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第二の星で  作者: ぷりお
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出撃前夜




一夜を明けて、早朝の光が入ろうとしているインペネスの格納庫に人影があった。

「朝から殊勝だな、ガルーラ少尉。」

シャキリは機械を叩く音をさせるクレーンを見上げて声をかけた。

「機械のメンテナンスは欠かせませんから。」

顔を煤まみれにしたガルーラがヒョイと現れる。

「インフラだってなんだって、毎日のメンテナンスが重要なんです。人の命を扱うマシーンなら尚更ですよ。」

ガルーラはクレーンを下げ、シャキリの側に来る。

「機械弄りは得意なのか?」

「元々はメカニック志望でしたから…」

ガルーラが少し俯く。

「軍人にならなければならない理由でもあったのか?」

シャキリが続け様に聞く。ガルーラはこの人デリカシーがないなと心中で毒ずく。

「僕、生まれは地球なんです。母親がいない家庭でしたから、父と姉の負担になりたくなかったんです。」

「それで月に来たのか。大胆だな。」

「月の方が案外暮らしやすかったです。気候面も人も含めて。ただ重力の軽さと思ったより街が少ないことを知ってガッカリしたけど。」

ガルーラがニッと笑った。

「月の開拓は3割も進められていないのが帝国の事情だからな。それは水圧を恐れて、海の開拓を放棄した地球にも言えることだが。」シャキリはそう言いながら、手振りでこちらに来いと催促した。


少し歩いて、アコニットの前に並んだ2人。

「新型ですね。軽量化を図って装甲を薄くした分、バーニアと出力は大幅に伸びた…」

「この肩のガトリング、余計だ。」

シャキリがガルーラの言葉を遮って言う。

「しかも新型は入念にチェックをして、重力の耐久テストまで行うとメカニック共は言ってる。ラッツェルのものをテストデータとしてすり替えろと私は何度も言ってるんだ。」シャキリは眉間に皺を寄せて愚痴を吐いた。

「ラッツェル、あの新型で出撃した人ですか?」

ガルーラが不思議にする。

「そうだ、あいつのことはどうでもいいんだ。お前にはこのガトリングを外してもらいたい。」

シャキリがガルーラの背中をバンと叩く。

「いたっ、それなら専属のメカニックさんに頼めば…」

「いちいち申書を出さなければならないんだ。面倒でやっていられるか。」

「無断でいいんですか、そんなの。」ガルーラが不安そうに見上げた。

「やれないと言わんから、出来るんだろ。今日は重要な定例会があるからそれまでに済ませてくれ頼むぞ。」

さっさと言ってシャキリはいなくなってしまった。

「はぁ、軍隊ってブラックなんだな。」

ガルーラはため息をついた。


「戦艦とかに乗らないとこんな静かなもんなんだな。」

ヴァレンはベットに横たわって海が映る窓を眺める。

カモメらしきものが飛んでいた。

コンコンと部屋がノックされる。自動で扉が開こうとするが、無理矢理飛び出た手によってこじ開けられた。

ヴァレンはバッと飛び起きる。

「アダム准尉、我々の結託を強めるために昼食を共に食べよう。」クスト少佐だった。

「結託って…ここそんなに兵士いるんですか?」

ヴァレンはベットに座り直してため息をつく。

「兵士だけが会話相手じゃない。メカニック達やインフラを整備してくれる人間が居るからこそ生活できることを自覚したまえ、そういう人間と親しくなると良いこと尽くめなんだよ!」クストはヴァレンの首根っこを引っ張る。

「それに我々は同じ戦艦に乗るんだぞ。見たところイブ准尉との仲は険悪じゃないか。」

ヴァレンは戦艦という言葉に反応する。

「戦艦なんかここには無いでしょう!それにイブはあいつが邪険にして来るんですよ。」

「今朝テラーストュートが回収したガベルを新造して我々に譲渡するという話をジーネン館長にした。アネストの施設は敵の前で目立ちすぎたから、機材そのものを他の部署に移して、ここはもぬけの殻にするというわけだ。それにテラーストュート直属の1〜9の部隊は腰が重そうだ我々が色々な地域に出向くということだよ。」

