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第二の星で  作者: ぷりお
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実証演習

「では、新型兵器の実証演習を始めます、総統。」

複数のモニターと、コンピューター、測定器に囲まれた真っ白な部屋で白衣を身に纏った男が振り返る。

それぞれのコンピューターに人が配置され、忙しなく人が行き来をしていた。


その男の後ろには、全面が空間を覆うような宇宙を映し出していて、真下には所々穴が空いたような灰色の地面。その大地に白色の基地が聳え立っていた。


「よろしく頼む。」

ガラスと緊急用のシャッターに包まれた部屋で、セリウスの声が響く。

セリウスの半歩後ろには、シュタイン・アーナーとラッカドーの姿がある。


白衣の男はコンピューターへと振り返り、マイクを手に持つ。



球体のようなコックピットの、小型のモニターが起動する。

白衣の見慣れた男性が実験開始の合図を送った。

後ろには軍服を見に纏った大人達。


「アリス・フェア・ライリス、出撃だ。シュミレーションの時と同じようにやってくれれば良い。」

白衣の男は子供を宥める医者のように優しい声音で声をかける。

後ろの軍服の人間、見たことがある月のトップの人だ。


心臓の鼓動が激しくなり、動悸が起こっているような気がする。



「主任、被験体のバイタルが。」

アリスへ通信をかけていた男はシュタインを振り返る。

その間もセリウスは、微動だにせず、ガラスに映し出される宇宙を見上げていた。


「構わない。彼女は元々そういう体質だからな。」

シュタインは呟き、手振りで催促する。


ラッカドーはその体質を説明して欲しいと感じたが、総統の前で下手な発言は出来ない。


「アリス、大丈夫だ。君は祈れば、後はファーレンがやってくれる。」

白衣の男は再びコンピューターへ向き直す。


「わかりました。ファレーン行きます。」

アリスはヘルメットを被り、バイザーを閉じる。

白衣の男は優しく頷いて、モニターはプツリと切れた。



アリスは操縦桿に手をかける。黒色のコックピット全体に赤とピンクがかった筋が入り、コンピューターが起動する。


ファレーンはそれに合わせて瞳を緑に輝かす。

足がコマ状にされたそれは、エンジンを起動させ、腕を鋭利な肩へ収納していく。


「十字架の貼り付けみたいだな。」

それを格納庫で見つめるセルヴスのパイロットは呟く。


「お前、よく十字架なんて知ってるよ。」

隣で待機していたセルヴスがその機体の肩に手を置いた。


「ファーレンが発進したら、出撃願います。」

足元のアッシスが誘導灯で合図をする。

セルヴスのパイロットはそれに一瞥をくれて、天井のワイヤーで吊るされるように牽引されるファーレンを見つめた。


宇宙空間に投げ出されたように発進したファレーンは、その25メートルの巨体と黒い機体色を宇宙に溶け込ませ、肩の先端から超音波を発生させて、鯨のような駆動音を響かせた。


「これは…」

ラッカドーは少し怯えたような顔をして、後ずさる。

実験を観測するこの部屋からでも、あの奇妙な怪音が響き渡るからだ。


「この月では海というのは模造品しかありませんが、あれは深海のそれを想わせるはず。」

シュタインは腕組みをするようにして、ラッカドーを面白そうに見据えた。


「笑い事ではないぞ…これは。鼓膜に直接来るこの感じだ。」


「地球の人間達もそのように怯えてくれれば良いですな。」

ラッカドーは小馬鹿にされたように感じて若干の苛立ちを覚えたが、ファーレンが再びその音を響かせると、再び体を震わせた。


「宇宙って、綺麗な星ばかりに目を惹かれるけど、そうじゃないんだ。」

ファーレンのメインカメラを通して映された宇宙は、暗くて、自分がどこに進んでるかもわからなくて、遠くで輝く星々は近くで輝いているようで、そうじゃない。自分のそばには決して来てくれないというのがよくわかった。


