雨の中
空が陰る。
液体が降ってきた。
「………?アシュクなんだこれは。」
シャキリが聞く。
「水性のものなのはわかります。ただ、性質は。」
「そういえば、エルガーでも農村地区では水をわざと空から降らすらしいな。ガルーラわかるか?」
次はガルーラのモニターに目を映す。
「ハァ、ハァッ……おえっ!」
通信を切った。
シャキリは舌打ちをする。
「こいつはなぜ軍学校を卒業できた。」
シャキリが眼帯に触れながら呟く。
「おい、ガルーラ平気か!」
アシュクがガルーラの機体に手を置き、叫ぶ。
「そこに背の高い建物がある、陰に隠れるぞ。」
「ありがとうございます。……すいません。」
ガルーラが細々と答える。
「大尉、こいつマシーンの調子が。」
アシュクがシャキリの機体に目を向ける。
「まぁ、初陣だからな。少尉。操縦桿の下のロッカーを開け、私の予備のメットがある。」
シャキリがガルーラに通信をする。
「は、はい。すいません。」
もう通信は切れていた。
「ふふ、視界が悪いが、やれる。火炎弾も撒き直さなければな。」
シャキリがニヤける。
「ダッケル大尉これは。」
ダッケルの部下が聞く。
「雨だな、マンチェスターはいつもこうさ。しかし、まずいな。」
ダッケルが呟いた。
「アシュク、ガルーラの調子が戻ったら、顔をだせ。」
シャキリが機体を建物の影に向けながら言う。
「大尉は?」
「次は機体を片付ける。」
そう言って、六つのバーニアに熱を持たせる。
次の瞬間、シャキリ機が消えた。
「大尉!孤立しては……!」
アシュクが叫ぶ。
「おい、ガルーラ、メットは変えたか?」
アシュク機がガルーラ機の背中を摩る。
全く意味はなかった。
「今……ロッカーを開けてます。」
ガルーラが咳き込みながら話す。
「……ゆっくりやれ。」
アシュクが呟いた。
「今回は、ミサイルもない。下からいくぞ!」
シャキリは叫んで操縦桿を前に倒す。
それに呼応して、シャキリ搭乗のアコニットが唸る。
建物の合間を拭うように、水を切り、煤の塊と車を吹き飛ばしながら、アコニットが高速で街をかける。
「……!ダッケル大尉!早いものがきます!」
時速ではない、音速だ。
「くそっ、民間人は逃げれているのか!」
音が近くなってくる。
「わかりません、霧が……!」
もう、
「…………まずはこいつだ!二機は離れろ、
仲間を割り出せ!残りは民間人救助だ!」
すぐそこだ。
下の影が上昇する。
「大尉………い、いた…」
左の一機が爆発し、建築物が倒壊する。
上空に、機体が姿を現した。
手に持つものは長い。
赤黒い、オイルを纏った槍だった。
「ははは、やれる!こいつはいいぞ!」
シャキリは叫んだ。
「飛び道具だけじゃ……なかったんだな!」
ダッケル機が盾と剣を弾き抜く。
死に直面して、尚、恐怖に勝る怒り。
「ふん。」
シャキリが鼻で笑う。
雨を受けながら、二機が見合う。
シャキリ機のアコニットが僅かに上を取っていた。
ギュンと唸りを上げて、
シャキリ機がダッケルの真上をとる。
ダッケルはそれをすぐに追うが、モニターの死角だった。
ダッケル機のモニターを巨大な盾が覆う。
金属がぶつかり合う音。
「………!硬い。」
シャキリが呟く。
「………あぁ!」
ダッケル機がもう一つの腕でシャキリ機の槍を掴み、その槍ごと投げ飛ばす。
コックピットに激しい衝撃。建物に叩きつけられ、機体が人が地面に叩きつけられた時と同じ挙動をする。
「うぐっ……!」
シャキリが呻く。クッションとなった建物が倒壊した。
「良い馬力だな。」
シャキリはバイザーを上げて血の混ざった唾を吐いた。
「ダッケル大尉、援護は……」
ダッケルの側にいた一機が言う
「必要ない。あいつは早いが、足に頼ってる。」
「了解。艦の援護へ参ります。大尉、お気をつけて」
その機体は敬礼をし、空を駆けた。
アコニットに通信が入る。
外部通信だった。
「敵機……ここは一旦引いてはくれないか。
……見ての通り、ここは戦う場所ではない。」
雑音混じりに女の声が聞こえる。
「ラッツェルもそうだが、マシーンに人類が乗るようになってから、女が戦場によく出しゃばる!」
シャキリは苛立ったように呟く。
「どうした黒いやつ、さっきの威勢は残ってるだろ。」
続けざまに通信が飛んでくる。息が荒く、
相手も苛立っていた。
スピーカーをオンにして、インカムを持って応じる。
「お前達がいつか空を越えられるようになって、
私達が月で同じ要求をした時。それは通るかな。」
インカムをコンピューターに叩きつけた。
「……交渉決裂だな。」
通信が途切れる。
「街を破壊されて甘いことを言うなよ!」
シャキリ機がクッションを弾き飛ばす
槍が向かってくる。
また、盾だった。
「ははは、いつまでそれを続けられる。
殻にでもこもるか!」
シャキリが叫ぶ。
「反撃を伺ってるのだよ。せっかちな奴だ!」
今度は機体の足が掴まれ、それを槍で切り払おうとするが、切断をしても、まだ神経らしきものがある。
再び投げ飛ばされる。屋根を擦り、
氷の上で流されるように滑りながら吹き飛ぶ。
屋根に掴まった。
しかし、雨に濡れた屋根と腕が滑る。体勢を崩した。
機体内に衝撃がくる。
「チッ、空からの水か!」
機体ごと崩れ、地面を破壊して、
水路の奈落に落とされかける。
寸でで、エンジンを蒸し、機体を急速に上昇させる。
「やはり、足か。」ダッケルは呟きながら盾を構える。
その後ろで大剣を構える力を振り絞った。
機体に圧力がかかり、静脈と動脈のような管が弾けて外に顔を出す。
再び破裂音と共に、シャキリ機が消える。
ーーどっちだ……!ーー
警告音。
ーー右!ーー
盾を持つ手を右に振る。また金属がぶつかる音。
モニターを盾が全て覆った。
しかし、それは後ろの大剣を構えていることも隠していた。
「私とて、やられっぱなしで終わりではない。」
「私は家族の帰る場所を取り返す!」
「チッ、じれったいな!」
シャキリの声にドスが入る。
ダッケル機がとうとう剣を振り上げる。
ダッケル自身も操縦桿を握る力が強まる。
ミシミシと、剣を持つ腕が唸る。
機体が大きく傾いて、縦に突き刺さった槍を持つアコニットも共に斜めに傾く。
「なに!」シャキリが違和感を感じて、上を見上げる。
鉄塊が、自分を潰そうとしていた。
背筋に悪寒が走って、汗が引く。
「重い!……」
次は、シャキリが自ら機体を離した。
瞬間、ダッケルは機体ごと地面に叩きつける。
「ああぁーー!!」
とてつもない爆発音。レンガ、水道パイプ。建物、
全てが弾ける。
街への被害はもうどうでもよかった。
「こ、こいつ……」
シャキリの口角が下がる。
煙の中から、ダッケルのメーディムが目を光らせた。




