サウサンプトンの上
「メロー閣下。よろしいのですか。」
側近の男がドアを開く。
「構わん。あれで共倒れなら好都合で、仮に帰ってこられたのなら、奴等の情報もわかるというもの。」
「このロンデイルに部隊を集結させろ。もう時期奴らも攻め入ってくるぞ。」
「イスィーズ隊長、敵国の戦艦です。」
小型のヤックヌー級戦艦が、サウサンプトン空域に待機していた。
「フェスター大尉の行方が知れんのだから、我々が奴等を撃墜しなければならんのだな。」
イスィーズと呼ばれた女性は、パイロットスーツに着替えながら呟く。
「はっ、しかし勝てますか。あれは見たところモンテーナ程あります。」
ヤックヌーを操縦していたパイロットは冷や汗を流していた。
「勝てるかどうかでは無いだろう。このままこの辺りを焼け野原にさせておけるか。」イスィーズは踵を返す。
「モンテーナの後ろに付いてきている艦はどうしますか!」
パイロットがブリッジを出ようとしたイスィーズに叫ぶ。
「放っておけ!所属不明なのだろう。まずは帝国だ!」
イスィーズは格納庫に向かうために、ブリッジを飛び出した。
格納庫には、機体が9機配備されていた。
機体は、ニョック達のメイディーンと同じであったが、武装が槍ではなく、イスィーズのものは、ファルシオンを装備していた。
「イスィーズ中尉、出撃準備完了しております。」
8人のパイロットが並んでいた。
「よし。今までのようにフェスター大尉の援護は受けられない。しかし、我々はそれにあやかって戦果を上げてきたわけでは無いと、証明するいい機会である。」
「頼れる存在がいないからではない。いないからこそ、自分を叩き上げる機会だと思えよ!いいな、そう考える癖をつけろ!」
「「はっ!」」
敬礼で返し、それぞれが機体に移る。
「まず4機ついて来い、残りの3機は艦の援護だ。いいな!」
イスィーズはメットを被りながら、モニターへ呟く。
ヤックヌーから5機が射出され、残りの3機はヤックヌーのそばに着いた。
「中将、左から敵機です!」
先程のオペレーターの男がサラスを振り返る。
「マックス、敵だ。あの強化人間は使えるか!」
サラスはコンピューターを操作させ、人型の培養カプセルの前に立つマックスへ通信を繋ぐ。
「あと10分持たせてください。それで整備は済みます。」
青と緑の液体が入ったカプセルに、ナーケルは漬け込まれていた。
「艦体を旋回、セルヴス隊を出せ、持ち堪えるぞ!」
格納庫で怒声に限りなく近い叫びが響く。
「なぜ、アコニットのナーケルは出ない!」
セルヴスの一機が屈んだ状態から、一番槍を行うはずの黒い機体の瞳が輝いていないのを見て、メカニックへ叫ぶ。
「准尉は調整中であります。持ち堪えろと!」
「戦闘のたびに調整だとぉ。植物じゃないんだぞ!」
セルヴスは瞳を赤く輝かせ、駆動音と共に、立ち上がる。
ノッシノッシと、セルヴスは慎重に歩き出し、カタパルトへ向かう。艦は揺れていた。
「なぜ奴の盾をやらなければならんのだ!」
さらに後ろのセルヴスが開いたスペースを埋めるように歩きながら、瞳を点滅させ叫ぶ。
「つべこべうるさいなぁ!この艦が墜ちればみんな死ぬんですよ!」
アッシスの誘導員がメカニックの前に出て、発進の合図を取る。
カタパルトへ足を乗せるのを待って、5秒後にブザー音でセルヴス5機が発進した。
「ジーネン艦長、敵艦の足が止まりました!」
モニ・ラターがコンピューターに一瞥くれた後、ジーネンに振り返る。
「よし。もう一個の反応は、イギリスのものなんだな。混戦は避けたい、二人出してくれ!」
ジーネンは格納庫へ繋いだインカムで叫ぶ。
ノア内部が警報を鳴らす。
「クスト少佐、今回も自分が。」
パイロットスーツとヘルメットを手に持ったクストの背中にヴァレンが声をかける。
「いいや、今回はイブを連れていく。お前はスタームとこの艦を守れ。」
クストはメットを頭に嵌めて、機体へ向かった。
