97.治癒術の真実(ダニエル)
「ねぇ!こいつらを捕まえて処罰させてよ!」
「処罰?何の罪で?」
「こいつら、私を無理やりここに連れてきて、
治癒術を使わなかったら殺すって言ったのよ!!」
「そう、それがどんな罪になるんだ?」
「え?」
つらい目にあったのかもしれないが、罪を犯したかどうかは別だ。
「お前は帝国の民ではない。ユグドレアでもポスニルアでもない。
どこの国にも属していないお前をさらったとしても、罪ではない」
「はぁ!?どういうことよ!」
「平民は領主の持ち物だ。勝手に傷つけることは許されないし、
もし傷つけたとしたら損害を補償しなければならない。
だが、お前の場合は補償すべき相手がいない」
「私はただの平民じゃないわ!帝国の王族の血をひいているのよ!!」
「お前が言っていただけで、誰も認めていない。
だから、ナタニエルがお前を買ったところで誰もとがめない」
「嘘よ!……信じられない。こんなことをしても罪にならないの!?
殺されるかと思って必死に治癒術を使って……こんな姿になっても……」
「何の罪にもならないな」
「そんな……」
助けが来たと思って喜んだ反動か、何の罪にもならないとわかり、
クララは力尽きたようにぐしゃりと座り込んだ。
咎められないと俺に言われてほっとしたのか、ナタニエルがうっすらと笑う。
「……そうだよな。こんな平民の一人や二人、どうでもいいよな。
で、ダニエル、早くこいつらをなんとかしろよ。
なんで俺たちを捕まえようとしているんだ」
「こいつらは帝国の騎士団だ。俺は今、皇太子の代理として来ている」
ひっと声にならない音が聞こえた。
やっと俺がもう臣下ではないと理解してきただろうか。
「こ、皇太子の代理……何をしにきたんだ」
「お前たちを押さえているのは邪魔しないようにだ。
俺たちはクララを保護するために来た」
「なんだって?そいつを連れていかれると困るんだ。
あともう少しで治りそうなんだから」
「そうよ!連れていかれたら困るわ!
私の足はまだここまでしか治っていないのよ!」
事態を見守っているようだった元公爵令嬢が騒ぎ出した。
見れば、めくったスカートの下は足首まで再生している。
鼻や耳の欠損だけではなく、足の欠損まで治すとは。
どれだけの反動があるのか……考えただけで恐ろしい。
「クララは帝国の平民を大量に殺した罪に問われている」
「は?大量に殺した?」
その言葉にクララがびくりとした。
死ぬとわかって治癒術をかけていたんだからわかっていたはずだ。
「平民同士の争いなら殺人は処罰される。
クララは数えきれないほどの殺人を犯している」
「そ、そんな恐ろしい女だったとは。……だが、連れていかれては困るんだ。
治療が終わったら帝国に送る。それでいいだろう?」
「クララがどうやって大量に殺したか聞きたいか?」
「え?いや、特には興味ないな。殺されたのも平民なんだろ?」
平民を物と同じように思っているからか、殺しあったとしても気に留めないようだ。
この男が国王になっていたら、エルドレドの民は苦労しただろうな。
それでも臣下でいたのは、リンネアが妃ならなんとかなると思っていたからだ。
それももう必要ない。
リンネアが帝国の正妃になれば、属国の一つくらいなんとでもなるだろうから。
「クララの治癒術は相手の魔力を使うものだ。
だが、平民には魔力がない。そのため寿命を減らしてしまう」
「は?魔力で治癒?」
「人の身体が簡単に治るわけがない。
その代償が必要になる。それが魔力であり、寿命だ」
「……平民に治癒術をかけると死ぬってことか」
やっと恐ろしさがわかってきたのか、三人の顔色が悪くなる。
それでも魔力がない平民だからだと思っているんだろうな。
「このクララは元はユグドレアにいた。
ユグドレアの国王を治療していたこともある」
「なんだ、国王のお墨付きなのか」
「その国王はクララの治癒術を止めてから一週間もたたずに亡くなった」
「は?やめてから一週間?」
「おそらく魔力を使って寿命を延ばしていたんだろう。
毎日毎日少しずつ治療することで」
「そんなこともできるのか!!」
「ユグドレアの国王はどこも悪くなかったらしいからな」
ユグドレアの国王は治療とは違う。
老化によるだるさや腰などの痛みを緩和させていただけだった。
だから長期間の治療にも耐えられたのだろう。
ただし、治癒術で命を長らえていたから、
止められたとたんに一気に老化が進んでしまった。
では、こいつらはどうなるんだろう。
欠損部位を治してしまうほどの治癒術。しかも、クララ自身も老化するほどの。
「ふふふっ。……ふふふふふふ」
場違いな笑い声が響く。かさついた感じの笑い声。
「私をさらったことが罪でなかったとしても、もういいわ!
だって、もうみんな終わりだもの!!」
「……どういうことだ?」
「あなた帝国の人よね?あの時、ちらっと会ったの覚えているわ。
ねぇ、私が治療した平民は全員死んだのよね?」
「全員かどうかはわからない。こちらは平民の遺体の数で判断していた」
「そう。全員じゃないかもしれないんだ……。
でもね、こいつらは念入りに治癒術をかけたから絶対に大丈夫。
すぐに死んじゃうと思うわ」
にたぁと嬉しそうに笑うクララに、そういうことかと理解する。
「お前、こいつらが死ぬとわかっていて、
何度も治癒術をかけたんだな?」
「最初は違ったわ。殺されると思ったから仕方なくよ。
でも、こいつらは私に暴力をふるった。
帝国の王族の血をひいているとわかっていても、大事にされなかった!
だから、こんな姿になってしまったのよ!」
「だから、復讐のつもりで?」
「何が悪いの?こんな奴ら死んだ方がいいじゃない。
どうせ問題起こして離宮に閉じ込められているんでしょう?」
それはそうだが、クララが言うのもおかしな話だ。
「おい!今の話はなんだ!
俺たちには魔力があるんだから治癒術を使っても大丈夫なんだろう!?」
「そうよ!私たちは大丈夫なのよね!?」
ナタニエルと元公爵令嬢が必死な顔で問いかけてくるけれど、
俺に聞かれても答えは持っていない。
「どうだろうな。俺としてもどのくらい影響があるのかわかっていない。
クララ、こいつらは死ぬのか?」




