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80.最後の挨拶

アンジェラ様を止めたのはナタニエル様だった。

遺言を聞いて茫然としていたけれど、アンジェラ様の騒ぎに気づき、

落ち着いた声で止めるように言った。


「……アンジェラ、やめるんだ。

 そんなことをすれば自分の身体を痛めつけるだけだ」


「お兄様!だって、このままじゃ悔しくて……」


「側妃を傷つけたところで、意味はない……」


自分の置かれた状況を受け入れたのかと思っていたら、

ナタニエル様が私に向かってひざまずいた。


「え?」


「リンネア!助けてくれ!」


両膝をついて、そのまま額を床にこすりつけるようにして叫んでいる。


「な、なにを」


「この状況でもきっとリンネアならなんとかできるんだろう?

 俺を、俺たちを助けてくれ!」


「お兄様!何しているのよ!」


みっともなく助けを求めたナタニエル様にアンジェラ様が止めようとしている。


「アンジェラ、お前も一緒に頼むんだ!

 このままでは俺たちは終わりだ!

 それでいいのか!?」


「そ、それは嫌だけど……」


「リンネアに見捨てられたら終わりなんだ!

 今までことを詫びてお願いするんだ!」


「お兄様……」


まさかこんな風に縋りつかれるなんて思わなくて、

驚いているうちにアンジェラ様まで両膝をついた。


さすがに額を床につけることはためらったようだが、

私に向かってゆっくりと頭を下げた。


「……お願い、リンネア。お兄様を国王にして!

 謝ってあげるから!!」


「ほら、アンジェラもこう言ってるんだ。

 俺たちを助けてくれるだろう?」


「お二人とも、やめてください。

 私にはどうすることもできません」


「俺たちがここまで謝ってやっているんだぞ!?」


いくら謝られたからといって、二人を助ける気にはならない。

そもそも私がどうにかできることではない。


無言で首を横に振った。


だが、ナタニエル様はそれでは納得しなかった。


「そんなことはないはずだ!

 優秀なリンネアなら!帝国の妃なら!

 今からでも俺をこの国の王にすることも可能なはずだ!」


「そうよ!リンネア!

 私たちを助けると約束してちょうだい!」


二人の縋りつくような顔を見たくなくて目をそらすと、

マティアス様が心配しているのが見えた。


……このままではいけない。

もうはっきり言わなくては。


「ナタニエル様を国王にしてほしいと口添えするのは、

 皇太子妃の要望だと伝えたら、できるかもしれません」


「やっぱり!リンネアならできると思ったんだ!」


「ですが、それは国王が生きていれば、の話です。

 国王が亡くなった今、私には遺言を変える力はありません」


「は……?」


帝国の力がいくら強くても、亡くなった国王の遺言をなかったことはできない。

それにもうマティアス様が皇太子の名で認めてしまっている。

婚約者の私が何を言ったところで変わらない。


「何を言っているんだ。今からだって……」


「無理なんです。

 ナタニエル様が国王を見捨てなければ、

 国王に症状が出た時に地毒だと帝国に報告できていれば……。

 こんなことにはならなかったんです」


「だが……もう父上は亡くなった。

 今、そんなことを言われても」


「ええ、だから、そんなことを言われても、です。

 亡くなった国王が生き返らないのと同じで、

 ナタニエル様たちの運命もまた変えられないのです」


「そんな……頼む、どうか助けれくれ!

 リンネアならどうにかできるはずだ!

 俺たちのために何か考えだしてくれ!」


「そうだわ!どうにかするのがリンネアの役目でしょう!」


イラついたのか、とうとうマティアス様が席を立とうとした。

それを視線で制止して、私が席を立つ。


まだ床に座ったままの二人を見下ろす。

こんな風に見下ろすなんて初めてのことだ。


「私があなたたちにできることは何もありません。

 これまでのことを考えれば、助けたい、関わりたいとも思えないんです。

 もう二度と、私に助けを求めないでください」


「……そんな」


「あきらめてください。もうできることは何一つありません」


「嫌よ……嫌……」


「お二人とはもう会う事もないでしょう。

 離宮に行って、その身体をゆっくり治してください。

 どうかお元気で」


「……嘘だ。リンネアがどうにかしてくれなかったら俺は……」


「お兄様が国王にならなかったら、私はどうなるの……」


その問いにはもう答えない。


認めたくない現実を受け入れられないのか、二人はへなりと座り込んだ。

うつむいたまま視点も定まっていない。


それを見たマティアス様が叔父様に声をかけた。


「こいつらを離宮に移すのなら早いほうがいい。

 側妃や王子たちが狙われるぞ」


「はっ。今すぐに離宮に移す手配をいたします」


動かなくなったナタニエル様とアンジェラ様を近衛騎士が担架にのせて運び出す。

会うのはこれで最後になる。

お別れの挨拶まで言えて、驚くほど気持ちはスッキリしていた。


「サンドラはどうした?一緒に移すのだろう?」


「それが体調がすぐれないというので部屋で休ませていました。

 問題ないようなら一緒に移す手配をいたします」


「そうか」


もう用事はすんだとマティアス様に手を差し出される。

その手を取って、謁見室から出ようとした。



「大変です!」


声と同時に慌てたように騎士が駆け込んできた。

王宮の護衛をしている騎士に見える。


「何事だ?」


「あの!王太子妃様が王宮から出て行ったようです!」


「護衛は何をしていたんだ!」


「部屋の中で侍女三人が薬で眠らされて倒れていました。

 王女は侍女の服に着替えて出て行ったようで……」


「なんということだ……」


サンドラ様が王宮から出て行った?


「もしや帝国に帰ろうとしているのでしょうか?」


「おそらくそうだろうな。馬鹿な奴だ。

 一人で帝国まで逃げられるわけがないだろうに」


それもそうだ。侍女の服に着替えて外に出たとして、

どうやって帝国まで行くつもりなのか。


「とにかく、早くサンドラを探すんだ」


 「「「はっ!」」」



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