79.遺言
国王の葬儀はまだ日が昇らないうちに始まった。
参列しているのは三公爵と私たち。
そして側妃と第二王子セレスタン様と第三王子クリストフ様。
症状が出てから遠ざけられていたという側妃は、
泣き明かしたのか目が腫れている。
そして第二王子と第三王子は幼いながらに母親を慰めようとしていた。
「第二王子と第三王子はまともに育っているようだな」
「ええ、あまり表には出てきていませんでしたが、
どちらも優秀だと聞いています」
「そうか」
地毒に侵されて亡くなったため、顔を見ることもできずにお別れになる。
あまり会う事もなかったからか、王子たちは泣くこともなく別れを告げていた。
騎士たちによって王族の埋葬地に埋められ、
エルドレド国王の葬儀は終わった。
一国の王であったのに、なんて寂しい葬儀なのだろう。
たった数人の参列で見送られた。
部屋に戻ろうとした時、バランド公爵に呼びかけられる。
「皇太子殿下、この後、遺言の公表があります。
立ち会っていただけないでしょうか」
「わかった」
「ありがとうございます」
葬儀が終わったらすぐに遺言を公表すると言っていた。
全員が謁見室に集められているという。
もしやと不安に思いながらもマティアス様と謁見室に向かう。
そこにはやはり包帯を顔中に巻いたナタニエル様とアンジェラ様がいた。
「あちらへどうぞ」
「わかった。リンネアも行こう」
「はい」
本来なら、エルドレド国王と側妃が座るべき席に、
マティアス様と私が並んで座る。
そのことにナタニエル様は不快そうな顔をしたけれど、
身分の差はわかっているからか何も言わなかった。
だが、アンジェラ様は不満を口にしてしまう。
「どうしてお兄様が座らないの?
お父様が亡くなったのなら、お兄様が国王になるはずでしょう!?」
「アンジェラ、皇太子殿下がお見えになっているんだ。黙れ」
「もう!私はお兄様のために言っているのに!」
兄妹で言い合いをしているが、発音がおかしい。
「……唇も腐ってきているのか」
マティアス様がぽつりと言ったことで、二人の病状が悪化しているのだと知る。
そうしているうちに謁見室に側妃と第二王子、第三王子も入ってきて、
ナタニエル様たちに見えないすみのほうに立つ。
いつもそうしているのか、三人とも気配を消すのが上手い。
王子たちも幼いのに、一言も話さずに行動している。
今まで、どれだけ邪魔者扱いされて来たのか。
私が皇太子妃教育で通った八年間、ほとんど会う事もなかった。
「皆様、おそろいですね。それでは遺言の公表をいたします」
国王の遺言は、亡くなる十日前に三公爵が国王から聞いたもの。
最後の力を振り絞るようにして話したという。
代表で読み上げるのか、叔父様が前に出る。
ふと気がつけば、バランド公爵とベルララ公爵は側妃のそばにいた。
「早く公表してくれ」
「ええ、早く!」
待ちきれない様子のナタニエル様たちを見ることなく、
叔父様は遺言書を読み上げた。
「次の国王を指名する前に私が亡くなった場合、
この遺言を公表することを三公爵に託す。
次の国王は第二王子セレスタンか第三王子クリストフとする」
「は!?」
「どういうことよ!!」
「静かにしろ!公爵、続きを」
騒ぎ出した二人をマティアス様が一喝する。
このために立ち会ってほしと言ってきたのか。
こんな遺言、二人が納得するわけがない。
「王太子ナタニエルと王太子妃サンドラ、第一王女アンジェラは廃籍とする」
「……は?」
「なんですって!!」
「最後まで黙って聞け!」
まだ続きがあるのか、叔父様が口を開いた。
「以上の三名は死ぬまで離宮にて療養することとする。
そして、今後王族として生まれたものは、十五歳になった時に、
この三名に会い、地毒の被害を学ぶこととする」
「それで最後か?」
「はい。あとは遺言ではありませんが、
第二王子と第三王子が継ぐ場合は、第三王子が十五歳になった時に王太子を選び、
バランド公爵家の末娘ジュリアと婚約させること、
そして新しい国王になるまで三公爵家が国王代理となるように、
と以前に命じられていました」
「わかった。皇太子の名でその遺言を認めよう」
「「「ありがとうございます」」」
三公爵は恭しく頭を下げたが、それで納得できないアンジェラ様が、
公爵たちの後ろに隠れるように立っていた側妃に嚙みついた。
「あんたがお父様にそう言わせたのね!!」
「ち、違います……」
「違うわけないでしょう!自分の子を国王にしたいからって、
私たちを排除しようだなんて許せないわ!」
突進するように側妃に向かったアンジェラ様を公爵二人が阻む。
それでも興奮したアンジェラ様は側妃をつかもうともがく。
無理に身体を動かしたからか、包帯がずれて、腐った血肉が見えている。
何とも言えない臭いもただよい、公爵たちがアンジェラ様にさわるのをためらう。
そのすきをついて、アンジェラ様が側妃の髪をつかんだ。
「きゃぁ!」
「この女のせいで!!よくも!よくも私たちをこんな目に!!」
側妃が何かしたわけではないのに、すべての恨みが側妃にむかったようだ。
「すぐさま王女を捕らえよ!」
「「「「はっ!」」」」
マティアス様の命により、近衛騎士たちがアンジェラ様を取り押さえる。
それでも身体のあちこちが腐っているからか、
どこをつかんでいいか迷っているように見える。
アンジェラ様を止めたのはナタニエル様だった。
遺言を聞いて茫然としていたけれど、アンジェラ様の騒ぎに気づき、
落ち着いた声で止めるように言った。
「……アンジェラ、やめるんだ。
そんなことをすれば自分の身体を痛めつけるだけだ」




