表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/102

98.ナタニエルの想い(ダニエル)

「おい!今の話はなんだ!

 俺たちには魔力があるんだから治癒術を使っても大丈夫なんだろう!?」


「そうよ!私たちは大丈夫なのよね!?」


ナタニエルと元公爵令嬢が必死な顔で問いかけてくるけれど、

俺に聞かれても答えは持っていない。


「どうだろうな。俺としてもどのくらい影響があるのかわかっていない。

 クララ、こいつらは死ぬのか?」


「ふふっ。何度も使わされているうちに、魔力の使い方がわかってきたの。

 こいつらの魔力はきっちり使い切って、その上で治癒術をかけていたわ。

 絶対に死ぬわ。そのために耐えてきたんだから」


「なんだと!なんてことをしたんだ!!」


「何よ、全部あんたたちの望みじゃない。

 私は嫌だって言ったのに、何度も治癒術をかけろって殴ったじゃない!

 自業自得よ!ざまぁみろ!!」


笑い続けているクララを見て、三人が茫然としている。

まさか治癒術のせいで死ぬかもしれないなんて思わなかったんだろう。


「……嘘だろう。俺たちが死ぬ?そんなわけないよな。

 おい、ダニエル、何とか言ってくれよ!」


いち早く正気に返ったナタニエルが、

俺につかみかかろうとして騎士に止められる。


「さぁ、どうだろうね?」


「お前なら何か知っているんだろう?」


「だから、俺に聞かれても確実なことなんて言えない。

 こんな素性もわからない女をさらってきて治療させるなんて、

 普通の貴族ならやらないだろう。殺されるかもしれないのに」


「だが!普通の治療では地毒は治せないから仕方なくて!」


「それでも治癒術なんかに頼らなくても生きていられただろう」


地毒で鼻と耳は欠損していたけれど、他の場所は治療できるはずだった。

なくなった鼻と耳もそのうち皮膚が再生して、痛みもなくなっただろう。


これから先、誰に会うわけでもなく、王族に戻るわけでもないのに。

命よりも見た目が大事だという理由は何もない。


俺に何を聞いたところで意味がないと気づいたのか、

ナタニエルはがっくりとひざをついた。


「なんでだ……どうして俺はこんなことばかり起こるんだ……。

 ずっとうまくいっていたはずなのに……。

 リンネアか?リンネアさえいれば、こんなことにはならなかったのか?」


今さらだが、ナタニエルはそのことに気づいたらしい。

リンネアがエルドレドにいれば、王太子妃になっていたら、

こんなことにはならなかっただろう。


「そうだろうな。リンネアがいれば全部避けられたはずだ。

 リンネアはお前のことを、いや、お前たちのことをずっと補佐していた」


「リンネアが……」


「リンネアが動いていれば間違いない。

 大事な仕事を任せても、重要な判断をさせたとしても。

 お前たちはそのあと、成功した結果だけを自分たちのものにしていた」


「それはリンネアがそういう役割だったから……」


「そうかもしれないな。俺たちはオードラン公爵家の者として、

 エルドレド王家を支えるのが役目だった。

 リンネアはそれに従っていただけに過ぎない」


俺がアンジェラ王女を降嫁させていたとしたら、

俺が側近になってその役目を果たすことになっていたに違いない。


「だが、婚約は解消され、役目からも解放された。

 俺はリンネアが皇太子の婚約者になってくれて本当に良かったと思っている。

 役目を果たすためだけじゃない。お互いに想いあっているしな。

 兄としては妹の幸せを願っても当然だろう?」


「リンネアが想いあっている?そんなのは嘘だ!」


「どうして嘘を言わなくちゃいけないんだ。

 同じ馬車に乗っていたくないほど、ずっといちゃついているんだぞ」


「嘘だ嘘だ嘘だ!リンネアがそんなことするなんてありえない!

 だって、リンネアは婚約者だった俺のことを好きにならなかったじゃないか!!

 皇太子と婚約したところで変わるわけがない!」


その言葉が心からの叫びのように感じた。


「お前……もしかして、リンネアに好きになってほしかったのか?」


「だって、おかしいだろう!俺は婚約者だったんだぞ!

