開戦、マンチェスター
「中佐、戦艦ノア、発進できます。」
入港を果たしたノアに戦闘員、従業員とマシーンが乗り込み、アネストに少しの人間を残した。
「あの人達はノアに乗らないのか?」
ヴァレンは横で一緒に窓を眺めているイブの方を向く。
「あの人達は言わばデコイよ。仮に敵からアネストに通信がかけられた時、応答する人間がいなかったら怪しいでしょ。」
イブがそう言って、こちらを向く。
青紫のポニーテールのイブがこちらを見つめる。
「そうか、そうだよな。」ヴァレンは気恥ずかしくなって頭をポリポリと掻く。
「なんか変だね、気持ち悪い。」
イブが様子のおかしなヴァレンを見て体を摩る。
「2人とも出航だから仲良しも程々にな。」
スタームが後ろから声をかける。
「いや、こいつは仲良しだと思ってませんよ。」
ヴァレンはボヤきながら部屋に戻った。
「少尉、搬入された機体は?」
「君達の分もしっかりあるよ、ヴァレンは部屋に行ってないか?ヴァレン、ブリッジに集合なんだよ!」
スタームが後ろを振り向いて声をかけた。
「ノア出航用意、反重力ユニット起動!」
ジーネンが一際高い椅子に腰掛け、その左側椅子にクストが右側にクリスが座った。
「反重力ユニット起動完了。いつでもいけます!」
オペレーターのモニが振り返る。
「よし、アネストお世話になりました。人類の母よ。」
ジーネンは敬礼をし、ブリッジの人間もそれに続いた。
「我々はこのまま、妙な動きをしている戦艦を追う、おそらくルート的にはもう一隻と合流をするはずだ!」
ジーネンが叫んでノアが唸った。
朝焼けの上空を一隻の戦艦が駆け抜けていた。
「メノクス艦長、イギリスへの道中、アフリカに敵部隊が潜んでいると補佐艦ボトから連絡が。」
オペレーターの女が振り返る。
「構わない。ここで消耗はさせん、奴等は我々がイギリスへ向かっていると気づいた途端に、介入を避けるはずだ。それほど今のイギリスは目の上のたんこぶなんだよ。」
メノクスは頬杖をついて、シャキリ達に出撃の用意をさせるアナウンスをかけた。
「シャキリ大尉、そろそろ。」
部屋の前で乗組員の1人がドアをノックする。
「わかっている。」シャキリは鏡に向き合って眼帯を装着する。
「姉さん、いなくなってしまったあなたを今更探そうとは思わない。ただ、私はこれでいいのか…」
シャキリは部屋を出た。
「アコニットの整備とテストは済んでるな。」
シャキリが専属のメカニックを見据える。
すでにアシュクとガルーラもパイロットスーツを見に纏っていた。
「はっ、いつでも動かせます。」
メカニックが敬礼をする。
「よし、イギリスの上空はすぐそこだ、シャキリ隊、出撃準備だ!」
シャキリが言って、ガルーラ達もそれぞれのクレーンに乗る。
三人がコックピットに入り、ハッチを閉じる。
「この戦いは、録画され、帝国でも映像が流れる。気合いを入れろよ。」
シャキリがメットを被り、バイザーを下げる。
操縦桿が立ち上がり、コンピューターとモニターが起動する。
ガルーラも安全装置を外す。機体の握力の際限を無くし、出力の出し惜しみをさせず、武器のオートセーバーをオフにするということだ。
すでに、吐き出しそうだった。
「ガルーラ、代わりはいるぞ……。」
モニターに映ったアシュクが言う。
アシュクもメット越しだが顔色が悪そうだった。
「いえ、大丈夫です。」
メットを被る。吐き出す言葉に蓋をする。
「バイザー……しっかり閉じろよ。」
手に震えが来る。自分を奮い立たせる理由が見つからない。一方的なものだからだ。間接的でない、生身の人間を一方的に殺すことになる。人数は考えたくなかった。
