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86.クララの訴え

カルラが隣の部屋に続くドアを開ける。

そこにはクララの背中が見えた。一人でいるのか、ユーリイスの姿が見えない。


「こんにちは、クララ」


声をかけると驚いて振り向く。

クララはとっさに首のペンダントを握ろうとした。

慌てて逃げられたら困ると思って、できるだけ友好的に笑いかける。


「ねぇ、話がしたいの。少しいいかしら?」


「……話?捕まえに来たんじゃないの?」


「ここには私と侍女のカルラしかいないわ。

 逃げようと思えばすぐに逃げられるでしょう?

 これ以上は近づかないから、話せる?」


「……わかったわ」


まだ警戒しているのか、ペンダントは握りしめたまま。

よほど大事なものなのだろうか。

少しでも警戒を解いてほしくて、少し離れた場所の椅子に座る。


「カルラも離れていて」


「ですが」


「大丈夫、壁際のところにいてくれたらいいわ」


もしクララが私に何かしようとしたとしても、

身を守るだけの魔術は身につけている。

そうでなければマティアス様だって許可しなかったはずだ。


だけど、それを知らないカルラは不安そうに従った。

悪いとは思うけれど、教えるわけにはいかない。


早めに話を終えよう。

そう思ってクララに話しかけた。


「ねぇ、どうして帝国に戻ってきたの?」


「どうしてって?」


「だって、帝国には近づかないように言われていたでしょう?

 来てからも何度か捕まえられそうになっていたのに、

 出て行かずにいるってことはそれだけの理由があるんじゃないの?」


「それを聞いてどうするのよ?」


「そうね、それなりの理由があるのなら皇帝陛下に伝えるわ」


「あんたが?」


「一応は皇太子の婚約者だもの。会う事はできるわ」


「そう……」


帝国側に言いたいことがあるのなら話に乗ってくれるのでは?

そう思っていたから聞いてみれば、効果はあったらしい。


「ねぇ、おかしいと思わない?」


「何が?」


「だって、この国はお父様が継ぐはずだったんでしょう?」


「そのまま皇太子になって、皇帝になれていればね」


ユーリイスは皇太子にもなっていなかった。

第一皇子として遊学し、そのままユグドレアで結婚し、

王族から抜けることを選んだ。


「お父様の弟が皇帝になって、この国のすべてを手に入れた。

 一番下の弟でさえ、公爵領を手に入れたと聞いているわ」


「ええ、そうね」


「なのに、お父様にはひと月分の食料と生活費だけ!

 おかしいじゃない!」


追放されてからお金に苦労してきたのか、

ユグドレアの王宮で会った時とは風貌が変わってしまっている。


湯あみできないからか、髪や肌は薄汚れ、

頬がやつれてしまって少し目が落ちくぼんだように見える。


まともな食事はとれていないのかもしれない。


「皇帝陛下がこの国を継いだのは簡単なことではないわ。

 皇太子の資格を得て、国のために働き、皇帝として認められたから。

 クラウス様が公爵領を得たのは、皇帝のもとで働いている報奨よ。

 あなたのお父様が何も持たないのは、義務を何も果たさなかったから」


「だったら、今からでも果たせばいいんでしょう?」


「たしかそれも断っていたと思うのだけど」


マティアス様から秘術を使って他国を守る気があるかどうか聞かれていたはず。

それも嫌がったから王族に戻れないと判断されたのだと思う。


「あんたはそんな綺麗な格好して、いつも美味しい食事をしているのでしょう?

 いいわね、皇太子の婚約者って。私が婚約者になろうかしら」


「え?」


「もうお金がない生活なんて嫌なのよ!!」


平民街でも裕福な暮らしをしていたからか、

ユグドレアの王宮の暮らしに慣れてしまったからか、

追放されてからの生活が嫌になったらしい。


「真面目に働けば生活できるでしょう?

 文字の読み書きや、裁縫などできるんじゃないの?」


「そんな平民のような暮らしは嫌だって言っているのよ!

 私は王家の血をひいているのよ。

 皇太子の婚約者になる資格は十分あると思うの!」


「資格?それはないと……」


皇太子妃の条件というのは、伯爵家以上の貴族であること。

貴族でもないクララではなれない。


なのにクララは自信ありげに答えた。


「あるわ!お父様から聞いたんだもの!

 皇太子の婚約者は他国出身で魔力が多ければいいって!」


「え?」


他国出身で魔力が多ければいい。そんな条件はない。

いや……そういえば帝国の令嬢たちがお茶会で言っていた。

帝国の者は正妃にはなれないと。あれは本当のことだった?


「私が帝国で生まれていたら皇太子の婚約者にはなれなかった。

 でも、ユグドレアで生まれたから、資格がある。これって運命だと思うの!」


「だとしてもマティアス様はあなたを選ばないと思うわ」


「そんなのまだわからないじゃない。結婚してないんだから。

 エルドレドの公爵家出身のあなたなんかより、

 王家の血をひく私を選んだ方がいいに決まっているじゃない」


「それは……」


血と魔力のことだけを考えればそうかもしれないけれど。


「どうせちょうどよく条件に当てはまっただけで、

 あなたが良くて選ばれたんじゃないだから。

 私と交代しても問題はないはずよ」


言い返そうとして、言葉につまる。

条件に当てはまったから私が選ばれたのには間違いない。


「ほら、言い返せないのでしょう?」



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