84.捜索開始
それから一週間ほどはアラン様とお兄様が指揮をして、
騎士たちに捜索させていたが、クララとユーリイスは見つからなかった。
もし二人が見つかった場合には、
捕まえずにマティアス様に連絡が入ることになっている。
私たちは連絡を待つ間、溜まっていた仕事を片付けていた。
「マティアス様、ユグドレアから書簡が届いています。
皇帝陛下が先に確認したそうですが、こちらで処理するようにと」
「父上宛に届いたのに俺に回ってくるということは、
あの二人がらみのことだろうな」
ため息交えりに書簡を読んだマティアス様が、
やっぱりとつぶやいた。
「ユグドレアが何を言ってきたのですか?」
「まず、国王が亡くなったそうだ。俺たちが国を出て三日後に」
「そんなに前に?」
倒れそうなほど顔色が悪かったことを思い出す。
あれからすぐに亡くなっていたんだ……。
「次の国王が決まらなかったから、公表が遅れたのだろうな。
国王は第一王女が降嫁した公爵家の当主だそうだ」
「公爵家が?」
「この書簡は新しい国王が寄こしたものらしいが、
前国王の死には治癒術が関係しているのではないかと。
奴隷たちが大量に亡くなったことで問い合わせがきたために、
前国王の死も疑っているようだ」
「それは……どう答えるのですか?」
前国王が突然亡くなったのも、奴隷の件も、
治癒術のせいの可能性が高い。
「治癒術は万能ではないし、帝国には関係ないことだと言うしかない。
あの二人は王族ではなかった上に、帝国に送る途中で逃げてしまった、と」
「処刑したとは言わないのですね」
「処刑すれば記録に残る。
そこを偽造するような真似はできるかぎりしたくない」
「それはそうですね」
処刑したと言えば、それ以上は探されないと思ったけれど、
さすがにそこまで嘘をつくのは難しいようだ。
帝国とは関係なかったと言い張れば、むこうは責められない。
身分を確認せずに王宮に迎え入れたのはユグドレアなのだから。
「税を元に戻すと言ってあるし、適正な税を取り立てるために、
帝国から正式な監視を送る予定になっている。
おそらく前国王の死に帝国が関わっていると文句をつけて、
それらを撤回させたいんだろうな」
「監視がついたら向こうは困りますものね」
あの高価そうな物ばかり置かれていた王宮を思い出す。
税が払えないとなれば、あれらはすべて売り払われる。
新しい国王が前国王と同じようなことをするかはまだ不明だけど、
書簡の内容を考えると似たような感じかもしれない。
マティアス様が返事を書いていると、騎士が飛び込んできた。
「失礼いたします!見つけました!」
「わかった!リンネア、行ってくる!」
「お気をつけて」
マティアス様がケニー様と共に部屋から出て行った。
ユグドレアが治癒術のことに気がついてしまった以上、
早く捕獲して他国に逃がさなくてはならない。
……本人たちが逃げることに納得できなかった場合は、
幽閉することも考えなくてはならないだろうけど。
どうするかは何を考えてこんなことをしたのか、
二人から話を聞いてからになる。
しばらくして、がっかりした様子でマティアス様たちが戻ってきた。
どうやら捕まえられなかったようだ。
「ダメだった……」
「秘術で逃げられたのですか?」
「ああ。俺の顔を見て、すぐに逃げられてしまった」
「そうでしたか」
残念だったが、その場にいた平民から事情を聞くことはできていた。
「あの二人は宿にも泊まらずにいるそうだ。
平民を治療する代わりに宿と食事を求めていると」
「だから見つけらないんですね」
「隠れるためにしているのか、金がないからなのか」
騎士たちには宿や食事処を中心に探してもらっていた。
どちらも立ち寄るだろうと考えていたからだが、
平民に提供してもらっているのなら見つかるわけがない。
「手あたり次第探していくしかないな」
「時間がかかりそうですね……」
「ああ」
それから何度も騎士が見つけてはマティアス様が向かい、
あともう少しというところで逃げられてしまうことが続いた。
その間も二人は平民に治療を続け、女神の子の噂は広まっていった。
下級貴族たちの間でも聞かれるようになり、銀髪と青い目ということで、
クララとユーリイスは王族の血を引いているのではと言われるようになった。
「まずいな……高位貴族の中にはユーリイスの顔を覚えている者もいるだろう。
会うようなことがあれば、生きていたという話になってしまう。
早く捕まえなくては」
「私も一緒に行きましょうか?」
「は?」
「どうしてこんなことをしているのか、
私が話しかけたら答えてくれるかもしれません。
相手が私なら油断してくれそうな気がしますし」
ユグドレアの王宮で話したクララは私をにらんでいた。
こんなことをするのなら理由はあるのだろうし、聞けば答えてくれるかもしれない。
私に捕まるとは思っていないだろうから、きっと油断してくれるはず。
「それは油断するかもしれないが、危ないだろう?」
「そこまで近寄らなくても話はできると思いますし、
マティアス様たちは近くで隠れていてくれればいいのでは?」
「だがな……ううん」
私を危ない目にあわせたくないマティアス様とお兄様がいい顔をしない。
それでも最終的には急いで対応したほうがいいという意見に押され、
渋々と私の同行を受け入れてくれた。




