デモ隊殲滅作戦
夜になったマンチェスターは1週間に及ぶ祭りの準備期間に襲撃を受け、その鮮やかな外装も、煤の黒に染め上げられていた。煙が立ち込め、瓦礫撤去のアッシス数機が動いていた。
「大尉も好き勝手やってくれちゃって。」
アッシスに乗るパイロットが呟く。
「大尉、戦いでは、あれでいて帰ってくると静かになってるんだから、ありゃなにかの病気だぜ。」
隣のアッシスが瓦礫をゴミ山に投げ捨てて言った。
「ははは、男の性だろ。お前も夜女と部屋を出た後は大尉と同じだよ。」
「サイコパスと一緒にされたなら溜まったもんじゃねぇよ。」
静かな部屋で夢をみる。
「姉さん、どこに行ってしまうの?母さんと父さんも今日も家に帰ってくるのだから、姉さんも一緒に座っていたいよ。」
夕焼けが差し込む木造の家で、茶髪の自分より僅かに背の高い女性が立っている。
「シャキリ、私達、あの人達が熱になってるマシーン開発の、それより下のうんと、下のところから大事にされてるのよ。」
「姉さん…?」
茶髪の女性は屈み、小さなシャキリを抱き寄せる。
「シャキリ、悲しいものよ。大事にされずに、見捨てられた方がもっと楽なの。あの人達、私達を愛してくれてはいるのが、よくわかるの。」
シャキリの服装は10歳になりたてに相応しい、可愛らしい服装で、シワひとつなく、埃も汚れもついていなかった。
「なら、姉さんはなんでお家を出ようとしているの?」
シャキリが口を開く。声がこだまして、家の地面から人の顔が湧いてくる。生きている人間の顔ではなかった。
「シャキリ、強くなってね。強くなるって人を殺し尽くして、血塗れになることじゃないの!」
姉の顔が、血塗れになっていた。体は欠損し、レンガの破片が突き刺さっていた。
バッとソファから体を起こす。
「くそっ。またこんな内容のものを。」
シャキリはグッシャリと汗をかいた服を脱ぎ、タオルで額を拭った。
ドアのノック音が聞こえる。
シャキリの肩がビクッと震えた。
「大尉、ガルーラです。」
さらにノックをする。
「大尉?ガルーラ・マイコン少尉です。」
「わかってる、今開ける。」
部屋の隅のボタンを押して、ドアが開く。
ガルーラと、あの助けた女性とその少女がいて、少女は女性に抱かれていた。
「少尉、民間人は民間ブロックにと…!」
シャキリが睨みを効かせる。
「なんでですか。顔を合わせるのが怖いんですか。この人達は家が…」
ガルーラが言葉を吐き出す寸前で女性が止める。
「ガルーラさん、良いんです。だってこの大尉さんには助けてもらったから。街を壊してしまったのって、別の人の可能性もあるはずよ。」
「ルーラさん。」
ガルーラは暗く俯いた。
この少女を抱く女性はルーラというらしい。
「この人はルーラさんです。そしてこっちはミィカちゃん。」
ガルーラがミィカという少女の頭を撫でる。
ミィカはスヤスヤと寝ていた。頬のあたりに白く跡が残っている。
「この子、中々泣き止まなくて。」
ルーラが呟く。
「シャキリ大尉、民間人の女を早速捕まえて、お楽しみか。」
下品な女の声が廊下から聞こえる。
ラッツェルだった。
「ラッツェル、なぜお前達がインペネスに入ってる。」
「インペネスの人間が、暴れるだけ暴れて、後は怠けているというから、我々がこうやって民間人に軍隊のやり方を見せてやっているというのだ。」
ラッツェルがシャキリの胸を軽く小突いた。
相変わらず、下品な女だ。
この女は帝国の軍学校の頃からそうで、家族のいない自分に対しての当たりは常にどこか蔑むあたりがあった。
ガルーラが眉を顰めて、シャキリの前に出ようとするが、抑える。
「我々は作戦を終えた直後だ。そこで休暇を取れないほど、我が軍は切羽詰まってはいない。お前達の邪魔が入ると、こちらの仕事が増えるな。」
「人を殺して休暇だなんだと、甘いよなぁ。人殺しはまた人を殺しに、空をウロウロしてりゃいいんだよ!」
ラッツェルは苛立ったように怒鳴った。
「マンチェスターなどと、煉瓦造りのボロ屋敷相手に粋がって、貴様はその程度の器量だよ。」
ラッツェルのボロ屋敷という発言にルーラの肩が震えた。
警報がインペネス内に鳴り響いた。
「何事だ!」シャキリが側を駆ける従業員を捕まえて、叫ぶ。
「……!大尉、マンチェスターの反帝国主義のデモ隊が!」
男が答える。
「反テラーストュートのデモ隊が、派生したんだな!」
シャキリは呟いた。
「そうです、大尉は出撃なさってください!」
「僕も行きますよ!」
「…使い物にならん、この戦いは実力の問題ではない。」
シャキリが言った。
「アシュクとトーガンを呼び戻せ、あいつらを連れてく!」
「私も行くよ!」
ラッツェルがシャキリの肩を掴む。
「貴様みたいな馬鹿が出しゃばると2次被害だ!」
ラッツェルは半ば殴られる形で突き放される。
「貴様、女を殴ったな!」
「そんなことしてる場合じゃないでしょ!」
ガルーラがラッツェルの胸ぐらを掴み上げた。
