襲来
「バジーリオ少佐、言葉通り汚名返上だ。敵が飛び出してくる。貴様は小隊を率いて敵を迎撃しろ、評判の実力とセルビウスの性能を見せてもらう。あれは我ら帝国の最新鋭試作機だからな。光栄に思えよ。」
手元のタブレットを置きながらサラスは言う。
「はっ、この栄誉に預かり、帝国に貢献させていただきます。」
暗い照明の個室で、バジーリオが小気味よく
踵をカッと鳴らす音が響いた。
「ナーケル中尉じきじきに出撃なさるのですか?」
新型のすぐ側にある、降下してくるクレーンから声が聞こえる。
「ああ、このマシーン、タイタスの力を試したい。この背中の反重力エンジンが、重力下での飛行を可能にするんだろ。人類の新しい可能性そのものだな。」
ナーケルが見上げるそれは、眩しいぐらいの照明に照らされ、15メートルほどあるだろうか。鋭利な角を持ち、肩は丸く、瞳は緑。人型であっても、それは神話の巨人を連想させる。
そんなものが、この格納庫ではそれが10機もあるというのだ。
「中尉、関心なされるのはそこまでにして、出撃しましょう。」
ナーケルの後ろから部下スタームソヨラー少尉が言った。
眼鏡をかけ、髪色は青く、おかっぱのような髪型をして、ヘルメットを脇に抱えていた。
「わかったよ少尉。ここの女館長に、我々の力を見せつけるんだ。シスメ・マイコン中尉もいけるな!」
ナーケルがメットを被りながら声をかける。クレーンの上昇ボタンを押す。
それは駆動音を響かせ、エレベーターのように上昇していく、高度を取り、若干の緊張と武者震いが起こる。胸元のハッチは開いているが、そのさらに上、首の先にある顔と瞳は、自分達を操るに足る人物であるかを見定めているようだったからだ。
「所詮、マシーンの筈だ。」
汗を拭い、ヘルメットのバイザーを下げる。
視界が青白く染まる。
「ナーケル中尉、こちらいけますわ。」
そう言いながらコックピットに入っていくのはシスメ・マイコン、地球のエリート財閥でタイタスの操縦にいち早く取り付けたため、実力はナーケル以上と噂されている。
しかし、自分とて、女の尻を追いかけるような男であるつもりはない。
アナウンスが流れ、それはコックピット越しにも。
ーー敵機補足。数は3繰り返す……ーー
出撃ハッチのランプが赤く輝き、それは警告音に変わっていく。
それを遮るようにナーケルはハッチを閉じる。
新品のシートと僅かな金属の香り。
座ってみると中央のメインコンピューターが起き上がり、左にサブモニター、右には索敵、脱出、その他の機能を持つモニターが展開され、座席の肘置きから派生した操縦桿が二つ立ち上がる。
「モニター起動は…これか。」
メインコンピュータを操作する。
白く、ただ白い。広い空間に、慌ただしく動くメカニックと誘導員が映し出される。右にはスターム機、左にはシスメ機。
「背面にもモニター?ハハッこんなもの見る余裕があるのかよ。」
シート越しに映される後ろの背景を見てナーケルはぼやく。
左のサブモニターにシスメのコックピットが映る。
「中尉、準備はよろしくて?」
シスメはそのピンクの髪をメットに仕舞い込むことに苦戦しているようだった。
余裕があるのは良い。しかし、これを見せつけるために繋いできたのなら。
「問題ない、スターム!出れるか。」
シスメのコックピットがプツリと切れて、
遅れてスタームが映し出される。
「問題ありません。敵も侮れませんから、慎重に行きましょう。」
「ふん。」
ナーケルがレバーを前に倒す。
15メートルある機体が片足を上げる。
ズシリと重たい音がして、振動がくる。
基地が崩れないことはわかる。
しかし、これほど巨大なものが意思を持っているように見えれば恐怖を持つのは必然だろう。
メカニックから汗が滴る。
「カタパルトはこっちです。オーライ!」
誘導灯を灯したメカニックがナーケル達に通信する。
足元には、先程自分達の肩ほどの身長だった人間が、豆粒のように動いていた。
ズシリ、ズシリと機体はカタパルトへ向けて歩いていく。