通信が途切れる。
大尉の通信が繋がっていた。
「ふむ、操縦系統は変わらん。…計器が一回り大きいか。」
「大尉、あなたは……」
ーー敵機、接近。繰り返す……ーー
開戦のアナウンスと警報が鳴り響く。
三機の巨体が、アッシスに牽引される。
「オーライ、オーライ!そこです、カタパルト!」
鉄を嵌め込む、巨大な音。
ズシリと艦体が揺れた。
「大尉、ガルーラが……。」
アシュクからの通信が入る。シャキリは気を削がれ、苛立つ。
「機体に問題か?見たところ動いているがな。」
「いえ。」
アシュクの通信が途切れる。
「大尉…!」
ガルーラから通信が入る。
「大尉、あなたは…何も感じませんか?」
錯乱したか、これではダメだ。
「少尉。」
「は、…はい。」
「一つだけ言っておく、あの地域は私のルーツだ。」
「シャキリ隊出るぞ!」
通信を切って、機体を前傾に変える。
カタパルトに押し出された。
ロイヤルミーレス、第3部隊 ニーメン艦隊。
オペレーターが驚いた声を上げる。
「どうした!」艦長が叫んで、席を立ち上がる。
「て、敵機が飛来してきます。数は3です。」
「敵機だと…テラーストュートのものじゃない、月の奴等のものか…」
ニーメンは汗を拭う。
「なぜイギリスを狙う。奴等の目的はテラーストュートではないのか。」
司令室の外で音がして、ダッケル・ンジャ大尉が飛び込んできた。
ダッケルは貴族の生まれではなく、通常そのような爵位を持たない人間が中尉以上の階級を持つことは許されない。
しかし、平民上がりの彼女は卓越した戦闘センスを買われた。
「敵機、実質鎖国の我々に…」
「だからだろうな。」
ニーメンはダッケルを横目に呟く。
「出撃いけるか、今回は土台が街だ。撃墜されたら、そのまま被害が街に行く。」
「やります、このマンチェスターは私の故郷なんです。」
ダッケルは言いながら、司令室を出た。
「……ダッケル隊を出す!総動員だ。」
ニーメンは声を張り上げ、その後にインカムを取り出す。
ーー射出カタパルト展開、繰り返す……ーー
機体の骨組みを元として、そこに中世のプレートアーマを嵌め込んだような機体が並ぶ、全長は13メートル程でこれらはタイタスと呼称されず、メーディムと呼称されていた。
それぞれが機体の胸元に金の装飾や薔薇のデカールが施されていた。
そして、ダッケルのメーディムは巨大な大剣と大楯を装備し、腕と関節はそれを保持するために筋繊維の役割を行う管を通常の2倍装備されていた。機体には黄金の柄と部隊エンブレムが入っている。これが、ロイヤルミーレスの一部隊を率いる意味だった。
「大尉、ご武運を!」
「あぁ。」
ダッケルに続くパイロットが一列に並び、ダッケルが部下から模造の剣を手に取る。
「我らの血と魂は、女王メサイアのためにある。そして、それを現す代行者はこのメーディム達が担ってくれる。
お前達は勝利を供物とし、メサイア様への奉仕とするのだ!」
ダッケルが兵士一人一人の肩を剣で叩く。
「出撃準備に入るぞ!」ダッケルが剣を機体の中に持ちこみ
コンピューターと操縦桿を起動する。モニターが展開され、機体をカタパルトに乗せる。
「ダッケル隊、出る!」
計10機が射出された。
シャキリが先陣を切る。
「さすがに、早いな。高機動型なだけある。」
アコニットが街を飛び、マップに示されたマンチェスターへ先導する。
「大尉、早い。」
ガルーラが呟きながら、機体を前進させる。
「早すぎだ、大尉!我々が捕捉できなくなります。」
