トニトルス作戦
エルガー帝国 首都リンベール
官僚達が集まる灰色の無機質な要塞が首都の中央に位置し、その周りを、白を基調とし、金色の装飾が所々に施される建物が囲んでいた。
軍服を着て、勲章をこれ見よがしに貼り付ける人間達を押し退け、1人の男が軍令部に向かう。
名を、ラッカドー・リッテ、セリウス・ハルトをトップとした、その下の4人のうち1人の幹部であり、エルガー帝国の軍ではセリウスを除いて、頂点といっても差し支えなかった。
軍令部は簡素なドアで鉄作りであり、まるで牢獄の造りのようだった。
「どうだ、戦況は。」ラッカドーがコンピューターを眺めている軍服とマイク付きのヘッドホンを身につけた男の肩に手を置く。
「はっ、マンチェスターのインペネス、メノクス大佐からでありますが、イギリス戦線は全て異常なし。マンチェスターでは適性検査が予定通り行われます。また、バジーリオ少佐を中心としたボト級艦がレディングを壊滅。全て良好であります。」
機械のようにツラツラと。
「そうか。私は総帥にそれを報告する。貴様は報告書の作成にかからせろ、いいな。」
呟いて扉を強く閉めた。
タバコや、談笑を楽しんでいた軍人達がこちらを見て、自分の顔を見てすぐに視線を逸らす。
「ふん。兵士を駒にして、我々はそれでこのバッジが増える。お笑いだな。」
全て異常なしなどありえん。イギリスはテラーストュートでさえ手をつけていなかったと聞く、それをこうも簡単に攻略できるものか。そして総帥は、イギリスを領土にすれば、次の国へすぐ向かわせるはず。これでは艦の統率も、補強物資も間に合わん。
この国の動き、旧世紀ドイツのきな臭さを感じさせる。個人の責任が、そのまま自身の尊厳と直結するとも知らずにこの国の国民は政策に関心を示さない。そもそもこの組織もそうだ。
「多人種を謳っておいて、この要塞にいるのは我々白人だけだ。」
ラッカドーは呟く。
エルガーの国旗が貼り付けられた扉の前に立つ。姿勢を正して、扉をノックする。
「総統閣下、イギリス戦線での報告がございます。」
暫くして、「入れ」と声が掛けられる。
部屋に入ると、狭苦しい上に窓がなく、モニターとホログラフィックで地球の全体図とイギリスを現した地図が展開されていた。
「イギリス戦線のマンチェスターはインペネスが治安維持を勤めています。レディングは、バジーリオ少佐率いるボト艦隊が殲滅を行ったとのことです。」
「では、レディングは我が国の領土なのだな。」
椅子に座ったセリウスが見上げる。
「はい。しかし、あそこはビーム兵器による汚染があります。暫く時間を置かなければなりません。」
「このままいけば、首都を落とすのは容易だな。イギリス独自の部隊は、我々の敵でないことがわかった。」
「はっ、しかし、全て異常なしとのことですが、現地兵達への物資補強の必要を認めます。」
ラッカドーは帽子に顔を埋め、影が掛かった瞳を向ける。
「それはお前の意見か?ラッカドー。」
セリウスが初めて視線をこちらに向けた。
「はっ、全て異常なしと言っても、次の作戦のために物資は必要かと。汚染の件もあります。」
「必要ない。なぜなら現地の報告は全て異常なしだからだ。ラッカドー、全て良好なのだ。」
「では、タイタニスに付随させる補給艦を増加させるべきかと。あの艦には初めて実戦へ投入される強化人間がいますから、艦の負担が増えます。」
ラッカドーは呟く。
「いいだろう。ボト級を2隻つけさせる。それとだ、ラッカドー。私は新しい作戦を思いついたぞ。」
セリウスは紙を取り出して、その書面をラッカドーに向ける。
「インペネスやストラッズに全ての都市地域の支配をいちいち任せてはいられない。そこでだ、先ずこれまで通りバジーリオ少佐やインペネスに都市の主要施設破壊と敵マシーンを殲滅させる。その後、武装をしたアッシスに乗り込ませた歩兵部隊を派遣させ、細かい殲滅を委任する。これによってインペネスやバジーリオ少佐は、そこに留まる必要なしに他の地域の進行を進められる。これをトニトルス作戦と名づける。どうだラッカドー」
セリウスは若干得意げな顔をしながらラッカドーを見上げる。
「しかしそれではさらに部隊の連携が…」
「既に帝国からの出発準備をさせているタイタニスに、その歩兵とアッシスだけを乗せたヤックヌー級艦を3隻付随させている。そしてその艦隊は先ずマンチェスターへ、向かい。インペネスやストラッズはマンチェスターから離脱する。決定した。報告を頼むぞ、ラッカドー。」
セリウスは言ってから、手を振る素振りを見せる。
ラッカドーを出て行かせた。
「これでは素人のやることだよ。」
扉を閉じて、ラッカドーはその紙をクシャクシャにしてタバコに火をつけるために使う、ライターで燃やす。そしてそれの火が消えるのを待って、ゴミ箱に投げ捨てた。