武装だけでも、家屋以上の大きさ。
「落とさないでくれよ。」
遠巻きに眺めていたメカニックが呟く。
足元に幾つかの人影が走った。
「下に潜り込むな、邪魔だよ!」
後にメカニックの怒声が響いた。
「何やってんだ。」
ナーケルが失笑気味に吐き捨てた。
「よし、射出準備完了、発進だ!」
メカニックの男がそう言いながらレッカーに乗り退去する。
ーー3機発進用意……ーー
カタパルトに片足をはめる。右のサブモニターが逐一、機体の足元の映像を映し出す。
ハッチが開く。孤島であるから、視界の先は全てが青い。上も下もだ。太陽が海を照らし、空では雲が動く。自分もそれの、仲間入りを果たせる。
ブザー音と共に、ナーケルは座席に押し付けられた。
「これは……!」
旧世紀の戦闘機と比べ、パイロットへの負荷は遥かに軽減されているという。それでこの圧力と質量。
座席はガコン!と唸り、機体は海をスレスレに飛んでいた。
イルカだろうか、魚が飛び跳ねている。
機体のバーニアに熱を持たせ、一気に上昇。
ピッピッとコックピットに音が響き、後ろを振り返ると同じマシーンがアネストから射出されていた。
「ナーケル中尉?ボサっとなさらないで。」
シスメだ。その声に合わせてタイタスの瞳は緑に点滅する。
「スタームとお前を待っていたんだ。いくぞ!」
暫くして、3機のマシーンが上昇してくいのが、アネストのブリッジに映し出された。
ジーネンが駆け込む。
「ナーケル達は!」
「今発進しましたが…」
モニターに向かっていたオペレーターが振り返りながら言う。
「死にに行くようなものよ」
ジーネンが俯きながら言った。
ナーケル隊出撃の数分前―
「バジーリオ少佐、まずは先兵で敵の出方をみる。おそらく、敵も数を合わせるだろう。敵の機体も試作機だな。」
艦長代理であるマックスラプター大尉がモニター越しに言う。
「了解した大尉。私は後から出る。慎重に行くべきだな。」
バジーリオがモニターに言った。
機体のセルビウスの操作を停止する。
セルビウスはタイタスとサイズは変わらないものの、武装が多く。角は2本であり、肩も鋭利であった。
「あぁ、頼む。バイザーは下ろしておけよ。」
「了解。宇宙でないからと言って、万が一のことがあってはな。」
バジーリオはヘルメット下部のボタンを押し、クスリと笑う。
マックスも同じようにして、通信が切れた。
左のモニターに、また別の通信が入る。
次は機体のコックピットが映し出された。
「では少佐、お先に。」
スレッグだ。同時に前のセルヴスがバジーリオのセルビウスを見据えている。
セルヴスは帝国の量産機であるが、体長はセルビウスより少し大きいだろうか。この機体と同じ、瞳は赤だった。
「お前達は地球での実戦は初めてか。いつもの要領で頼む。」
バジーリオがパイロットスーツの手袋をはめなおしながら、左の小型のモニターへ視線を落とす。
「はっ。」
スレッグの通信が切れる。
スレッグ・サラバー少尉は人望で階級を上げた、家族の息子が徴兵されることを避けるために自身が出兵し、この戦艦の一番槍を担い続けた。
優秀で賢い男だ。
そして、人望だけでない、実力もある。
こういう男は失いたくない。
地球降下直後、タイタニスから無断出撃をした3機は、街を襲い、撃墜された。戦争では理性が重要であると、我々に知らしめてくれた。
「無益な人殺しだった。民間人の街を襲うなど…」
バジーリオは苦虫を噛み潰したような表情をした。
セルヴス達より遥かに小さい、アッシス搭乗の誘導員が指示を出す。
ーースレッグ隊、発進用意。少佐はそのままお待ちください。ーー
タイタニスにアナウンスが入る。
ハッチが開き、雲が絨毯のように広がっている。宇宙以外での出撃は初めてだ。いつもの光景ではない。宇宙では、常に暗く。体は地に足がつかないで、所々輝く星がかろうじて見える程度だった。しかし、この星は違う。雲を突き抜けた先には、永遠の青と、太陽が待っている。しかし、この星の人間は、その先、青い空のさらに先を飛び越えた瞬間。地球の慈悲を受けられない、完全な孤独を味わうということを知らない。だから……
