火の街
「街の方にも行ってみるか!」ヴァレンが振り向く。
「でも勝手に…」イブはハッとして、呟く。
「良いんだよ!」と言いながら、ヴァレンはバイセッコーを街に走らせた。
「サリーの街は良いとこよ。」
高貴な服装でありながら、ラフさも感じさせる服装の女性が風を感じながら、呟いた。
煉瓦造りの屋根と、真っ白な家の外観、黒の装飾が上品に施された扉は、洒落ていて、歩道沿いに設置されている赤い電話ボックスも景色に華を持たせる。
「メサイア様、メロー様の偵察の付き添いという形ですが、あまり長居はされず。」軍帽を目深に被った大柄の男が、黒い車を背に呟く。
「わかっています。少しの散歩も許されないのですか。」
メサイアは釘を刺されたようにする。
「姫様、しかし…」
言い掛けたところで、近くの建物が爆発を起こす。
穏やかだった街が一瞬で恐怖に包まれる。
カフェに座っていた老人達は、立ち上がり、周囲を見渡す。
次はそこで爆発が起こった。
太陽を遮る、巨大な戦艦。
モンテーナ級、タイタニスだった。
その後ろのやや小さい戦艦から、コックピットに乗っている人間がガラス越しで確認できる。小さめの機体が数機地面に降り立つ。
「アッシス歩兵部隊、行くぞ!」
1人の男が叫び、手に持つ銃火器で家や道路が破壊され始めた。
「姫様、早く車へ!」
軍人の男がメサイアの腕を掴む。
「やめて!」メサイアは手を振り払って走りだした。
「狭い部屋で姫様姫様と、私は姫様っていう鳥なんだわ!」
メサイアは涙を拭ってペンダントを片手で握る。
「ダッケル、助けに来て…」
「おい、逃げてる女の人いるぞ!」
ヴァレンが後ろのイブに叫び、その女性へバイセッコーを走らせる。
タイタニスの右側のハッチが開く。
ブリッジのマックス大尉は格納庫へ通信をかける。
「ナーケル…聞こえているな、出撃だ!」
モニターの端にマックスが映って、アコニットの電源が起動する。腕、足、脳波による頭部のコントロールのための管がそれぞれ接続される。座席からは従来の操縦桿も用意されているが、必要ない。
「では、私はアコニットでいかせてもらう。」
ナーケルは最後の、座席後頭部に用意されていた大型ゴーグルを装着する。それは円形で、頭を丸ごと隠して、一本の赤い線を光らせる。アコニットの瞳も、同時に赤に輝いた。
ー「ナーケル隊、発進用意、繰り返す、ナーケル隊発進用意」ーー
そのアコニットは武装と外装を従来のアコニットに比べ増加させ、肩は丸みを帯びて、無数の穴が空いていた。両腕にシャキリ機の折りたたみ式ガトリング、肩には大型大砲のスーパーバレルを装備していた。そして腰には大型の剣を折りたたんでいて、無論、腕の袖の槍も無くなっていない。エンジンは2倍に拡大され、管が腰にかけて通り、アコニットの全長は17メートルであった。
「ナーケル准尉、貴方が先発なさって、我々は後から続きます。」セルヴスに乗ったパイロットがナーケルに通信をする。
「わかっている。お前達が出る頃に、街の人間は死んでるよ。」
ズシンと、カタパルトに足が乗せられる。
アッシスの誘導で、もう片方の足も同様にした。
「セルヴス隊、今回は初めての実戦だ。何かあったら、頼むぞ。」
マックスが小さく呟く。
「了解、元テラーストュートの人間ですからな。」
「そういうことだ。」
ブザー音と共に、ナーケルのアコニットが出撃した。
「あの黒い奴、帝国の新型!」
サリーの街に入っていたクストは叫ぶ。
「くそ、お茶したかったのに!ヴァレンとイブはどこいった!」
「イブ、あれ新型じゃないか!」
空には、あの帝国の黒い機体が空中に留まっていた。
「前見て、さっきの人!」
イブが後ろから顔を出して叫ぶ。
その女性は転んで泣いていた。
「なんて運の悪い人!」
ヴァレンは近寄り、肩を揺する。
服装は、白と青を基調とした服だが、煤に塗れていた。
「大丈夫ですか?立てますか。」
ヴァレンが女性の腕を持つ。
イブは少しモヤっとした気持ちになる。
「ナーケル、何をやってる!」
マックスから通信が来て、怒声が浴びせられる。
「ホーミングレーザーを使おうというんだよ!」
アコニットの丸まった肩の無数の穴が、紫色に発光し始める。
「違う、敵が来ているんだ!ナーケル!」
コックピットが真っ白に輝き、機体が落下していると理解した。