 どうして俺を好きにならなかったんだ!!」


「それはそうだろう。 

 お前は何か好きにさせるようなことをリンネアにしたのか?」


「は?」


「笑いかけることもしない。優しくもしない。

 いつも文句ばかり言って、にらみつけて、仕事を押し付けるだけ。

 そんな相手を好きになるわけないじゃないか」


「だって俺は……」


ようやくわかった。

どうしてあんなにもナタニエルがリンネアに冷たかったのか。

好きになってほしかったのに言えなくて、八つ当たりしていたんだ。


「本当に愚かだな。

 最初から優しくしていたら、今でも幸せだっただろうに」


「……うぅ……う」


呻いているような声をあげ、大粒の涙をこぼしている。


「さて、早くクララを回収して帝国に戻りたいところだが、

 もう外は真っ暗なんだよな。

 明日の朝になったらここを出よう。

 ナタニエル、お前たちは明日の朝まで各自の部屋で軟禁することになる。

 俺たちが出発するまでおとなしくしていてくれ」


「待て……なら、出ていくまでクララの治癒術を使わせてくれ」


「まだそんなこと言っているのか?まるで麻薬だな。

 よけいに死期を早めるようなことは止めておけ。では、行くぞ」


「お、おい!ダニエル!行かないでくれ!」


最後まであきらめたくないのか、ナタニエルが俺を呼んでいる。

それにはかまわず、部屋の外に出た。


クララだけ騎士に連れて行かせ、逃げ出さないように馬車の中に押し込める。

馬車の周りには騎士たちが野営しているため、逃げることはできないし、

もしナタニエルたちがクララを取り戻そうとしても止めることができる。


俺は別の馬車の中でクルスと夜を明かす。


離宮の中ではアンジェラと元公爵令嬢が私室内で暴れているそうだが、

ドアの外には騎士が待機していて開けることはない。


ナタニエルだけはベッドに腰かけてうなだれたままだと報告が来た。


残り少ない人生、ほんの少しでも後悔してくれたらいいけれど。



夜が明けて、早朝から出る準備をする。

休憩のために馬車から外に出されたクララは文句を言っていたようだが、

誰も聞くことはなくまた馬車に戻されていた。


帝国に戻ったら間違いなく処刑される。

食事を出してもらえるだけありがたいと思ってほしい。


一応はナタニエルに声をかけてから出発しようかと思ったが、

また言い合いになりそうだからやめることにした。


離宮の中に残っていた騎士たちには後から追いかけてくるように指示を出した。

アンジェラを野放しにしてしまえば、俺を追うかもしれない。


「では、帰るか」


「急いで帰らないといけませんね。結婚式の準備で忙しいでしょうから」


「そうだな」


帰りはなるべく休憩を少なくして帝国に向かう。

騎士たちも早くクララから解放されたかったのか、誰も文句は言わなかった。




帝国に着いて、クララを王宮の牢に入れる。

その後、東の宮に与えられている自室で湯あみをして、

マティアス様へ報告に向かう。


急いで報告を聞きたがるはずだと思っていたのに、

マティアス様に意外なことを言われる。


「ああ、報告なら明日でかまわない」


「え?明日ですか?」


「ああ。リンネアがいる時に一緒に聞きたいし。

 今日は自分の家に帰るといい」


「自分の家に?」


「エルドレドに行っていたから、しばらく自宅に戻っていないだろう。

 お前には妻がいるんだ。帝国に戻ってきたことくらい報告しに行ってこい」


「……そうですね。ありがとうございます」


エレーナなら戻るのが明日でも文句は言わないと思ったが、

せっかくマティアス様が言ってくださるのならと自宅に戻る。


使用人と共に俺を出迎えたのはエレーナではなく、母上だった。


「ただいま戻りました」


「ああ!ダニエル!ようやく戻ってきたのね!

 エレーナが倒れて大変だったのよ!」


「っ!!」


「あ、ダニエル!?」


どうしてエレーナが!何が起きたのかわからなくて恐怖だけで身体が動く。

俺たちの寝室ではエレーナが横になっていた。

あきらかに顔色が悪いが、俺が部屋に入ってきたのを見て驚いている。


「まぁ、おかえりなさい。そんなに急いでどうしたの?」


「倒れたって聞いて……大丈夫なのか?」


「ふふふ。心配してくれたのね。ありがとう。

 でも、安心していいわ。あのね……」


その報告は俺が待ち望んでいたものだったけれど、

何よりもその事実をエレーナが喜んでくれたことがうれしかった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