アシュクがモニターに向かって叫ぶ。
「なんだ、ついてこれないのか。…なら艦に帰れ。」
シャキリがモニターに目もくれずに、機体を加速させる。
「これだ……」
アシュクが呆れ気味に話す。
「オートマティックでなんとか、よし。」
ガルーラがアコニットの後ろをつくようにセルヴスを設定する。
「おまえ…やるな。」
アシュクが関心気味に呟いた。
「どうも。」
次の瞬間、建物が中世の作りを残したものに変わる。
街が見え始めた。
「大尉、時計塔があります。背の高い建物に気をつけてください!ガルーラお前もだ!」
横の建物達を避けながら、アシュク達はふらつく。
初めて建物がどれだけ巨大なものであるかを実感する。
「ふん、動かないものなんてな。」
視界の端で影と風切り音が過ぎる。
シャキリは操縦桿を動かし、建物を横目にする。
「うっくっ!」
ガルーラがもたつく。
「あの人、洗濯なんかを干してる場合じゃないよ!」
窓から顔を出していた人間を後にしながらガルーラが叫ぶ。
「少尉、オートを切れ。……接敵する。」
シャキリが一瞬モニターに映り、すぐに消えた。
上空の風圧に煽られて、民衆がざわつく。
「おい、なんだあれ!」子供を抱いた男が叫んだ。
「戦闘機じゃないの!」
「違う、人型だよ!」
別の女性がその男性の袖に触れる。
見ず知らずの人間達だった。
轟音につられる赤ん坊の鳴き声。
家から飛び出す子供達。
広場に居た子供達もそのマシーンを追う。
「すっげぇーー!」
「敵機目視、数は10!接敵します。5、4、3……」
アシュクがカウントを開始する。
「カウントは必要ない……!」
シャキリは背中に折り畳まれたスナイパーライフルを取り出す。
アコニットがそれのスコープを覗き込むようにして、空中で構える。
巨大な砲身が、街の家を掠めていく。
操縦桿の上に照準が展開される。
ーーオートエイム機能機動開始ーー
「必要ないと言ってるんだ!」
シャキリの怒声と共に、弾丸が発射される。
「ダッケル大尉、攻撃です!」
メーディムの一騎がダッケルに叫ぶ。
「避けろ!」
ダッケル達が散開をする。
代わりに建物のレンガが砕け散る。
砕けた煉瓦は破片にかわり、人とそして家に食い込む。
近くの子供の集団が倒壊した建物に潰され、煉瓦の破片は女性を吹き飛ばした。
「あぁぁぁぁぁ!!」
「うわぁぁ!」
面白がっていた民衆が弾かれるように逃げ出す。
「くそっ、宇宙人どもめ。避難誘導急がせろ!」
ダッケルから汗が滴った。
シャキリ機はスナイパーライフルを撃ち続ける。
リロード、斉射そしてまたリロード。
弾丸の威力はすさまじく、けたたましい音と共に
家屋と人の集団が一つ吹き飛ばされる。
腕が飛び散り、すぐに瓦礫にかき消され、次は足が首が飛ぶ。それは避難する人間に降りかかり、浴びた人間はパニックに陥る。
「うげぇ!」それを浴びた1人の男が座り込み、嘔吐する。
「あなた、もう嫌!」
再び瓦礫が人を潰した。
「ガルーラ、アシュク、火炎弾の用意だ。街を燃やせ!」
シャキリがモニターに叫ぶ。
ガルーラとアシュクの目は虚で、青ざめていた。
散らばる人々の姿をモニターは逐一捉え、一部始終を見せるからだ。
「チッ……空中でこの武装は姿勢制御がきかんな。」
スナイパーライフルの振動に負けて、傾くアコニットに
シャキリは独り言をつぶやく。
街は燃え、家は飛び散り。人々の暮らしを破壊する。
「少尉、これって。」
ガルーラの声は震えている。
「そうだ、俺たちがやった。」
アシュクははっきり伝えた。




