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ボーイズアイドル殺人事件  作者: 貴堂水樹
第四章 あるアイドルの殺人

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1-1.

「ちょっと待って」

 部外者の息子と事件について語り合っているというゆゆしき事態をとがめることも忘れ、成美は樹の推理に疑義を唱えた。

「どうして今岡だって断定できるのよ。確かに仁木はMCの直前、今岡の左肩に触れてる。でも、仮に衣装にピーナッツの成分を付着させておいたのだとしたら、真犯人が今岡に罪を着せるためにわざと今岡の衣装に……」

『だから、その発想が間違ってんだってば。推理小説じゃあるまいし』

「はぁ?」

 生意気な。なにが推理小説だ。こっちは現役警察官だというのに。

「どういうことよ」

『さっき言っただろ。ライブの備品はそれぞれ担当のスタッフさんがきちんと管理してる。本堂さんに確認してもらったから間違いない。これが前提なら、リハーサル中だろうが本番中だろうが、他の出演者の衣装や備品に触れたり、自分の持ち場とはまったく関係のない備品置き場の周辺をうろついていたりしたら一発で怪しまれるんだよ。ましてやピーナッツの成分……たとえば市販のピーナッツクリームとか、そんなものを備品に塗りたくろうとすればどうしたって怪しい動きになるし、事前に仕掛けておいた場合、不審に思ったスタッフさんに除去されてしまうリスクは完全には排除できない。ライブ会場はたくさんの人の出入りがあるから、その隙間に隠れて犯行がしやすくなるのかなって最初は考えたけど、たぶん逆なんだよな。人の目がありすぎるからこそ、自分に与えられた役割以外のことをやろうとするとむしろ目立つ。犯人にできたのは、自分の持ち場の中で仁木さんにピーナッツを摂取させる方法を採ること。それだけだよ』

 言われてみればそのとおりだ。自分が扱っていても周りから不審に思われないもの、仁木以外の人間が決して手を触れないものに犯人はピーナッツの成分を仕込んだ。今岡が犯人だとするなら、彼は自分自身の身につける衣装に仁木の右手が確実に触れることを利用し、罠を仕掛けたということになる。犯人の目的は深瀬岳にプレッシャーを与えることなのだから、仁木が本番中、多くの観客が見守る中で殺害されそうになるところを見せることで大きな心理的負担をかけることもできるというわけだ。

「言いたいことはわかる。でも、だからといって今岡を犯人だと名指しできることにはならない。根拠はあるの? 今岡灯真を犯人だと断定できる根拠が」

『ある。……と思う、たぶん』

「ずいぶん自信がなさそうだけど」

『そりゃあな。俺がそっちにいれば自分の目で確かめられるんだけど、そういうわけにもいかないからさ。てことで、とりあえず最後まで聞いてくれよ、俺の話』

 どうにも納得のいかない部分はあるものの、参考意見として聞くだけだと自分に言い聞かせ、成美は樹の頼みを聞き入れることにした。

「あんたが今岡灯真を犯人だと考えた理由は?」

『一番の理由は、仁木さんがアナフィラキシーショックを起こして倒れる前、今岡さんだけが一人で行動する時間を持っていたこと。食物アレルギーは基本的に即時性のアレルギーだ。食べたらすぐに症状が現れる。事前にピーナッツを仕込んでおくことが不可能なら、仁木さんが実際にピーナッツを口にする直前に準備をする必要があるわけで、それができたのは今岡さんだけだなって思ったんだ。動機の線も含めてね』

「ちょっと待って。それなら依田瑛士にだって犯行は可能だったんじゃない? 彼もステージ上で仁木の右手に触れてる。二人で手押し相撲をやっていたから」

『手押し相撲? 依田さんが自分の手にピーナッツクリームを塗っておいて、その手で仁木さんの右手に触ったって言いたいの?』

「あり得ないことじゃないでしょ」

『あり得ないね。仮にそうだったとしたら、ステージ上で依田さんが右手で触ったものすべてにピーナッツクリームがついてしまうことになる。衣装とか、マイクスタンドとかにね。それに、仮に母さんが言うとおり依田さんが仁木さんの右手に直接触れることでピーナッツを食べさせたんだとしたら、タイミングとしてちょっと早すぎるような気がしない? 手押し相撲をしてから投げキッスの振付にいくまで、ステージではおよそ二曲が演奏されていた。ライトを浴びながら歌って踊れば大量の汗をかくんだから、せっかく手に付着させたピーナッツの成分が汗で流れ落ちてしまう可能性はゼロじゃない。一方で、今岡さんの衣装に仁木さんが手を触れる瞬間を狙えば、そのあとすぐに投げキッスの振付になる。指先にばっちりピーナッツがついた状態で唇に触れさせることが確実にできるのは、母さんならどっちだと思う?』

 答えるまでもない。後者だ。さらに言えば、依田と仁木がステージ上で手押し相撲をしたのは完全な偶然だったのだ。決められた演出ではなく、公演ごとに演者のアドリブでなにをするか決める場面だった。つまり、たとえば依田が手押し相撲をしようと誘っても、仁木が乗ってこなかった可能性もあったということだ。ここにも不確定要素が入ってくる。確実性を高めるなら、この方法は選ばない。

『ここからは俺の勝手な想像だけど』

 樹は妙に控えめな前置きを据えてから語り始めた。

『さっきも言ったとおり、今岡さんには仁木さんが倒れる直前に一人で行動する時間があった。自分のソロコーナーが終わるとあの人はステージ裏へ下がり、残りの五人が入れ替わりでステージに上がる。この時今岡さんは自分の衣装の左肩にピーナッツの成分を仕込んだんだ。ソロコーナーの衣装から、みんなと同じ次の衣装に着替えるタイミングでね』

「そんな時間があるの? 確かあの時、今岡はソロコーナーが終わってから二分とかからずにステージへ戻ってる。あんなゴテゴテした衣装、着替えるだけで一苦労でしょう。その上ピーナッツクリームを塗り込むなんてこと、あの短時間でできるもの?」

『できると思うよ。塗るんじゃなくて、貼りつけるだけならね』

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