つまり雑用だ。

「テラーストュートは地球保全に前向きでは無いのですか?」ヴァレンは額に皺を寄せて聞いた。

「地球にいる人類をパニックにさせたくは無いらしい。ヨーロッパに関しては地球に侵略者が来たことさえ知られてないんだ。」

呑気な奴らだと思ったと同時に、そうやって無知な人間を見下す、無意識な特権意識に嫌悪感を抱いた。

そしてこれはその無知な人間が戦争が始まろうとしていることを、知る努力すらしないという決めつけからきているということをヴァレンは薄々自覚していたのだ。


食堂に行くと、イブの隣に眼鏡の男性がいた。

結局メカニックらしき人間はそれらだけでグループを作っていて、同じ軍属であっても、兵士との境目があることは目前であった。

眼鏡の男がこちらに気づいて座席を立つ。

「スタームソヨラー少尉だ、アダム・ヴァレン准尉。活躍は聞いたよ。僕も一兵士なのに、君達ばかりに戦いを任せてしまってとても不甲斐ない。」

スタームという男は心の底から反省しているようだった。

「いえ、お構いなく。本来、人間達が戦わず、俺たちが委託されるのが普通でしょうから。」

ヴァレンは謙遜のつもりで言ったが、イブの不愉快そうな顔を見る限り、これは卑屈に見えたらしい。

そのイブはハンバーガーを10個ほど積んでいた。

「よくそんな食べれるな。」

ヴァレン、クスト、スタームはそれぞれ着席して、ヴァレンがイブに声をかける。

イブはそれを聞こえていないようしにて、次のハンバーガーに手をかけた。


「この食堂のメニューは何があるんです?」

ヴァレンがクストに目を向ける。

「なんでもあるさ。ただ虫とトカゲはないぞ。」

クストはニヤニヤしながらヴァレンを見つめる。

ネオ・エンズルズに変えられた当初、荒々しい振る舞いをしたという情報から、俺は野生児のイメージがついてしまったらしい。

「俺だって普通の食べ物を食べますよ。」

ヴァレンはぶつくさ言いながらメニューをとる。

「准尉は食堂をあまり利用しないのか?」

スタームが気を遣って声をかけた。

「使う暇なく戦闘続けでしたから。」ヴァレンは俯いた。

「ハンバーガーは高カロリーで手で持てる。あなたもハンバーガーにしなさい。」イブが口を開いた。

「栄養が偏るし、太るぞ…」

そう言った直後、イブがピクッと動き、クストにすごい睨まれた。スタームは苦笑いをしていた。

「私達は強化直後に三代欲求のどれかが欠如する可能性がある。私は食欲が増強された。」

イブは必死にベラベラと弁明し始めたので無視してカウンターに向かった。


「すいません、蕎麦をください。」

ヴァレンが食堂の人間に声をかける。

「はいよ。」カウンターの人間は短く、ぶっきらぼうに答えて裏に入って行ってしまった。


「おい、あれが…」

「やっぱりな…」

後ろからヒソヒソと声が聞こえる。

チラッと振り向くと、軍服の肩のエンブレムからタイタスのパイロットであるというのが分かった。

仲間内でこれなのだから、月と地球の和解なんていうのは到底無理なのだ。


「すいません。」どこからか女の声がして周りを見渡す。

「すいません、ここです。」横にチョコンと小さい女性が立っていた。

「あぁ、邪魔ですか。どうも。」

ヴァレンはペコペコしながら場所を空ける。

「違います!私、ガベルのオペレーター補佐だった、モニ・ラターと言います。」

「あぁ、どうも。」モニという女性はニコニコしていた。

「准尉のおかげで、アネストは守られたと聞きました。ガベルは解体されましたが、それでもガベルの為にも戦ってくださってどうもありがとうございます。」

モニは頭を下げる。栗色の滑らかな髪が揺れた。

「いいんです、任務なので…」

ヴァレンはしどろもどろになる。

「君は女性相手だといつもそれなのか。」

クストが呆れたように声をかけてきた。

「感謝されるようなことがあまり無いんですよ。」

顔を赤らめ、クストに小声で声をかける。

「ふっ、私はカレーをもらうよ。」

クストは鼻で笑った後、カウンターの男に言う。

その男はめんどくさそうに答えて、再び厨房に消えて行った。

「少佐はああ言う扱いを受けて、ショックじゃないんですか?そもそも俺達と居ない方が…」

ヴァレンが横目でクストに言う。

「私達が戦わなければ彼らは死んでるんだ。後ろでコソコソ言われるのが悔しいのか?自分の方が戦いで遥かに優秀だと言い聞かせるんだな。」クストはフンスと鼻息を漏らしながら言った。