ーーカウント開始。3、2、1 ーー
ブザー音と共に3機が降下を開始した。
「これはすごい!!戦闘機が人型になったみたいだ!」
gを全身に感じるが、苦しくはない。
緊張感を保たせるには良い圧力だ。
なにより、雲を突き破る感覚と、この青い空。
「スターム、はしゃぐのは敵をやってからだ。」
「そうですわ慎重にと言ったのはあなたでしょう。」
そう言いつつもナーケル含む全員がこの機体性能に酔いしれた。
右下の小型モニターで警告音が鳴る。
「ナーケル中尉、敵の反応です!」
「よし、やるぞ。海に叩き落としてやる。」
ナーケルが呟き、背伸びをするようにしてから、再び操縦桿に手をかけた。
「ゴメス、ナタール、お前達も家族がいたな。ナタール、お前に関しては今度子供が生まれるんだろう。地球にいる人間には悪いが、早く終わらせて無事に帰りたいな。」
スレッグがモニターに声をかける。
「少尉は生きて帰れます!実力もそうですが少尉は…」
光が迫って、ナタールが弾けた。
「敵機だ!」
スレッグが俯きながら腰に装備したマシンガンを持つ。
両の足を乗せたペダル、その下のモニター。
緑の線で囲まれた。雲の下に隠れる敵機。
「スレッグ少尉どうすれば!!」
ゴメスが叫ぶ。その声は突然の友人の死を受け入れられず、半泣きだった。
「本艦に応援を、バジーリオ少佐に応援だ!」
スレッグは叫ぶ。
「人類が宇宙に出なければ…」
スレッグはヘルメットへ手をかけ、バイザーを下げる。先程まで自身のコックピットと瞳を焼こうと照らす太陽は、一気に意識の外へ向いていった。
操縦桿を握る手が震える。
「少尉!本艦に繋がりません!少尉……!」
戦闘機のような風切り音と、金属が切断される、嫌な音。
その後に凄まじい爆発
スレッグは爆発に巻き込まれないよう、機体を加速させ、雲を突っ切る。
敵のタイタスの剣がゴメス機を両断した。
空で1人になった。しかし、こちらは宇宙を飛び回った艦隊だ。
「伊達ではないと、あの2人の名誉のために証明する!」
敵機から背を向けていた機体を、くるりと翻す。
加速をかけるために、機体を回転させると、コックピットのモニターは太陽と雲を逆転させる。再び、回転。正位置に戻った太陽達。
「この星の白い物体。水か何かの塊、隠れ身としては有効だな。」
スレッグは過ぎ去っていく白い障害物を見上げたり、見下ろしたりしながら呟く。
宇宙のデブリでそうしていたように、機体は雲に紛れ、それを撒き散らし、また別の雲へ。
「3機のはずだった。あと1機は?」
ナーケルが辺りを見回しながら呟く。
空の光が、地上にいる時より遥かに邪魔だ。
「くそっ、遮光フィルターが貼られていないのか、この機体。鬱陶しいぞ!」
「ナーケル中尉、分かりきっていたことです。何を今更。」
シスメは呆れたように呟きながら、ナーケル機よりさらに高度をとる。
「貴様はそうかもしれんがな。俺は初陣なんだ。そんなに裕福なら、お前も月に飛んでいればよかったんじゃないか?エルガーなんとかの兵士にな!」
ナーケルは苛立ちを隠せなかった。敵はどうでも良い。なにせ、さっきの2機を落としたのはこの女だ。
「私の苦しみを知らずに、馬鹿な男は妬みばかりよ。」
シスメはパイロットスーツの少し膨らんだ胸元を弄る。中年の男性と、シスメ、それより少し年齢が低いだろうか。少年がシスメに寄り添っていた。
「ガルーラ。あなたは月に行ってしまったけど。どうか怖い人にならないで。いつかそっちに行くから、優しいままのあなたでね。」
シスメはガルーラと呼ばれたその少年の写真に向けて、軽く口づけをした。
「2人ともなにやってんです!索敵してくだいよ!」
小型のモニターにスタームが映り、苛立ったようにしている。
座席の遥か下のモニターを覗くと、一面の雲と、武装を構えて忙しなく動くスターム機があった。
