戦いの後
「シャキリ。」
メノクスがふらついたシャキリに声をかける。
アシュクの横のシャキリが振り返った。
「大佐……無断出撃の件でしたら。」
「そうじゃない、私の部屋にこい。」
メノクスが踵を返し、シャキリは無言でついていった。
「今回の新型、アコニットだが、貴様への譲渡が決定している。」
メノクスは座席について、シャキリにも椅子を用意する。
「あれはラッツェルのものではなかったのですか?」
シャキリが怪訝そうにする。
「あれはプロトタイプでお前に譲渡されるものが完成形だ。」メノクスはため息をつきながら答えた。
「今回の作戦で、新たに二人が合流した。」
続け様に「そのうちの一人にお前のセルヴスを乗せてやりたい。」
「そして、私がその新型に?」
シャキリは心無しか表情が踊っていた。
「そういうことだな。」
「それは勿論良いのですが、あのセルヴスはカスタムをしていて、少し癖があります。」
「お前が教えてやれ、隊長はお前なのだから、操縦も含めて。」
「そいつの名前と階級は。」
「ガルーラ・マイコン。去年将校を出たから、少尉だな。」
格納庫に戻ると、アシュクと少し背の低い少年がいる。
「あ、大尉。」
アシュクがこちらに気づいて、少年を側に寄せる。
少年は強張って、背筋からなにまで全てが垂直だった。
「ガルーラマイコン少尉だな。」
相手の言葉を待たずにシャキリが言う。
「は、はい。」ガルーラがこちらを見上げる。視線が泳いでいた。
「何を怯えてる。」
シャキリはそれに苛立ったが、まだ中学生程度に見える人間に皆目怒鳴るわけにはいかなかった。
「大尉、こいつその…ルーツを気にしてまして」
ルーツ、即ち人種だ。人種問題が撤廃されたエルガー帝国では無関係な話であった。
「フッ、帝国に人種も何もあるか。ただ、足を引っ張るなよ。ついてこい。」
セルヴスの側のクレーンにガルーラを乗せて、機体の胸元へ近づく。コンピューターにキーを差し込み、パスワードを打ってから、ハッチを開く。
「お前の機体になる。トーガンと乗り込んできた時のものを使っても構わないが、こっちの方が慣れれば使いやすい。」キーを渡してコックピットを内見させる。
「動かせそうか。」30秒も待たずにガルーラの尻に向けて声をかけた。
「は、はい!がんばります!」
「お前、そう言ってるうちは死んじまうぞ…。」
アシュクがガルーラの頭を触りながら言う。
なんでこいつはもう馴れ馴れしいんだ。
シャキリは疑問に思いながら踵を返す。
「私は部屋に戻る。アシュクお前も自分の機体を整備しておけ。」
「はっ、お疲れ様です!大尉。」
廊下で見知った横顔があった。
シャキリの眉が歪む。
「大尉、目が覚めていたんですね。」
バジーリオが窓を眺めていた。
「あぁ、二度もお荷物になってすまんな。少佐。」
窓に目線を映して呟く。海が輝いていたが片目でしか確認できなかった。
「いえ、そんな。当然のことをしただけです。」
「タイタニスは捕虜を連れて帝国へ戻るらしいな。お前はどうする。」
シャキリは腰に手を当てて聞く。
「ラッツェル大尉の隊に配備となります。今日の晩から明け方にかけて、移動を…」
「そうか、うちに新入りがきた。アシュクと一緒にいるぞ。」
「あっ、はい。いきます。」
バジーリオは足早に去った。
シャキリは立ち止まったがしばらくして、歩き出した。
ーープロトデル・テル牽引、繰り返す…ーー
機体の大半が施設に収容され始めていた。
半ば渋滞のようなものだったが、中破したパレード用タイタスがそれを待たずに無理矢理入ってきた。
「少佐、慎重に頼みますよ!」メカニックが不満気にその機体に叫ぶ。
機体のハッチが煙を上げながら開いた。
「やかましい!暑苦しいったらありゃしないんだこいつは!」メットを外して汗を流すクストが出てきた。
そのタイタスの足元にイブが近寄る。
「クスト少佐、足を引っ張ってしまい申し訳ございません。」クストに頭をワシっと掴まれる。
「君はよくやってくれたよ、1人にしてしまってすまないね。」クストはニカっと笑った。
「慣れています。」イブは恥ずかしそうに俯いた。
入り口から、ガコンとレールの大きな音が聞こえる。
「…主役が来たね。」クストは腕組みをして言った。
イブは頭をさすっていた。
ギル・ミークの腕は砲身の塊から貧相なものに戻っており、右腕に関しては火傷をしたかのような痕がついたいた。
「准尉出れるか!」メカニック数人が機体を囲む。
ハッチが開く。マシーン特有の音はしなかった。
「マシーンであるのに煙を吐かない。」クストは呟いた。
コックピットからはアダムヴァレンが現れた。
「准尉、ご苦労。」メカニックの1人がヴァレンに肩を貸す。
その他のメカニックはギル・ミークに群がり、作業に取り掛かり始めた。