「タマを握ってるんだよ、タマを」

「やめてください。」

モニは苦笑いをしていた。


「そこの4人、いいか。」

ジーネンが後ろから声をかけた。

「館長、ご苦労様です。」

クストが振り向いて、敬礼をする。ヴァレンもそれに続いた。

「君達に話がある。」ジーネンはそう言って、座席のスタームとイブも引き連れて歩いて行った。

「すいません、じゃあ。」

「あ、はい。」

ヴァレンはモニに声をかけて走った。クストもそれに続く。


白い廊下でゾロゾロと足音がする。

「休みのところ悪いね、君達のこれからの話なんだ。」

ジーネンは振り返って申し訳なさそうにする。

「いえ」イブが返した。

作戦室に入ると、クリスが既に待っていた。

「今回君達を呼び出したのは、ガベルが改修されて、我々の艦となったことを伝えたいためだ。」

「暫く休暇をと言ったが、悪いな。明日には新造艦が来てここを出発となる。」

ジーネンがモニターを映しながら言った。

モニターにはガベルと少し違う形状の戦艦が現れ、2つだった出撃口はさらに4つに増えていた。

「新造艦ノア、我々は名目上テラーストュート属だが、正式な部隊としての登録はされない、敵の侵略を防ぐ。言ってしまえば左遷先だよ。」

ジーネンはため息を吐いた。

「艦長は私、ジーネン・スレーズ中佐が務める、よろしく。」

ジーネンは言った。

「中佐、出世なさいましたね。」クストが言う。

「あくまで臨時だよ。艦長代理はクスト・レギン少佐、補佐はクリス・チゴー大尉だ。アダム、イブ、スターム君達は引き続き戦闘員をやってもらいたい。」

ジーネンがこちらを見つめる。

「「了解」」2人で敬礼をする。

最早引き返せはしないからだ。


「戦艦ノアは今晩搬入される。そうなれば、明け方には出発をして、妙な動きをしている敵戦艦を追いかけるぞいいな。」

ジーネンが周りを見渡して、敬礼を行った。



インペネスの作戦室では兵士とメカニックその他の従業員が集められ、定例会議が行われた。

ホログラフィック、モニターの前にメノクスが立つ。

「今回、帝国から新しい任務が伝えられた。これはインペネス向けのものでストラッズとセーレンはこれに参加しない。合流をしてもあくまで補佐でという話だ。」

座席の前側に座るガルーラはそれを聞いて唾を飲む。

初めての実戦で単独作戦をしようと言うのだ。

「我々の今回の作戦はマンチェスター攻略作戦。本艦はニューカレドニアから離脱して、アフリカを迂回してイギリスへ向かう。」

シャキリが手を挙げる。

「なんだ、シャキリ。」

「なぜマンチェスターなのです。」

「イギリスは現在、独自の政治体制を取り、テラーストュートでさえも手をつけていない唯一の国だ。それ故に守りがロイヤルミーレスというイギリス独自の軍隊の守りが強固だ。しかし、8月のイギリスは祭り事が多くてな、どこの地域も手薄になる。そして、マンチェスターはテラーストュートの調査によると、最もマシーンとの適合率が高い人間が多いということがわかっている。」

メノクスは資料を目にしながら言う。

「だから、我々で押し入って、そこの市民を拉致すると。」シャキリが少し不満そうに言った。

「帝国への献上品だ。地球の奴等は強化人間という兵士を増やしていると言う、我々もそれに習おうと言うのだ。」

「月の人でそれは作れないんですか?」

ガルーラが手を挙げて言った。

「私が許可する前に発言をするな、ガルーラ少尉。」

メノクスがガルーラを睨む。

「すいません…」

「エルガー帝国は宇宙訓練するが故に、兵士の練度と基準は高い、しかし、強化人間の適正というのは生の空気と豊かな自然による感性の成長で強さが決まる。」

「つまり、戦っているばかりではダメだと」

シャキリが腕組みをしながら言った。

「そういうことだ。感性豊かな人間が戦いに影響を及ばすまでに進化しているということだ。そして強化人間システムはそれをさらに戦闘向きに鋭利にするのだ。」

「それは地球の捕虜を使ってのデータですね?」

シャキリが言う。

「そう言うことだな。」メノクスが作戦の概要説明に入った。


「大尉、帝国の決定、どう思われますか。」

アシュク、シャキリ、ガルーラが並んで廊下を歩いて、アシュクが口を開いた。

「帝国の決定だ、やるぞ。」

「市民を巻き込むんですよ。」

アシュクは欲しかった返しがこないことに残念そうにしていた。

「いずれそうなるんだ。嫌でも市民を巻き込むものが戦争なんだよ。」

「避難勧告を出してから戦えないんですか?」

ガルーラが呟く。

「敵の守りが強固になって、手がつけられなくなる。」

「そもそも、なんで僕たちはこうやって戦ってるんでしょうか。」

「帝国人民は地球に捨てられたと同時に汚れ役を押し付けられたと考えている。実際そうだし、地球のその後の、我々を忘れた小競り合いによる自分勝手さが決定打だった。」


「我々は宇宙に飛ばされて、成長の機会を得られたが、そう考える方が戦いを仕掛けるより建設的であると考えることは、その理性を持っていない地球人への怒りに変わる。

つまり、持っている人間は持たざる人間を怠け者だと決めつけて、結局のところ持たざるものを排除してしまった方がより、建設的であるという考え方に行きつく。それを防ぐためには、幼稚だと言われてもこうやって戦いを仕掛ける方が回りくどくないと言うことだ。」

シャキリがガルーラの肩に手を置いた。


「だからって、大尉は自分が戦い以外の場で安心できる場所を見つけないようにしてるだけでしょ!」

「私は帝国で生まれ、軍人になると決めた時、同時に人の命を扱うことを知った。それを今になって恐ろしくなったからと言って逃げられるか!」

シャキリは怒鳴る。

「貴様は地球に残った父と姉のためと言った。その2人のために強くなる方法は、お前自身もわかってるはずだ。」

シャキリは続ける。


「空気もなく、音も情緒もない。そんな宇宙に優しさだけを持った人間2人が飛ばされた時、できることは傷の舐め合いの野垂れ死にだ。しかし、力を持った人間1人が飛ばされたなら、略奪だろうとなんだろうと生き延びられる。空気も音も情緒も、力による余裕があって初めて生まれる。力を付けるために、私はエルガーに忠誠を誓ったんだ。」


シャキリは踵を返して、足早に去っていった。

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