「ナーケル中尉も、このぐらい可愛げがあればね。」
途端スターム機が突進をかけられる。
モニターのそこにあったスターム機は、よろめき、手足をバタつかせていた。
スタームのコックピットに衝撃が走る。
「うぐっ!」
操縦桿を必死に握り直し、機体のバーニアを蒸す。しかし、引力に背中を引っ張られる。
反重力と言っても、それは重力が土台の地で作られたものだ。
「突進だけで、ここまで推力がつくものか…」
スレッグが汗を流すのをそのままに、操縦桿を操作する。
「相手も不慣れだ、海に落とす!」
マシンガンをもってして、よろめいたままのスターム機にエンジンに打ち込む。
マシーンの右手が小刻みに揺れ、激しい光と轟音が追ってくる。
ヘルメットの遮光フィルターが展開され、耳元が膨らみ、音を遮断する。
しかし、それでも耳鳴りはするし、機体は揺れる。
しかし、それが直撃の合図だった。
小さな爆発の後、スターム機が力を失い降下する。
「くそっ!」
上空にいた、ナーケルが叫び、マシンガンを斉射する。
スレッグは風切り音を真横に感じながらも操縦桿を細かく動作させ、回避する。
機体が揺れるが、目線は外さない。
コックピットのモニターはスレッグが座るシートを中心として円のように回転する。
「まぁ!ナーケル中尉、なんてガムシャラな男!」
シスメは戯けたようにしながら、機体を降下させ、雲に紛れて、それを突き破るように上昇させる。
セルヴスの目が、スレッグの操作の挙動に合わせて動く。
「もう一機はどこだ……!?」
スレッグが叫んだ刹那、尋常でない衝撃がくる。
ヘルメットとバイザーに守られた顔がメインコンピュータに打ち付けられる。
前傾になり、座席から振り落とされそうになるが、緊急のベルトが展開し、それを防いだ。
警告音が鳴り響く。
敵に後ろから接近されたということだ。
「やられた!」
セルヴスの右の肩から先がない。
灰色の腕は切断され、導線を剥き出しにし、スパークを起こしているように見える。
「爆発を防ぐ箇所とは…やり手だな!」
額から血を流しながらスレッグが操縦桿を倒す。
再び加速をかける機体を目視した。
右側のサブモニターを操作し、その機体を捕捉させる。
ピッピッピッと、緑の枠線は雲の一部を四角に
囲い、その挙動を追う。
鳥ではない、明らかに速い。
再び、上空の視界にシスメ機を映した。
太陽を背に剣を構えている。陰になり、捕捉させていなければ、目視はできなかった。
「場慣れしているな。我々のように敵がいるわけではなかったろうに!」
スレッグは機体を上昇させる。このまま降下の勢いそのままに斬り付けられては、繰り返しだからだ。
「このままだ!」
敵機が動揺してるのは明らかだった、片腕を失って、機体の目線がそちらに向いたからだ。
そして、何より、自分を確認しての上昇。
タイムラグ。こちらが翻弄しているんだ。
シスメは剣をかまえ、スレッグに向けて突撃する。
スレッグもマシンガンを捨て剣に持ち替える。
切り落としてやる!ーー
モニターから警告音。
背面を見ると、もう一機がスレッグ機を抑えこんでいた。
「シスメ、よくやったな。こいつは戦果だよ!」
ナーケルが前屈みになってモニターに話す。
「中尉……」
シスメは緊張がほぐれたように、ヘルメットのバイザーを上げる。表情は暗い。
この男に手柄を取られるからではない。
ここまで下衆な男であったかと。
「鹵獲をするぞ、残りの手と足を切り落とせ。」
振り解こうと暴れるスレッグ機を押さえつけ、ナーケルが指示を出す。
後ろの機体を振り解こうとするが、片腕を失って機体のパワーダウンが顕著だった。
「脱出は…してどうする。」
スレッグはバイザーを上げ、汗と血を拭った。
月にいる家族の顔が浮かび始める。
自身が出兵すると肩に手を置いた時の、あの息子の暗く俯いた顔。
最期にみた息子の表情があんなものなんてな。
「走馬灯か?ははは、なんて弱気な……」
先程の剣を構えた機体が近づき、自身のもう片方の腕と、足を切り離したのが確認できた。