イブは少し居た堪れないようだった。
私はあれだけ彼に説教をしてきたけど、撃墜されて役立たずになった。それなのにアダムはあの戦艦も落として、敵を退けた。
クストがイブの肩を持つ。ほっとしてしまう自分をひどく情けなく感じた。
「アダム准尉ご苦労。」クストが言ってイブの肩を摩ってない方の手で敬礼をする。
「どうも…」アダムは消耗した様子だった。
イブは何も言わずに俯いていた。
「あの2人あんな仲良かったか?」アダムが呟く。
「また独り言か、錯乱はよしてくれよ!」メカニックが冗談混じりで言う。
「さすがに慣れますよ。あとあれは錯乱じゃ…」
人影が二つ見えてそちらに顔を向ける。
ジーネンとクリス・チゴーが立っていた。
アダムは弁明の機会を奪われて、少しモヤモヤとした気持ちになる。
「アダム准尉、今回は良くやってくれました。」
ジーネンが少し柔らかい表情をして言った。
クリスも無言で背中を叩く。優しい手触りだった。
この男も真面目なだけで性根は優しい人間なのかもしれない。
「機体はボロにしてしまいましたが。」アダムもメカニックに離してもらい、敬礼をする。
「数日は休みを与えます。敵の動向の調査はテラーストュートが請け負います。我々は暫くお休みね。」
ジーネンはそう言いながらアダムの横を通り抜けていった。
「あの人も案外穏やかなんですね。」アダムがメカニックに言う。
「ジーネン大尉はそう言う人だよ。戦いをすると10歳は老けるな!」クリスが馬鹿笑いをし、後ろにイブとクスト立っているのを見て、顔を青ざめさせていた。
自室に戻って、鏡に映る自分を見る。
精神的に疲れてはいるが、顔はそれをあまり映しているようには感じられなかった。
「なのに風呂に入らんと違和感が出てくるんだよなぁ。」
アダムは呟きながら、机に置かれた写真を眺める。
家族4人のものだった。敵艦、タイタニスから射出された3機に街は破壊され、母親は建物に潰されて、父はそれを救おうとして逃げ惑う人の群れに踏み潰された。
そして、妹のナーティスは敵の機体の弾丸の殻に頭を潰された。
あとからジーネンに聞いた話だが、イブは自分の僅か少し前に襲撃を受け、強化人間にされたらしい。自分とあれは実質双子なのだと。
「サイボーグに双子なんて…」涙が写真を濡らす。写真を駄目にしてしまうから、それを机に置いて、浴室に入った。
「ラッツェル、インペネスはイギリス方面へ向かう。」
ダランが作戦室でラッツェルに目配せをして言う。
「イギリス?天下のバジーリオ少佐が来たのだからそれは我々が行うべきでしょう。合流も早かった、なぁ?少佐。」ラッツェルが隣に座るバジーリオに視線を移す。
「大尉、買い被られては困ります。私は敵施設のパイロットに手も足も出なかったのですから。」
バジーリオが少し暗く俯いて答えた。
「帝国の状況が現場に伝わらんというのは本当らしいな。」
ラッツェルが呆れ気味に天井を仰いだ。
「ラッツェル、喋りすぎだな。我が艦ストラッズはまず、艦のセーレンと合流しなければならない。そしてその後は、インペネスの補佐を行うことになっている。」
ダランがそう言うとモニターに地球の全体図が展開される。
「イタリアは中東に侵略され壊滅。その中東全般の地域も旧世紀末のヨーロッパ系人造人間が増加したことによって
力を持たなくなった。となれば、現在の脅威は中世の貴族制を再構築させたイギリスなのだ。」
「そんな古い国、放っておいても良いのでは?」
ラッツェルが苛立ったように聞く。
「奴等は貴族に政治の実権を握らせ、ロイヤルミーレスという独自の軍隊を率いている。地球の全般を抑えたテラーストュートでさえ、イギリスには手を出していない。」
「だから我々がそこを支配して、改正を試みると?」
バジーリオが言う。
「そうだ。ぶり返しの特権固執は力で抹消すれば良いと言うのが総帥のお考えだ。」
ダランはそう言ってモニターに振り返った。
「それならば、なぜ我々はこやって兵を小出しにするのです。」ラッツェルが怪訝そうにする。
「セルヴスはともかく、セルビウスは地球のあの新型を遥かに上回っている。そしてさらに新型のアコニットときた。見知らぬ機体のビーム兵器は以外だったが地球を汚すあの兵器を奴らが何度も使うとは思えん。そして、そのビーム兵器は我々も開発に取り掛かっている。」
ダランがニヤついた。
「ははは、私は地球の被害を考えずに撃ち放題というわけだ!この星の空気は汚染されて、奴等は人民という足どころがなくなって崩壊する。そして月のエルガー帝国が実権を握るんだ。愉快だな、バジーリオ少佐。」
ラッツェルがバジーリオに下品な視線を向けた。
バジーリオはそれにサラスとはまた違う嫌悪感を抱いた。




