戦時下の少年少女達
戦艦ノアはイスィーズのヤックヌーと共に港に停泊させられていた。
「アダム、次はこれを。」
イブの搭乗した小型作業マシーン、アッシスが瓦礫を両手に抱えてこらちを向く。
このアッシスは操縦桿こそ普段のマシーンと変わりないが、機体の装甲は薄く、コックピットもガラス張りの簡素な物で、カプセルに手足がついたようなものだった。
「あぁ、どうも。」
ヴァレンは落ち込み加減で、それをマシーンを介して受け取り、仮置き場の瓦礫の山へ投げ入れる。
「イブ、このマシーンって帝国が攻撃に使ってたものだよな。」
ヴァレンは操縦桿を操作し、再び機体を建物と瓦礫に機体を埋めるイブに向き直した。
「これは元々地球で開発されたものだからね。攻撃を目的にされたマシーンではないけど。」
イブは再び瓦礫を取り出して、こちらに差し出す。
「ならこんなもので、宇宙に…」
自分は宇宙空間に出たことは無い。しかし、このような剥き出しのコックピットで宇宙に移住しろと言われ、放置をされたのならば月のエルガー帝国の恐怖や怒りもよく理解できてしまった。
それほどまでに、この機体の核となる自分と真空空間の距離感は肉薄していると言える。
「理屈ではわかるよ。だけど、だからって荒むなよ…」
ヴァレンは再び暗く俯いた。
「アダム、少し休んできたら。」
イブはそれを横目にして、沈黙を破る。
ヴァレンはそれに礼を言って、機体を降りるために作業場を離れた。
「やっぱり、兄さんにとても似ている。」
イブは、胸のどこかが複雑に、ウズウズとしているのを感じた。
マシーンをノアの内部に降ろし、そこから逃げるように格納庫を飛び出した。
街は人でごったがえしていて、頭を布のようなもので隠した老人や、若者、子供が手を引かれて歩いている。
肩がぶつかることなどおかまいなしに、人々は進む続ける。
「お母さん、お腹減ったよ。」
道でへたり込み、一人で泣き続ける子供。
「あの子供…」
「いや…あれは」
それを遠巻きに見つめて、ヒソヒソと何かを話す大人達。
建物は所々で黒い煙を上げていて、食事の配給も行われていたが、客同士のいざこざが絶えていない。
そして、すぐ側の台車には人の死体の山。それは交互に重ねられ、人の足のすぐ側にまた別の人間の顔が生えてきているようだった。
大人に手を引かれる子供は吐き気を催したように口を押さえ。
早く燃やしてしまえと叫ぶ大人もいる。
そして曇天の空の下、崩壊した建物には空中で爆発したマシーンの腕が、屋根に食い込んでいた。
「こんなもの…こんなの子供が見ては…」
ヴァレンはブツブツと呟きながら道の脇に座り込む。
おそらく、この地で育った子供はこのことを忘れない。
食事の時も、ゆっくりと夜風を感じながら読書をしたい時も、好きな人間のことを考える時も、常にこの喧騒と臭いと、死体の山がドロドロと頭の片隅に纏わりつくだろう。
「生きるのって、こんなに辛くなければいけないのか。」
「お兄さん、そんな所に座ってたら踏み潰されてしまうよ。」
女性の声がして、顔を上げる。
17歳ほどだろうか。少年少女達4人程のグループが、ヴァレンの側に立っていた。
「それなら、もうそれでいい。」
ヴァレンは視線を地面に戻す。
レンガの破片が飛び散り、下地となっていた土が姿を見せている。
あの趣ある街の形は、どこにも残っていない。
「いいわけない!」
その少女はヴァレンの腕をグッと引っ張り、立ち上がらせようとする。
その少女はヴァレンの腕を掴んで、ハッとしたような顔をする。
「腕、硬いね。」
その少女の声音は、自身の無神経さと気軽さを少し悔いているようだった。
「義手なんだ。気にしないで。」
ヴァレンは少し微笑むようにして、体の砂を落とす。
最近忘れられていた、自分はもう普通の人間ではないということを思い出した。ここから去りたかった。
「ごめんなさい。」
少女はきっぱり頭を下げる。服装はしっかりしているが、それも煤と、砂煙で薄汚れていた。髪も、青色のロングヘアーで綺麗な髪質をしていそうながらも、それもやはり汚れていて、砂と埃を一身に被っていた。
「腕硬いなら触らせて!」
4人のうちの1番身長が小さく、おそらく年齢も低いであろう男の子が、ヴァレンの側に近寄る。
「こらファル!失礼でしょ!」
先程の少女はそのファルという男の子にゲンコツをした。
その子はすぐに顔を赤くして泣き始め、後ろの14歳ほどの男の子と女の子に泣きつく。二人は仕方なさそうに頭を撫でながらも、愛らしそうにファルの頭を撫でてみせた。
「えっと、君達は…。」
ヴァレンは青髪の少女に見つめられて、ばつが悪そうに呟く。
「私はジェナです。ジェナ・ジェイミール。さっきのおチビが、ファル。そこの男の子はクリード。女の子はラッキよ。」
ジェナという女性はニコッとしてみせる。
化粧はされていないが、飾り気のなさがあるからこそ、その笑顔はとても綺麗だった。
「アダム・ヴァレンです。」
ヴァレンは片腕を差し出す。
「アダムって。とても凄そうな名前ね。」
ジェナはそう言いながら手を取る。
彼女の手は体温を保ち、とても暖かかった。