「空気が無いって、赤子に親が居ないようなものだ。」

アリスは何故か涙が流れる。ファーレンの中だけが、自分に空気という生命線をくれる。それが無機質な機体がもたらす愛に感じられたから。

ファーレン越しに感じる、遥かに離れた青い星には、緑が見えて、明かりがついていて、暖かさを持っているからだ。


「月って、なんて寂しいの。」

バイザーを上げて涙を拭う。

ファーレンはそれに呼応するように、宇宙の暗闇へ向かって鳴き声を上げる。人を恐怖に貶めたその音波は、自分以外の生命体を探しているようにも思えた。



「適応率、どうか。」

シュタインは宇宙に浮かぶそれを見つめながら、白衣の背中へ声をかけた。


「34.6パーセントです。遥かに上がっている。」

男の声は震える。しかしそれは恐怖によるものではなく、歓喜に近いものだった。


「彼女の感応と体感がもたらす、ファーレンへの信頼がそうさせているのだ。」

シュタインは呟き、セリウスへ視線を向ける。


「後は攻撃だ。それが出来れば、最早あのお飾りの少佐は必要ないというわけだ。」

セリウスは手を後ろに組むようにして呟く。

背中越しであるから、表情は悟れないが、手は小刻みに震え、声は少し弾んでいた。




ファーレンの背後にセルヴス5機がつく。


25メートルのファーレンと並ぶと、巨大であった筈のセルヴスは遥かに小さく見えた。

アリス達の前にはダミーの機体が射出され、それは編隊を組むように配置された。


「では、ミサイルからだ。アリス。」

白衣の男がモニター越しで呟く。


「はい。」

アリスは短く返事をして、両手を祈りを行うように繋ぎ合わせる。

ファーレンも肩に収納されていた腕をもって、自身の胸を抱くように交差させた。



アリスは目を開き、目の前のダミー1機を見据える。

モニター越しであるはずだが、暗闇の空間で自分はそれを確かに境界線無しで直視した。



「ファーレン、私を愛してくれるなら、あの機体を!」

ファーレンの瞳が赤く輝き、肩のミサイルポットが開く、無数に装填されているそれは、煙を上げ、ダミーを一撃で爆破した。



「成功です。」

白衣の男は爆発を確認して、呟く。

ガラス越しにも僅かに衝撃波と飛び散る破片、光が届いていた。


「では、本命だ。」

シュタインは呟き。セリウス達はそれに合わせて再び宇宙へ目線を向ける。


「アリス、良くやってくれた。次はあれを頼む。」

白衣の男が小型のモニターへ映し出される。


「わかりました。もう一度確認させてください。この後ろの5機のマシーンには、人は乗っていないんですよね。」

アリスはモニターの後ろを振り向くようにして、呟いた。


「あぁ、全てオートマティックでコンピューターが動かしている。」

白衣の男は笑顔を作って、モニターから消えていった。


アリスはそれを確認して、深呼吸を行う。

再び指を絡め、手を交差させ祈りの形を取る。

「ファーレンを通して、皆さんにお願いがあります。私を愛して、着いてきてくれるのなら…」

アリスとファーレンは再び同じ形をとった。


「おい、この機体制御が効かないぞ!」

ファーレンの後ろにいたセルヴスのパイロットの1人が叫ぶ。

同じようにパイロット同士の通信では、混乱したように叫び声が響いていた。

セルヴスの操縦桿は鉛のように重たく、コンピューターは砂嵐を起こしていた。



次の瞬間、セルヴスの1機がダミーに向けて勢いをもって投げ出され、爆発する。


また隣の機体もそれに続くように、投げ出されて残りのダミーへ特攻をかけた。


爆発の破片が飛び散り、さらに横のセルヴスは身を投げ出してファーレンを守る。


「では、残りの3機に命じます。2機は残りのダミーを片付け、最後の1機は私の危機を取り除いて、地面へ向かってください。」

アリスはバイザーを上げて呟く。

瞳にはコンピューターのコードのようなものが流れ、普段の青色から、赤いものに変わっていた。

顔つきも、先程の心優しい少女のそれではなかった。


セルヴス2機はその通りの挙動をし、最後の1機は爆発からファーレンを庇うようにして、地面へ突撃をかけて爆発した。


ファーレンの瞳は再び緑に戻り、アリスの瞳も金髪の髪色によく似合う、青色に戻っていた。

汗を流し、呼吸が荒い。ボトルを手に取って、ようやく深呼吸が出来た。

「ファーレン、ありがとうね。」

アリスは機体の操縦桿と肘置きを撫でるようにした。



「総統、彼女と機体は、概ね完成であると言えます。」

シュタインは収容されていくファーレンを眺めて呟く。


「これの実戦投入はいつ出来る。」

セリウスは答えを急かすように、シュタインへ視線を向けた。


「実証演習と強化を繰り返しますので、まだ先かと。」

シュタインは資料を部下から受け取りながら、それの何枚かをセリウスへ手渡した。


「この戦争中には投入したいな。今日は良いものが見れた。これからも頼むぞ。」

セリウスはそれを満足そうに捲り、踵を返していった。

後ろのラッカドーは汗を流し、憎たらしそうに、先ほどまでファーレンが浮かんでいた宙域を見上げた。

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