撃をしたんだ!」

アコニットは唸り、上空を舞う速度が上がる。


「大尉!」

アシュクはその黒い機体を咎めようとするが、それは視界から消えていた。横に位置していたナーケルも、それに続いて加速をかけた。


「くそ、ガルーラならなんとか出来るのに!」


アシュクは操縦桿を殴りつけ、モニター下をもう一度覗くようにして、何かに気づいたようだった。




バイセッコーは邪魔になるからと、乗り捨てて走り出したのが間違いだった。

人々が逃げ惑い、その波が自分達に覆い被さろうとしていたから、つい自分の足に頼る決断をしてしまった。

胸元のファルは怯え、泣き叫んでいて、後ろのラッキは足がもつれ、クリードはそれを支えてラッキを励ます。

ラッキの顔は泥に塗れ、涙を流していた。


何かがヒュルヒュルと音を立てて落下する。家が弾け、煉瓦が飛び散ってそれは火と焦げ臭い香りに変わる。



「こんなもの、ファルに吸わせちゃいけない!」

ファルを抱き寄せ、顔を服に押しつける。ファルは苦しそうにもがくが、この煙を吸うよりはまだ良い。

肺に煙が溜まり、嗅覚が消え、鼻はツンとした痛みを常に伴わせ、呼吸がままならなくなる。


後ろでバタンと音がして、即座に振り返る。

ラッキが再び転び、クリードも苦しそうに嗚咽を繰り返していた。


「もう…嫌。私達ばかり……」

ラッキは涙を流して、咳を伴いながら呟く。

本人は叫んでいるつもりだろう。しかし掠れるような声はジェナに届くのがやっとだった。



「ラッキ、クリード!立って!」

ジェナはそちらへ駆け寄り、片膝をつく。泥が足元にまとわりついた。


クリードは目の縁に涙を溜めて、なんとか立ちあがろうと這うが、すぐにまた倒れ込み、泥を撒き散らす。


「ジェナ姉ちゃん。こんなところでさ…死にたくないよ。あの戦艦……結構楽しかったんだ。」

クリードは目の下にアザを作り、腕を震わせていた。



「なに馬鹿なこと…!」

ジェナが手を取ろうとした瞬間、地面がズシリと揺れる。

その地鳴りは連続して、その度にジェナ達の体を震わせた。



「ひっ……」

喉の奥から音が漏れる。



街の復旧を行っていたアダム達が乗っていたものと同じ形の機体が、銃のようなものを装備して、こちらを見据えていた。




「民間人発見。」

歩兵部隊、アッシスの3機がジェナ達を見下ろす。

「こいつは当たりだな、女が2人だ。」

後ろの兵士がコックピット越しに笑った。


「男と子供はどうする。」

最前列でジェナ達と相対する兵士が振り向く。


「殺せ、そんなもの役に立たん。」



破裂音がして、煙の臭いが立ち込めた、ジェナは閃光に目をやられ、視界が真っ白に変わり、耳からは高音が発されているだけだった。


視界が戻り始めて、煙の街が再び視界に入る。

ラッキの叫び声が聴力を取り戻した耳に鳴り響く。


足元を見つめると、自分の足を掴むようにしていた腕はダラリと垂れて、血が滴っていた。


クリードの胴体に無数の穴が空いていた。


体が震えて、座り込むことしかできない。ファルは泣き叫ぶ。いつもの癇癪ではない。子供が見せることのないような顔をしていた。


ファルを支える力を失って、地面に叩きつけられる。頭を抑え、足をバタバタとさせて、泣き声はさらに強まった。


それを横目にしても、口元を抑えることしか出来なかった。


「うっ……」

上から呻き声が上がる。その機体はラッキを掴み上げ、コックピットの側へ持っていった。


「まだ青そうだが、悪くない。」

兵士はラッキの震える体と顔を見つめて、呟く。



声を上げようとした刹那、

地面に今まで感じたことのない振動が走った。



瞳を赤く輝かせ、煙と建物の間であっても、その巨体は隠れることがない。クリードを殺した兵士達のマシーンより、遥かに大きい人型の巨体がこちらへ武装を構えていた。



「お前達、タイタニスへ付随した部隊だな。なぜ我々の合図無しに街を襲った!」

その機体の瞳はスピーカーを介して出される声に呼応して点滅する。


アシュクはコックピットのインカムを持ってもう一度叫ぶ。


「答えろ!これは明確な違反だ。これが帝国に知られれば、お前達は極刑だぞ!」

セルヴスは再び瞳を点滅させ、その巨大な空洞を持つ、マシンガンを、ジェナ達の前に立つアッシスへ向けた。



「おい、あれは…」

ラッキを抱えたアッシスが呟く。

「あぁ、あれはインペネスのだな。」


兵士の1人がガラス張りのハッチを開き、スピーカーを起動させた。


「我々はサリー州から先行し、敵艦の潜むこの街を襲撃した。それをなぜ、インペネスの貴様らに責められなければならない。」

兵士は白々しく答え、苛立ったようにインカムを叩きつけた。



アシュクはモニターの前で俯く。

「俺はさ、この星に来てから人殺しばかりなんだ。少しくらい、人を助けたってバチは当たらない筈だ!」

アシュクは呟き、ガルーラの写真を見つめた。

インカムを再び手に取る。


「その民間人達を解放しろ、その後に貴様らの処分を我々シャキリ隊が下すぞ!」

アシュクは機体を前進させ、ジェナ達のすぐ前で機体を停止させた。



「死に損ないのシャキリの、虐殺部隊が偉そうに!」


ラッキを抱えた兵士は手元のそれを握りつぶした。

ラッキは叫びを上げる暇もなく、ダラリと地面に落ちる。


その機体の腕が稼働し、照準を合わせ、ジェナの側の

ファルの胴体を撃ち抜いた。

小さな体はもがくのをやめ、力を無くしたように動かなくなった。



モニターがその2人の姿を拡大させた。腹の底から熱いものが込み上げる。


「貴様ぁ!」


セルヴスの腕が振られ、その兵士をアッシスごと壁に叩きつけた。兵士は機体に塗れて爆発し、その建物は音と地鳴りをあげ始める。



「そこの女性だけでも解放しろ!お前達も殺すぞ!」

アシュクのセルヴスは上昇し、マシンガンをアッシス2機へ向ける。

息が荒くなり、腕が震える、恐怖ではない。今すぐにこのマシーンに乗る2人を殺したい。




ドミティアンのモニターにジェナの顔が拡大される。

「見つけた!」

ヴァレンは叫んで、屋根の上を駆け抜ける、

敵のセルヴスがジェナへ向けて銃口を構えているのが見えた。



建物の影で、そのアッシスは確かに青髪の少女の頭を潰した。4人いたはずの民間人は皆殺しにされた。

モニターはセルヴスのメインカメラを通じて、その一部始終を全てアシュクに伝えていた。


アシュクは叫びながら、操縦桿を血が滲むほど握り倒す。

セルヴスのマシンガンが斉射され、辺りは爆発に包まれた。



「ジェナ…!」

ヴァレンのドミティアンはその光景を映し出す。あのセルヴスが、ジェナのいる空間を爆破した。あの機体が、

ジェナを殺した。



ヴァレンのヘルメットには、ジェナ・ジェイミールの筆記と、また一緒に月と海を見たいとメッセージが書かれていた。










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