アネストのモニターに通信が入る。ナーケルからだ。
「館長、この通り敵機を鹵獲しました。」
ナーケルが満足気に話す。機体は敵機であろう。
手足を切り離され、だるまにされた機体の首を掴み上げている。
「ご苦労。しかし、これは軍旗違反です。相応の処分が待っていることを忘れずに。」
ジーネンは不愉快そうに告げる。
ナーケルの顔がメット越しに不機嫌になるのがわかった。
通信が途絶えた。
「回収急がせろ、敵の援軍がくる。」
ため息をついてジーネンが指示を出す。
「いえ、すでに一機降下しているものがあります!」
ジーネンの指示を受けた男が叫んだ。
「ナーケル達の高度は?」
ジーネンが舌打ちをして、座席に座り直す。
「追いつかれます。」
「機体はさっきのと同じものか?録画データを本部に転送しろ。」
ジーネンが冷たく言いながら座席に座る。
「いえ、これは初めての…」
「あの2人はもういい。スターム機の着地点はどこだ、回収急げ。」
また舌打ちをしてから、ジーネンが言う。それ以降の命令はなかった。
「シスメ、こいつは殺そう。」
「なっ、中尉!」
シスメが叫ぶ。機体の動きも同様に咎める声音だった。
「あの女、俺たちがどれだけ苦労しようと自分の手柄にするつもりだ、俺は使い潰される気はない!」
ダルマ状態になったスレッグ機の首を持ち上げてナーケルが言う。
「宇宙人への見せしめだな。」
剣をセルヴスの喉元に構える。
自身の座席のペダル下に、鋭利なそれが突きつけられるのが見えた。
スレッグが目を瞑る。
その瞬間、モニターに反応が来る。警告音が鳴らないから、敵のものではない。
「少佐!」
セルヴスでも、タイタスでもない独特の駆動音。
バジーリオのセルビウスだった。
「…なんだ!」
ナーケルがモニター上を見上げながら叫ぶ。
「敵機ですよ!そんなものは早く離しなさい!」
シスメは叫んで、機体を上昇させた。
「やかましい!丁度良いさ!」
スレッグ機の胴体が貫かれ爆発する。
「ははは!風船だな、鉄屑め。」
ナーケルが爆発を横目に笑った。
「先程の器量の機体なら、なんとかなる。しかし…」
駆動音は確認したのだ。しかし、どこにもいないではないか。
機体が揺れ、警告音が鳴り響く。
自身の座席のペダル左、その白い閃光で、自身の足が爆発したのかと錯覚する。
「なんて…眩しさよ!」
光が止んで、視界は緑かかる。黒く、ぶつぶつとしたものが浮かび、空を汚す。
座席も自分の意思に関係なく、下の雲たちに背を向け始めた。
「!?」
片足が無い。黒い煙を上げたそれは、腿まではある。しかし、その先はスパークを起こし、火を纏っていた。
「消火を急がなければ、誘爆する!」
操縦桿を動かすが、腕の操作を、無くなった、足の操作であるとコンピューターが誤認して、煙を上げたそれがジタバタとモニターに映り込んでくる。
「…なんて邪魔なの!パージした方が早い!」
片足を切り離し、機体を上昇させる。
先程の正確で垂直な上昇ではない。
フラフラと雲にぶつかりながら上昇する。
モニターが回転し視点が定まらない。それが余計にパニックを誘う。
「少尉、すまなかった。私が先に出ていれば。」
バジーリオは俯く。
腹の底から怒りが湧く。
自分の不甲斐なさもある、スレッグを殺された怒りも。
しかしその怒りは人を遊びのように殺したあの
2機が許せない。
「遊びのつもりなんだな、お前達は!」
怒りに呼応して、セルビウスが音を立てながら飛行する。
それは雲を裂き、青空に姿を晒したかと思ったら、機体を投げ出したように降下して、再び雲が大きく裂け始めていた。
「シスメ、くそっ、あんな速いやつがいたのかよ!」
ナーケルがマシンガンを斉射する。
機体が揺れ、照準がブレる。
雲に大穴を開けるが、奴はいない。
しかし、駆動音だけは確かに聞こえる。
後ろ、次は上、また下で、四方から聞こえている気もしてくる。
「こいよ、蠅野郎!」
ナーケルが叫ぶ。顔から余裕は消えていた。




