83.皇帝陛下への報告
「怪我や病気の平民の前に現れて治療してくれる、
女神の子と呼ばれる娘がいると。
あまりにもあやしい噂なので調査したら、クララらしいと」
「まさか治癒術を!?」
「そのまさかです。クララを見たことがある者を調査に行かせたら、
銀色の髪に青い目、間違いないと証言しました。
クララは自分を女神の子だと名乗り、平民に治癒術を使ったそうです」
「なんてことだ……」
ユーリイスとクララ、治癒術については、
ユグドレアから戻ってすぐに側近たちには説明してある。
本来は王族しか知らないことだが、
ユグドレアで治癒術を使ったことが今後問題になるかもしれない。
その時に迅速に対処するためにも知っておいたほうがいいからだ。
そのため、平民に治癒術を使うことのまずさを理解している。
「これ以上騒ぎが起きないうちに捕獲しようと、
騎士を派遣しているのですが、
捕まえようとしたら目の前で消えたと報告が来ています」
「ユーリイスの秘術だろうな……。
戦うのは嫌がっていたが、才能はあったと聞いている」
「平民街に大量の騎士を派遣するのは難しく、
少人数でクララの顔がわかるものを向かわせようと思いますが、
秘術を使われるとなると難しいですよね……」
「そうだな……俺か叔父上が向かう必要があるかもしれない」
王族を捕まえられるのは王族だけという事……。
「マティアス様、これは皇帝陛下に報告すべきですよね」
「そうだな……黙っておくわけにはいかないな。
エルドレドでのこともあるし、一緒に報告しておこう。
リンネアも行けるか?」
「私もですか?」
今まで皇帝陛下に報告がある場合はマティアス様が一人で行っていた。
私も一緒に行くことになるとは思わず驚いてしまう。
「エルドレドのことはリンネアのほうが詳しいし、
オードランの花のことも説明したい」
「そういうことであれば、わかりました」
クララとユーリイスについては皇帝陛下に報告をしたのち、
本格的な対策を考えるということになった。
次の日の昼、謁見するために朝から準備し、本宮に向かう。
最初にお二人に挨拶したとき以来の謁見室だ。
夜会などで何度か顔はあわせているけれど、まだ緊張する。
謁見室に入ると、そこには皇帝陛下だけでなく正妃様もいた。
形式通りに礼をしようとすると、皇帝陛下に止められる。
「ああ、いい。もう身内なのだから堅苦しいのはいらない。
マティアス、大事な報告があるのだろう。話してくれ」
「わかりました」
マティアス様がエルドレドで起きたことを説明し、
時折私にも説明を求めてくる。
地毒の発生についてはそれほど驚かれなかったけれど、
サンドラ様の逃亡にはひどく驚かれてしまった。
「はぁぁ……まさかフレゴリ公爵の娘がそこまでひどいとは」
「いくらなんでも王太子妃になったものが逃げるとは」
「エルドレドに申し訳ないことをしたな。
リンネアがそのまま王太子妃になっていれば避けられた事態だった。
魔力を吸う花の開発といい、貴重な妃になっただろうに」
「そうね……あなたが王太子妃だったら、
逃げ出すような恥ずかしい真似は絶対にしなかったでしょうね」
まるで私を認めてくれているかのような正妃様の発言に、
マティアス様が口をはさんだ。
「母上、リンネアを認めてくれたのですね」
「……あの時は悪かったわ。ディアナが心配で仕方なかったのよ。
それにエルドレドの王女の評判は悪かったし」
すねるような正妃様の口調だが、謝罪する気持ちはあるようだ。
「いえ、急に婚約者候補が変わったのですから仕方ありません」
「……ディアナから話は聞いているわ。姪を助けてくれてありがとう」
「こちらこそ、ディアナ様には助けてもらっています」
「あの子が国に戻れるまで、よろしく頼むわね」
「はい」
助けたと言われたが、ディアナ様は働いてくれているだけ。
こちらとしても助かっている。
おかげで正妃様の信頼を得られたようで、ほっとする。
あのまま息子の妃として認めてもらえなかったらどうしようかと思っていた。
マティアス様と目を合わせ微笑みあったけれど、報告はまだ終わっていない。
「父上、報告はまだあります」
「悪いことなのか?」
「はい。ユーリイスと娘のクララのことです」
「兄上か……ポスニルア国から報告が来たのか?」
「いえ、二人は帝国に戻ってきているようです」
「何!!」
アラン様から聞いたことを報告を説明すると、二人とも顔色が悪くなっていく。
「このままでは帝国の貴族たちに噂が伝わってしまうかもしれません。
なにしろ銀色の髪を隠していないのですから。
その前に捕獲して他国に行かせたいので、俺か叔父上が捕獲しに行きます」
「そうだな……お前ではなくては無理かもしれない。
兄上は本当に秘術の才能だけはあったんだ。
気が弱くて、戦えない人だったが、逃げるのは得意なはずだ」
「そうですか。では、俺が探しに行かなくてはなりませんね」
「そろそろ結婚式の準備も始めなくてはならないだろうが、
その前に片付けておいた方がいい。
兄上は、いや……ユーリイスは存在していてはいけないんだ」
「はい。わかっています。早々に片付けておきます」
前皇帝が死んだと公表したユーリイスが生きていると知られてはならない。
皇帝陛下も兄だとは言わなくなった。
もう王族とは関係のない人間として扱うということになる。
苦しそうな顔をした皇帝陛下に気づいた正妃様が支えるように背中に手を置く。
報告を終えた私たちは、そっと謁見室を出た。