「なんで!」
ヴァレンはパイロットスーツを着た意味がないと感じた。
「お前は精神不安定気味だからな、少し休めよ。踏んでしまうぞ!」
クストのドミティアンの瞳が緑に輝き、足を大袈裟に動かす。
ヴァレンはブツクサ言いながら、自身の機体へ向かった。
「イブ准尉、行けるな!」
クストがイブのドミティアンの機体の肩に手をかける。
「えぇ、いつでも行けます。」
イブは相変わらず、派手なミサイルも武装も装備せず、ただ鎌であった。
「お前はもう少しわがままでもいいんだがね。可愛げってそういうところでも出るんだぞ。」
「はぁ。」
イブは不思議そうにしていた。齢17の子供にこういう反応をされると。自分が21ということを知っていても、なぜか歳をとった人間であるかのように錯覚してしまう。
こう、最近の若い人間というのは、会話をしていても意識が自分に向いているか不安で、食えないと感じてしまう。
これをミステリアスと片付けるのは簡単だが、それは言葉をファッションにしてしまう、現代の悪癖と言えた。
機体をカタパルトに乗せて、進行方向から真反対の勢いを感じて艦を出た。
「この感じ、本当におばさんになったみたいで嫌だなぁ。」
クストはため息をついて、目の前の破裂音で気を取り直した。
セルヴス一機が爆発して、イスィーズはそれに近づかないように、しかし蹴り落として踏み台にするかのように、機体を加速させる。
「本当にこんな奴らがサリー州をやったのか?」
前から向かってくる機体は弾を牽制の目的なのか、当てる意図があるのかがわからない。
しかも奴らは、5対5の戦いだというのに、1機に対して2機が取り付き、それを後ろから狙撃され、撃墜されるようなことをしていた。
「馬鹿と天才は紙一重だが、こいつらは出る芽もない馬鹿だよ!」
機体のエンジンが熱を持ち、加速する。
「中将!」
オペレーターの男が汗を流していた。
「マックス、まだか!」
通信先のマックスは部屋から出ようとしていて、親指を立て、グッとサインをしていた。
「能天気な奴だ全く。技術系の人間はこれだからな…」
サラスは汗を拭って、右の射出口から黒い機体が出撃したのを見送った。
「あの、黒い奴。帝国の新型だな!」
クストはメットのバイザーを下げ、操縦桿を前に倒す。
「少佐!」
後ろからイブの咎めるような声が聞こえたが、有事である。
「寄ってくるものがある。あれか!」
ナーケルの右からの索敵を察知して、アコニットもそちらに顔を動かし、瞳を輝かせた。
クストのドミティアンがナーケルの上をとるように、飛来し、小型の双刀を腰から取り出す。
クストのドミティアンは肩にミサイルポット、腰に鞘をクロスさせた双刀、そして通常の折りたたみ式マシンガン、腕の袖には備え付けのビームソードとミサイルを装填していて、ナーケルのアコニット程ではないが、物々しかった。
「貴様らは、最初にアネストに唾をかけた戦艦だな。ノコノコと月から帰ってきて、フライトのつもりか!」
クストは双刀でナーケルを挟み込むように刃を合わせるが、ナーケルのアコニットは加速してそれを避ける。
手応えがなく、破裂音だけが響いていた。
「避けたのか!」
ーー警告音ーー
後ろの悪寒に従って、機体を平行のまま上昇させる。
「こいつ、避けた!」
ナーケルは叫び、アコニットの左のスーパーバレルが煙を上げていた。
クストはすぐさまに、その弾道の余波が残るスペースへ機体を飛び込ませ、その煙に沿って、機体を加速させる。
「攻撃をした場所には再攻撃は来ないってか!甘いよ!」
ナーケルのアコニットも槍を袖から取り出して、突撃する。
ドミティアンは双刀をクロスする形で槍の軌道を逸らし、顔を背けて、急所をさける。肩の装甲が僅かに削れた。
「お前達は、月で餅つきでもしてればいいんだよ!」
アコニットの脇腹を蹴り上げ、槍が離れたのを確認して、左腕を振り下げる。
また機体は加速して、手応えがなかった。




