地球へ降りた天使達。
ーーラッツェル機、バジーリオ機収容完了ーー
アナウンスが流れ、ボトの格納庫が閉じられる。
「絶対にメットのバイザーを上げるな、消毒が終わってもだ!」メカニックの男が、予備のパイロットスーツとヘルメットを身に纏いながら叫ぶ。
普段は比較的ラフな格好で仕事をする彼らも、この瞬間は全員がパイロットスーツを見に纏っていた。
そのうちの数名は防護服を見に纏い、電動の噴霧器を装備していた。
「こんな物で消毒が行えるのか!」
アコニットの側のクレーンを使って、下がりながらラッツェルが叫ぶ。
「気休めですが、無いよりはマシですよ。」
1人のメカニックが足を止めて呟く。ヘルメット越しで声が篭っていた。
「我が帝国が気休めだとぉ。」ラッツェルは大層不機嫌そうな顔をして、クレーンから降りる。
バジーリオのセルビウスの周りに、メカニックが集っていた。
「少佐、開けてください!ハッチの不調ならスピーカーでそう言ってくださいよ!」
メカニックの1人がコックピットのハッチを叩く。
セルビウスは胸の装甲こそ外れて、上に上がっていたが、肝心のバジーリオがいるコックピットは開かなかった。
「何をしてんだ少佐は!」1人が苛立ったようにコックピットを殴りつける。
「何を苛立ってるんだ!緊急用のボタンを探せ、それで開く!」
上にいたメカニックが叫び、胸のふもとまで降りてくる。
カバーがされたボタンが押され、ハッチが煙を上げて開いた。
「少佐、生きてるな!」2人がかりでバジーリオの両腕を抱え、クレーンを下げた。
「少佐、放射線にやられちまったのか。」
バジーリオの横顔は、メットのバイザー越しで、瞳が虚で、視点が定まっていないようだった。
すぐに防護服を着た医者が来て、バジーリオの顔を上げさせる。
「瞳孔を確認します…。」
そう言いながら、バイザー越しに瞳にライトを当てる。
暫くして、「問題ないなと」呟き、ライトを当てたまま人差し指を上げるポーズを取る。
「少佐、これが何本かわかりますか?少佐!」
「出力を……出力を見誤ったんだ。…違うんだ。殺したいんじゃないんだ……」
バジーリオはブツブツと呟いて、心ここに在らずの様子だった。
「どけ!」ラッツェルがメカニックと医者を押し退け、
バジーリオを殴り倒す。
ドタンと音がして、頭も庇わずバジーリオは倒れ込む。
「大尉、なにをやってんだ!」部下のメカニックが絶叫する。
「こいつだ、ビーム兵器を使ったのはこいつだ!シャキリ・シャクティはまだ良いさ、あいつはマンチェスターの民間人を皆殺しにして、平気にしてんだからさ!なのにこいつはウジウジと!」
ラッツェルは青筋を立て、息の荒さでメットが曇り始めていた。
「ヘルメットを被った人間を殴らないでください!ガラスが割れて目に入るよう可能性があるんです、そんなことわかりきってるだろ!」
男はラッツェルの胸ぐらを掴んで叫ぶ。
ラッツェルはそれを乱暴に振り払い、機銃の座席に向かう。いつまで経ってもボトが離陸しないことを疑わしく感じたからだ。
「ラッツェル大尉はどうかしてるよ!何かあったらすぐ暴力だ!」メカニックの1人が耐えきれないように叫ぶ。
「あれで25なのだからな。バジーリオ少佐の5歳上なんだぞ。」もう片方の男がバジーリオに肩を貸し、呟いた。
ラッツェルは機銃の操作桿とガラス張りの1人用の座席に着く。
下を見るとボトに人間が集っていた。
「やはりだよ。ここの民間人、このボトに乗り込もうってんだろ、火から逃げたくてさぁ!」
ラッツェルは叫んで通信を繋ぐ。
「こちらラッツェル、民間人がボトの腹回りに張り付いてる。引き剥がすぞ!」ラッツェルはボトの操縦席に向かって通信をした。
「大尉、しかしこの民間人達は……」
ボトのパイロットは呟く。
「有事である。この機銃でこいつらを皆殺しにすることなど、造作無いよ!シャキリもやってんだろ!」
機銃が左右に動き、弾丸を発射する。人が逃げ出し、逃げ遅れた人間は血を吹き出して倒れていく。
「うっ……!」ラッツェルは吐き気に襲われる。
「吐くな、吐いてしまったら、バイザーを下げたこのメットでは菅に吐瀉物が回って窒息する。」
ラッツェルはブツブツと呟きながら、機銃の光の先を見ていた。
「なんて息苦しいものなんだ、このヘルメットは!
宇宙では、宇宙では違った。こいつは、こいつは宇宙では違ったのに!」
ラッツェルは瞳から涙を流した。
「ラッツェル大尉、離陸します!」
先程のパイロットから通信が入る。
「言う前にやれんのか!」涙をそのままにラッツェルは叫んだ。
インペネスの廊下をシャキリはフラフラと歩く。
「また、また殺さなければなのか。」
ブツブツとつぶやいて、暗い廊下で瞳は光を失っていた。
メノクスが言ったあの言葉。
明日に行われる適性検査の概要説明。
「明日の適性検査では、3%以上を優秀者として、帝国へ送還を行う。そして、総帥は、3%に満たない者、赤子、10歳以下の子供、老人の全てを一箇所に集め、我らのシャキリ隊でそれらの抹殺を行えと命令なさった。」
ガルーラは震えながら座席を立ち、会議室を飛び出した。
アシュクは顔を覆い。トーガンは視線を落とす。
「ルーラと言ったか、あの女。それと、まだガキの方が……ミィカ。」シャキリはトイレに飛び込み。
廊下で嗚咽が響いた。




