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90.翌朝(クララ)

昨日世話をしてくれた侍女が部屋に入ってくる。

用意された服に着替えて、食事室へと向かう。


お父様は別の部屋を用意されたのかしら。

まさかあのまま飲み続けているってわけではないと思うけれど。


「ねぇ、お父様はどうしたの?違う部屋で寝たの?」


「……私にはわかりかねます」


「あら、そう」


昨日とは違って不愛想な侍女を不満に思いながら、

平民っぽい私を見下しているのかと思った。


ユグドレアでもたまにあった。

帝国の王族らしくないのねと言われたこともある。


この屋敷の主である伯爵は私を王女として扱ってくれたのに。

使用人に見下されるなんて、くやしくなる。


腹が立ったけれど、怒っても仕方ない。

伯爵に言ったとしても多分形だけ謝られる。

そんなのはむなしくて、意味がない。


それ以上は話さずに食事室に向かう。


ドアが開けられ、中に入る。

そこには血まみれになったお父様が倒れていた。


「お父様!?」


すぐに駆け寄り、怪我の状況を確認する。

何かで切り付けられたのか、いたるところに傷があった。


このくらいの傷ならすぐに治せる!

すぐに治療しようと治癒術を使う。

いつもなら光の輪が出てくるはずなのに、光ってすぐに消えてしまう。


「どうして!?お父様、しっかりして!!」


何度も何度も治癒術を使っているのに、お父様の傷は消えない。


「やはり、死んだあとは治せないのか」


低い声がして、振り返る。

そこには伯爵がいた。


「もう無駄だ。そいつは昨日の夜に死んだ」


「は?」


「治癒術は死んだ後には効かないようだな。

 念のため、すぐに会わせないで正解だった」


「何を言って……」


「わかっていないのか?もう死んでいるって言っているんだ」


もう一度お父様を見る。青ざめた顔。まるで死人みたいに血の気がない。

そっとふれると冷たい。


「うそ……嘘でしょう?死んだなんて嘘よね?」


お父様の返事はない。まさか、本当に死んだの?

ゆすぶっても、頬を軽くたたいても返事がない。


「嘘よね?お父様、返事をして!?」


繰り返し呼びかけていると、伯爵が呆れたように言う。


「あきらめろよ。死んだと言っているだろう」


「どうして!?どうしてお父様が死んだの!?」


「殺されたからだな」


「は?……殺された?」


「酔っぱらって寝ているうちに刺したら死んだよ」


何を言っているの?どうしてお父様が殺されなければいけないの?


「恨みを買っていたのは知っていただろう?

 そいつを殺したのはユグドレアの貴族に雇われたものだ」


「ユグドレアの貴族?」


どうしてユグドレアの貴族に殺されたのかわからない。

殺されるほどの恨みを買っていた記憶もない。


「俺も詳しいことは知らないが、お前らが治癒術で殺した中に、

 高位貴族の令息がいたらしいぞ。

 その恨みを晴らすためにずっと探していたそうだ」


「高位貴族の令息?そんなの知らないわ!」


ユグドレアの王宮に行った当初、求められるままに治癒術を使っていた。

それは国王からお願いされてしたことなのだから、

死んだとしても悪いのは国王なんじゃないの?


「まぁ、悪気があったわけじゃないのかもしれないが、

 それで貴族令息が死んだのは事実だ。

 治癒術を使われなかったら、死ななかったのにな」


「そんなの知らないわよ!!」


「ああ、知らないかもしれないが、こっちは金で動いてる。

 大金をもらったなら殺すこともある。悪いな、嬢ちゃん。

 ユグドレアからの依頼は二人を殺すことだったんだ」


「……は?」


二人を殺す?それって、私も殺すってこと?


「なんで帝国の貴族がそんなこと……」


「帝国の貴族だっていうのは嘘だ。この屋敷は借りただけ。

 俺たちはそういうことで儲けているんだ。

 金を積まれたら、たいていのことは引き受ける」


どうしよう。お父様がいなかったら逃げられない。

動けないまま、涙がこぼれてくる。


「……安心しな。さすがに殺すのはかわいそうだから、

 もう一つの依頼を受けたんだ。

 お前は売り渡すことにした」


「……売り渡す?」


「そうだ。おとなしくしていれば痛いことはしない」


「……」


売られるなんて嫌だったけれど、殺されるのも嫌だった。


茫然としていたら、食事室から連れ出されて馬車に乗せられる。

ここに来た時とは違って、小さな目立たない馬車だった。


「おとなしくしていろよ?」


大きな男たちに囲まれて移動する。

どこに行くのかも教えてもらえないまま。


目的地についたのは五日後のことだった。


休憩なしで馬車に乗っていたからか、身体のあちこちが痛い。

男たちは私を降ろした後、また馬車に乗って去っていく。


「こちらに来て。湯あみをするから」


「え?湯あみ?」


高齢の女性に引っ張られて建物の中に入る。

貴族の屋敷ともまた違う雰囲気の建物だけど、中は広かった。


あの伯爵家の屋敷よりも広い湯場で湯あみをした後、

飾り気のないワンピースに着替えさせられる。


ここはどこなんだろう。

売られた私はどういう扱いをされるんだろう。


まさか、愛人になるために売られた?

ユグドレアの国王のような老人の相手をするために売られたのならどうしよう。


今のうちに逃げようか。

ここなら使用人も少ないし、外に出られるかもしれない。


そんな思いを見透かしたように高齢の女性に忠告される。


「ここはエルドレドの離宮です。

 馬車がなければ逃げることはできません」


「……エルドレドの離宮?」



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