帰還
ドミティアンのハッチが開き、俯いたパイロットが姿を現す。
「アダム、ご苦労だったな。ただ、なぜあんな…」
メカニックはヴァレンの背中を撫でるように手を当てて、そっと呟く。
「コンピューターが、補助aiがあの時なら間に合うと…言ってたんですよ。」
ヴァレンティはヘルメットを外す。顔は沈み、若干の隈と、黒く煤で汚れていた。
「馬鹿言うな。コンピューターが間違いですと言う訳がないだろう。アテにしてはならん。」
「そんなこと、今の今まで言われてこなかった。なぜ、いきなりマシーンに!」
ヴァレンは叫び掛けて、自制をかけて押し黙る。
メカニックはそれを、哀愁とやるせなさを感じながら見つめた。
「下に行きます。みんなはブリッジに?」
「あぁ、お前を待ってるよ。」
クレーンが下がっていくのを見送って、空っぽになったコックピットに視線を移す。人の名残を感じさせる座席の沈み方と、操縦桿が煤で黒くなり、強い力で跡がついていた。
ブリッジの扉がヴァレンを察知してサッと開く。
ジーネン達と見知らぬ女性達が向き合うようにしてこちらを見つめ、いたたまれなかった。
「こいつが、サウサンプトンをやった…?」
手前に居座る、緑の髪色の女性が呟く。パイロットスーツを着込み、その後ろに大柄な男性パイロットを数人引き連れていた。
「だから、それは誤解だと何度も!」
ジーネン達の側に立つ、メサイアが声を上げる。
「姫様、なぜ街を爆破されて、そう冷静でいられるのです。防衛のために戦った我々が馬鹿のようではないか!」
緑の髪色の女性が声を荒げる。机をダンと叩きつけ、メサイアの肩が揺れた。
クストやジーネン、イブ達はそれに対して鋭い視線を向けていた。
「イスィーズ、落ち着いてください。彼は街に墜ちようとしといてた機体を…」
「その証明はできるのですか?仮にでっち上げているのだとしたら…」
「ですからその説明は!」
「それでは納得できんと言っているのだ!」
イスィーズと言われた女性は眉間に皺を寄せ、怒鳴りつける。
「確かに、あの機体を爆破したのは自分です。」
ヴァレンは背筋を少し正すようにして、呟く。
ジーネン達の前に出るメサイアはそれを見てまだ何か言いたげな雰囲気を出していた。
「ほぅ、正直なのはいいがな。それが嘘かどうかが分からないと言っているんだ。」
イスィーズはヴァレンに視線を再び向ける。女性であっても、並の男では殺されてしまうような気迫があった。
「ですから、コックピットの録画を確認すれば!」
メサイアが再び体を前に出し、叫ぶ。
ヴァレンは自分が庇われているのに感謝しながらも、弁明の大半をこの小さな女性に委任していたことにひどく情けなさを感じた。
男の尊厳という名の見栄だが、男は見栄を張れなければ死んだも同然だ。
「なんとでも書き換えられるはずだ。それと姫様、前線に出られないあなたにはわからない話だ!」
続け様に、フェスター大尉はあなたに甘すぎたようだと呟く。
「なぜ、今フェスターの話が出てくるのです!」
メサイアはひどく傷ついたようにしながら、ペンダントを握る。
メサイアの肩に手を置いて、ジーネンが前に出る。
「総司令として、私の監察不足の影響が大きかった筈です。謝罪をさせていただきます。」
ジーネンが頭を下げ、クリスも悔しそうにしながら同じく。
「街の損害はどうする。復旧というのは数日で終わるものではない。人員もだ。それを潰されているのだ。」
イスィーズはため息をしながら、呟いた。
瞳は怒りよりも、哀愁の方が多く感じられた。
「まぁいい、補給を受けたいという話だったな。見ての通り、我々しか出張れないほど、この街は余裕がないぞ。」
イスィーズはヴァレンに視線を一瞬移して、すぐにジーネンへ向け直した。
「復旧のお手伝いは致します。それと…防衛も共に。」
ジーネンの言葉を聞いてから、イスィーズはフンと鼻を鳴らして、出口のヴァレンを一瞥してから、ブリッジを出ていった。
「なんで我々がこんなへりくだらないといけないのか。こんな街で油を売ってる暇はないというのに。」
ジーネン達の後ろでスタームとイブの中央のクストが呟く。
「まぁ、街の信頼を得ないと首都攻防も独りよがりですから…」スタームはクストを宥めるようにして小声で呟く。
クストを見ると、明らかに苛立っている顔をしていた。
「クスト少佐って、最初はアダム達の監視役でここに来たんじゃ。」
スタームは頭を掻きながら、ごく自然なように探りを入れる。
「今では可愛い弟達のようなものさ。」
クストは瞳を閉じて、とても満足そうにしていた。




