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78.王宮では

エルドレド全土を回るのは思ったよりも時間がかかった。

それは食料の補給のために何度も戻らなければならなかったから。

結局汚染されていないのはオードラン公爵領だけだった。


「あの花を全土に咲かせることができればいいんだが」


「叔父様が公爵領に種を送ったと言っていました。

 何年かすれば全土に広がるかもしれません」


「そうだな」




すべてが終わった王宮に戻ったのは二十日後のことだった。

先に文官と騎士が戻っていたからか、出迎えが見える。


三公爵と一緒に待っていたのは……


「あれはサンドラか……めんどうだな」


「マティアス様を待っているのでしょうね」


腕組みしたままのサンドラ様は三公爵とは少し離れていた。

不機嫌そうな表情だが、馬車が着くと笑顔に変わった。


「マティアス様!!」


まだ馬車から降りてもいないのに叫んでいるのが聞こえる。


マティアス様はそれには答えず、降りた後で私に手を伸ばした。

私も降りた後、まずは三公爵へと声をかけた。


「いなかった間の報告を聞きたい」


「ええ、まずは中へ」


「ああ」


三公爵の後ろについて王宮に入ろうとすると、サンドラ様が間に入ってこようとした。

それを止めたのは剣を持ったケニー様だった。


「待て、マティアス様に何をする気だ!」


「無礼よ!私は王太子妃なのよ!」


「それがどうした。

 皇太子に許可なく近づくのなら排除するに決まっているだろう」


「なによ!マティアス様と話したいだけじゃない!」


まったく悪いことをしたと思っていないサンドラ様に、

マティアス様がため息をついた。


「サンドラ、用があるなら手短に言え」


「あのね、ナタニエルとは離縁するから帝国に連れて帰ってくれる?

 王太子妃じゃなくなればいいんでしょう?」


「離縁する許可は出たのか?」


「許可って?」


「一度王族になったものが簡単に外に出られるわけがないだろう。

 一生この国から出られないと思え」


「うそ……」


「結婚する時に誓約書を書いたはずだ」


「だって、ナタニエルがあんな化け物になるなんて思わなかったんだもの!」


「サンドラ様!!」


サンドラ様を止めたのは険しい表情のベルララ公爵だった。


「な、なによ」


「口を慎んでもらえますかな」


「だ、だって本当のことなのに」


「……近衛騎士、サンドラ様を部屋に戻してくれ。

 アンジェラ様と同じように」


 「「「はっ!」」」


「やめてちょうだい!さわらないで!」


サンドラ様は抵抗していたけれど、騎士たちに無理やり連れていかれた。

アンジェラ様と同じように……これ以上よけないことを言わないように、

薬で眠らせておけという事なのだと思う。


近くの応接室に入った後、三公爵から話を聞く。

それは予想よりもずっと悪いものだった。


「陛下はもう無理でしょう。今夜か明日には」


「そうか。間に合わなかったか」


「おそらく発覚した時点でもう遅かったのだと」


「そうだな……」


いくら地毒が解消されたとしても、

それまでに身体が腐ってしまえば薬でも治すことはできない。


「ナタニエル様に確認したところ、

 陛下は結婚式の一か月半前には症状が出ていたそうです」


「そんなに前に?」


「ナタニエル様だけが私室に呼び出されて、

 お前には症状は出ていないのか、と言われたそうです。

 それで地毒だと知ったナタニエル様は、陛下を部屋に監禁したそうです」


「どうやってそんなことができたんだ?」


「陛下には地毒のことは自分が帝国に報告するから、

 心配せずに治療に専念してほしいと騙して。

 治療していた医師は金で黙らせたそうです」


「あの医師はやっぱり知っていたのか」


地毒だと知っていて、帝国に知らせなかったのなら、

ナタニエル様と医師は罪に問われることになる。


「……陛下が、ナタニエル様の命だけは助けてほしいと」


「自分がそのせいで死ぬのにか?」


「これが陛下の遺言です。三公爵で確認しました」


差し出された遺言をマティアス様が読んで、少しの間考え込んでいる。


「王太子の症状は?」


「鼻と右頬、両耳と髪の毛、そして手と足の指が腐り落ちています。

 ここ数日は薬の効果が出てきたようで、悪化せずにいるようですが」


「ああ、地毒が解消されたからだな」


「死ぬことはないでしょうが、死ぬよりもつらいかもしれません」


「そうか……わかった。遺言の通りにしよう」


「ありがとうございます」



私たちに用意されている特別室に戻り、湯あみをして旅の汚れを落とす。

マティアス様はナタニエル様たちの様子を見に行くことはなく、

帝国から届いた報告を確認していた。


何か気になる報告でもあったのか、浮かない顔をしている。


「あと数日したら帝国に戻ろう」


「わかりました」


「リンネアはまだ学園があるのに、こんなに休ませてしまったな」


「卒業試験を受ければ大丈夫です」


長期間休むことになってしまったが、卒業するのに問題はない。

アデリナ様や友人たちに会えないのは残念だけど、

卒業しても社交界で会う事はできる。


知らせが来たのはその日の真夜中だった。

緊急の知らせがある場合のノックの仕方だった。


「リンネア、待っていて」


「はい」


マティアス様だけがベッドから出て確認しにいく。

私が夜着姿だから相手を中にいれることはできない。

この時間はマリアもカルラもいない。


開いたドアの隙間から見られないように毛布の中に潜り込む。


少ししてマティアス様が戻ってくる。


「ケニーからの報告だった」


「何があったのですか?」


「国王が亡くなった」


「……そうですか」


「地毒での死者は葬列を出せない。

 明日の朝、王族の墓に埋葬することになる」


「わかりました」






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