「貴様、インペネスの新入りか、将校上がりが良くやるよ!」
ガルーラが殴られる。
「ガルーラさん!」
ルーラがガルーラの側によった。
後ろからアシュクとトーガンが駆けてきた。
「ガルーラ、一般の方か?民間ブロックに連れてけ、
ガルーラ!シャッターを閉じちまうぞ!」
アシュクがガルーラの肩に手を置いて声をかける。
「ラッツェル大尉やめてくださいよ!」
トーガンはラッツェルを抑えていた。
「大尉さん、待って!」
ルーラがシャキリの背中に叫んだ。
シャキリは格納庫へ向かった。
暫くして、廊下を歩く二つの人影。
「……私、あの人にまだ何も言えてない。」
ルーラの目の縁に涙が浮かぶ。
「あ、あはは…えっと…」
気まずい。大尉の尻拭いだから、さらに腹も立つ。
そして、絆創膏を貼った頬がジンジン痛む。
大尉って、何考えてるんだろ。
「あ、あの…すごい顔してますよ。」
「……え!?」
無意識だった。
「ちょっと、考え事してて…」
「変な人」
女性の表情が柔らかくなった。
元気が出たならいいか。
「大尉は、悪気があるわけじゃないですよ。多分。」
「でも、不安です。デモ隊って。」
ルーラは再び涙をそっと流した。
「大尉、あれですかね。」
夜の空を黒いアコニットと、セルヴス二機がかける。
アシュクのコックピットがモニターに映った。
「あれは違う、大型のホログラフィックスだ。
人の映像を、デモ隊が大きいかのように見せてる。」
シャキリが呟く。
多くの人間が歩いているかのように見えるそれは、時々、ノイズに晒されたり、レンガの瓦礫をすり抜けていたりした。
「マシーンは出てこないのか。」
シャキリが呟く。
視線の先には実体の人の集団を目視していた。
「マンチェスターを解放しろ!」
「故郷を返せよ!」
「帝国反対!侵略反対!」
プラカードを掲げる人間
メガホンで叫び散らす人間
それらが、一つの塊になっていた。
「侵攻にはつきものですね。」
トーガンが言う。
「そうだ。我々は警察もいないし、帰る場所も無いから、こうやって出張らなければならん。」
シャキリが言う。
「どうしますか、大尉。」
アシュクが不安そうに呟く。
「……上の判断を仰ぐ。」
インペネスのメノクスが映るブリッジが開かれる。
「どうだ、シャキリ大尉。」
メノクスが口を開いた。心無しか表情が暗い。
「大佐、主観になりますが、映像を送ります。」
シャキリがモニターの情報をデータ化する。
「あぁ、正真正銘デモ隊だな。マシーンもいない。」
メノクスが呟く。
「……なら、民間人じゃないか。」
アシュクが言う。
「大佐、指示を。」
シャキリが言う。
「総帥のお考えは、植民地域での反乱分子は殲滅しろとのことだ。」
「…了解。」
間をおかず、シャキリが答える。
アコニットの機体を降下させる。
「アシュク、トーガン。やるぞ。」
シャキリのアコニットが武装を構え、家の屋根ほどの高さで止まった。
「いくらなんでも、これは。」
アシュクが言う。
「放ってはやれないんですか。」
トーガンが聞く。
「…はっきりしてくれ、できるのか。」
シャキリが言う。
「…大尉、目を瞑っていて、いいですか。」
アシュクが言う。
「……許す、遠くに行っておけ。」
シャキリが答えた。
「トーガン、明日は目覚めが悪くなるかもな。お前もやれないなら、邪魔になる。」
トーガンに通信を繋ぐ。
「大尉、すみません。」
トーガン機も近くの屋根に移った。
アコニットが地面に降り立つ。
地面は揺れるが、崩れなかった。
インペネスのアッシス部隊による、補強が進んだ証拠だった。
デモ隊がざわつく、踵を返して、逃げる者もいる。
もちろん、子供をデモに参加させ、大事そうに抱く者もいた。
「……お、おい、そこを退けよ!」
先頭付近にいた男が声を上げる。
「こいつ…人が乗ってるのか…?」
別の男が言う。
通信回線を、無線からスピーカーに変える。
インカムを持つ手が震えた。
「…諸君らに告げる、……諸君らの処分は決定した。繰り返す。諸君らの処分は…」
さらにデモ隊がざわついた。
「喋った……」
「人が乗ってるんだ。」
「た、助けてくれるんじゃ無いか。ここまで来たんだろ?」
「処分って…なんだよ。出ていってくれればいいんだよ!」
「……お母さん、怖い。」
モニターを見つめながら、勧告を続ける。
目の前に自分と変わらない見た目の生き物。
自分より、未来のある者もいる。
「諸君らの処分は……全て抹殺となった。」
暗く俯きながら、しかし誰にも知られず、呟いた。
ガルーラとバジーリオ、お前達なら、どう出来た。
アコニットからガトリングが取り出される。
4つに分断されたそれは、差し出された腕に集約される。
モニターを見据える。
目の前の人間の集団は、遠くに駆け出していた。
「……最初から、そうしておくんだったな。」
操縦桿を握り、斉射のボタンを、人差し指で強く押した。
シャキリが主役を食ってる気がしますが、そろそろヴァレン達に戻ります。




