81.逃亡罪と離宮
サンドラ様が王宮から出て行った?
「もしや帝国に帰ろうとしているのでしょうか?」
「おそらくそうだろうな。馬鹿な奴だ。
一人で帝国まで逃げられるわけがないだろうに」
それもそうだ。侍女の服に着替えて外に出たとして、
どうやって帝国まで行くつもりなのか。
「とにかく、早くサンドラを探すんだ」
「「「はっ!」」」
国王の遺言により、王太子妃ではなくなったとはいえ、
まだ本人には告げられていない。
そのため、身分は王太子妃のまま。
騎士だけでなく、文官や女官、侍女たちまで総出で王宮内を探している。
「リンネア、この国にも逃亡罪はあるよな?」
「……あります」
「処罰はどうなっている?」
「逃亡しようとしただけなら見張りが厳しくなるだけですが、
逃亡したとなれば……両足の腱を切られることになります。
また逃亡先が国内であれば幽閉ですみますが、
国外まで行ったとなれば……処刑です」
「そうか……まぁ、そうなるよな」
逃亡罪はいつからあるのかわからないくらい昔からある。
まだ帝国の属国になる前から存在し、
他国から嫁いできた妃が逃げた場合に適応される。
他国と戦争していた時代の名残ではあるが、
改正されていない以上は従わなければならない法だ。
結婚する前の誓約書にも書かれることなので、
サンドラ様が知らないわけはないと思うけれど……。
もし帝国まで逃げられたとしても、
見つかればエルドレドに連れ戻されて処刑されることになる。
「そう遠くまではいけないと思うが……」
「王宮内で見つかればなかったことにできると思いますが」
サンドラ様はもうすでに離宮に幽閉されることが決まっている。
王宮内、もしくは王都であればごまかすこともできるだろう。
それでも時間がかかってしまえば問題も大きくなってしまう。
これだけ大人数で探したのに見つからないということは、
もう王宮から出て行ってしまっている可能性が高い。
しばらくして、一台の馬車がなくなっていると報告された。
王宮に来ていた子爵家の馬車が無くなっていた。
御者が短時間離れていたうちに盗まれたという。
「まさかサンドラ様が自分で馬車を動かしたのでしょうか?」
「御者の真似事などできないと思うが……。
手引きした者がいるのだろうか」
「サンドラ様と一緒に逃げたものがいるというのですか?」
「侍女などは帝国から連れてきていない。
エルドレドの者が一緒に逃げるとは思えないな」
どうやって王宮から逃げられたのかはわからないけれど、
子爵家の馬車を探すように騎士たちに命じた。
そして、日が落ちて暗くなったころ、
ナタニエル様とアンジェラ様はサンドラ様を待たず、
王都から遠い離宮に送られた。
王都よりも帝国に近い場所にある離宮だが、
先々代に罪を犯した王族を幽閉するために建てられたもので、
周りには何もないひっそりとした場所にある。
名目は療養であるため、世話をする者は用意されるし、
生活するのに困らない程度には金銭も使える。
地毒を隠していた医師もつぐないのため離宮に滞在することになる。
贅沢さえしなければ快適に暮らせる場所だ。
国王が最後にそれを望んだのは、やはり二人が可愛い子どもだったからに違いない。
その遺言がなかったら、ナタニエル様は処罰されていただろうから。
馬車に乗せる時に二人とも暴れたそうだが、
薬で眠らせたまま送られたと聞いた。
私たちは部屋に戻って見つかるのを待ったが、
夜になってもサンドラ様の行方はわからなかった。
「このまま見つからなかったとしても、
俺たちは明日帝国に戻ろう」
「そうですね……あとは三公爵に任せましょう」
これ以上はエルドレドのものが対応すべきだ。
サンドラ様がどこで見つかったとしても、
私たちには関係のないこと。
ただ帝国に戻ったら、父親のフレゴリ公爵には報告することになる。
そのことを考えたら暗い気持ちになってしまう。
それはマティアス様も同じだったようで、ため息交じりにつぶやいた。
「この国で幸せになってくれればいいと思っていたんだがな」
「私もです」
「薬を盛られた侍女の一人がまだ目覚めないらしい。
適量もわからずに飲ませたんだろう。
意識が戻ったとしても、身体は戻らないかもしれない」
「そんな……」
「もうサンドラには同情しなくていい。
この後、捕まることになっても自分のせいだ」
「……そうですね」
逃げ出したくなったきっかけがナタニエル様だとしても、
サンドラ様は罪を犯してしまった。
もう同情することはできない。
次の日、三公爵に見送られて帝国に向けて出発する。
来た時と同じように王領の離宮に泊まるために馬車を降りる。
残念ながら日が落ちているので思い出の湖は暗くて見えない。
「もう湖の周りは散歩できないな」
「明日の出発前なら行けるかもしれません」
ずっとバタバタしていたからか、マティアス様とゆっくり過ごす時間が欲しい。
そう願っていたのに、離宮でくつろぐ間もなく、報告が入った。
「王太子妃様が見つかりました!」
「本当か!どこでだ!?」
「王都から出てすぐの場所です。
帝国を目指していたようですが、王太子妃様自ら馬車を動かしていたようで、
道を間違えて山道に入り、滑落した模様です……」
「滑落!?」
「意識不明のまま王宮に運ばれ、治療中です」
「……ひどい怪我なの?」
「……右足が馬車の下敷きになったため、壊死しているとのことです」
「足が……」
あまりのことにめまいがする。
それに気がついたマティアス様が私の腰を抱いて支えてくれた。
「……報告はわかったと三公爵に伝えてくれ」
「かしこまりました」