アコニットはオートディフェンサーを展開して、黒い煙を上げたが、傷を負ってはいなかった。
「牽制だな。洒落臭い!」
コックピットでナーケルが視線を動かそうとすると、アコニットがそれに合わせて首を動かす。
斜め上から、小さい艦が2隻。
「ニョック隊長、あれは帝国のものです!」
ジーネン達を追っていた、ニョック達のガディヨットー艦隊だった。
「隊長、やりますよ!」操縦担当が振り返る。
「当たり前だ、賊を逃した汚名を奴等に叩きつけてやるんだ!」
ニョックは格納庫へ入る。
「メイディーン出るぞ!」
狭苦しそうにしゃがんで畳まれていた機体は起き上がり、ガディヨットーの尻のハッチから顔を出す。
装備は相変わらず、巨大な槍と盾だった。
2隻のガディヨットーからメイディーン3機が飛び出す。
「ニョック隊長、先発致します!」
後ろの2機が、前にいたニョック機の肩に手を置く。
「頼む、高度を上げて奴らを空に誘き出してくれ!」
2機のメイディーンは加速をかけ、アコニットへ向かう。
地上をモニターから覗く。
「酷いな、良い街なんだが。」
「あの黒いのは、バイセッコー?」
モニターを拡大させると、男と女。それと、
「あれは、メサイア姫様じゃないか!」
「イブ、メサイアさん。しっかり捕まっててください!」
ヴァレンが後ろを振り向く。
イブは後部座席をメサイアに譲りヴァレンの背中にガッツリとくっついていた。
心なしか、顔が少し赤く、鼻息が荒い。
「大丈夫ですか?煙、あまり吸わない方がいいわ。」
メサイアが心配そうにイブに声をかける。
「いえ、ご心配なく。」
バイセッコーが止まった。
地面が揺れる。
目の前に、小型のマシーンに乗った、迷彩柄の服とヘルメットを被った男と目が合う。そのマシーンは家の一階ほどの大きさで、銃火器を武装していて、コックピットは丸型のガラス張りでありしっかりとパイロットが確認できた。
「民間人がいた、殺すぞ!」
そのマシーンは銃を構える。
次の刹那、そのマシーンは爆発で弾け飛んだ。
中にいたパイロットもバラバラになり、血が黒く焦げたマシーンに飛び散る。
ヴァレン達は風圧で目を細めた。
マシーンが地面に降り立つ。ドーバー海峡で交戦し、自分達を執拗に追っていたものだった。
コックピットが開き、中からパイロットスーツとヘルメットを見に纏った男が現れた。
「やっぱり、人が乗ってるんだ。」
ヴァレンは呟き、イブはそれに複雑そうに俯いた。
「やはり姫様だ!メサイア様、私です。ニョック・ナックです!」その男は機体のハッチである胸の辺りから体を乗り出し、有線マイクを介して、叫ぶ。その声はマシーンのスピーカーを介して響き、言葉を発するたびに機体の目が緑に輝く。
「ニョック!」メサイアが後ろから叫ぶのが見えた。
「そうです。ダッケル大尉の部隊にいましたが、辺境へ送られてしまったニョックであります!」
「ニョック、街には帝国の兵士が蔓延っています、あなたの部隊では!」
「ご心配ありません。さぁ、私の機体の手に乗ってください!」
ニョックは機体の胸に入り込み、ハッチを閉じる。
機体が息を吹き返したように、手をバイセッコーへ向けた。
「ニョック、私はもうあそこには戻りたくありません。自分でダッケルの生死を確認するのです。」
メサイアはペンダントを握りながら叫ぶ。
「姫様、メロー閣下が心配なさります。早く!」
「あなたは、なぜ自分がダッケルの部隊から外されたか気にならないのですか!あれは、あれは全てメローとフェスターの画策です!平民の生まれの貴方たちを、部隊から排除しようという!」
メサイアは再び涙を流す。
「フェスター様が?フェスター様は私に良くしてくださいました。彼に限ってそんな…」
「いいえ、彼は自身の生まれを笠に着て、あなた達を排斥しようとしていました。だから…ダッケルも苦しんでるはずよ。」
「姫様……!」砕け散った機体が家に墜落し、機体の腕や足が飛んでくる。
風圧を、ニョックという男の機体が盾を構えて、防いだ。
「これは…先発した、ラッタングのものか!」
ニョックの機体は立ち上がり、メサイアを振り返る。
「姫様、ガディヨットー1隻を南の森へ向かわせます。それに乗って、首都へ!」
轟音と熱を持って、ニョックの機体は上昇した。




