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91.顔のない王子(クララ)

今のうちに逃げようか。

ここなら使用人も少ないし、外に出られるかもしれない。


そんな思いを見透かしたように高齢の女性に忠告される。


「ここはエルドレドの離宮です。

 馬車がなければ逃げることはできません」


「……エルドレドの離宮?」


は?エルドレドって、なんで?

ユグドレアとは反対側にある属国だったはずだけど、どうして?


「今からお会いするのはエルドレドの第一王子です」


「第一王子?なんで私が連れてこられたの?」


「それはすぐにわかります」


「すぐにわかるんなら、今教えてくれてもいいじゃない」


「……」


よほど言いたくないのか、黙り込んでしまった。


その時、ドアがノックもされずに開いた。

使用人に支えられるようにして包帯だらけの男が入ってくる。


包帯のすきまから金色の髪と緑色の目が見える。

王族らしい質のいい服を着ている。


一人では立っていられないのか、持ってこさせた椅子に座る。


「……お前がどんな怪我でも治療できるという女か」


包帯のせいか、言葉が聞き取りにくい。

第一王子って言ってたけど、大けがでもしたのかな。


「どんな怪我でもってわけではないと思うけど」


ユグドレアの王宮では死にかけていた平民たちにも治癒術をかけた。

その中には間に合わずに亡くなったものもいる。


その違いがわからないけど、ダメな怪我があるのはわかっている。


「元通りに治す力があると聞いたが?」


「死にかけるほどの大けがでも元気にしたことはあるわ。

 でも、ダメだった時もあるし……」


どうやら私はこの王子の治療のために連れてこられたらしい。

だったら、ちゃんと丁寧にお願いして招待してくれたらいいのに。


まずは怪我の状態を見ないと、と言おうとしたら、

その前に王子は半ばあきらめるようにつぶやいた。


「……怪我が治せなかったら殺すだけだ」


「は?」


「噂を聞いただけで連れて来させたんだ。

 ダメだったら殺して捨てさせる。

 さらってきたことがバレるとうるさいからな」


「何言っているの!勝手に私を連れてきて!」


「なんでお前が怒るんだ?

 俺が買わなかったら父親と一緒に殺されていたんだろう?

 助けてやったんだ。感謝しないのか?」


「……助けたって、だけどっ」


そうだった。ユグドレアの貴族の恨みを買ったから、

あの場で私も殺されていたかもしれないんだった。


だけど、助けられたとは思っていない。

王子をにらみつけたら、近くにいた使用人に身体を押さえつけられた。


「王子に向かってなんて生意気なんだ。頭を下げろ」


「痛い!やめて!!」


「おとなしくすると誓うなら手を放してやる」


「っ!!わかったわよ!!」


床に頭を押しつけられ、あまりの痛さに抵抗するのは止めた。


治癒術を使ったら死ぬかもしれないのに、もう何が起きても知らない。

この人たちが脅すから治癒術を使うんだもの。私が悪いわけじゃない。


「では、早く治療しろ」


男性の包帯が外される。


「……ひっ」


鼻も耳もなく、唇も半分しかない。

ぐずぐずになった肉のかたまりのような顔が見えて、思わず悲鳴をあげそうになる。


「役に立つとわかれば生かしておいてやる。

 ちゃんと治療できれば何不自由なく暮らさせてやろう」


「……わかったわよ」


近づきたくないけれど、断ったら殺されるのがわかった。

本気で治療させるために私を買ったんだ。


そばに寄れば腐ったような臭いがする。

どうやったらこんな状態になるんだろうと思いながら治癒術をかける。


光の輪が何度も身体を行き来する。

少しずつ腐っていた表面に皮膚ができ始めたのが見えた。


だけど、あまりにひどい状態だからか、魔力が吸い込まれていく。

この王子の魔力を使ったとしても、私の魔力も持っていかれる。


このままだと私にも影響が出てくる?

こんなことは今までなかった。

怖くなって、それ以上治癒術を使い続けられない。


「……ダメだわ。一気には治せないみたい」


「どのくらい時間がかかるんだ?」


「わからないの、こんな怪我見たことないもの。

 一日に治療できる時間にも限界があるのかもしれない」


切り傷や殴られたのだったらともかく、

なくなった鼻や耳は元に戻るんだろうか。

思った以上にめんどうな治療に何も約束できない。


「そうなのか……だが、痛みがおさまってきた」


化膿していた傷がいえたのか、王子が機嫌よさそうな声を出した。

よかった。これで納得してくれたみたい。


「今日の治療は終わりでいい。また明日来る」


包帯をする必要はなくなったのか、鼻がない顔を隠さないで王子は出て行った。


「……はぁ。とんでもないところに来ちゃったな。

 あれがエルドレドの王子か……まともな王子だったらよかったのに」


久しぶりにまともな食事を食べて、まともなベッドで眠る。

少しずつ気持ちが落ち着いてきたら、お父様が殺されたことを思い出して、

涙が止まらなくなった。


どうして、こんなことになってしまったんだろう。

私はここから出ることができるんだろうか。






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