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ボーイズアイドル殺人事件  作者: 貴堂水樹
第三章 あるアイドルの告白

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5-2.

 たとえばマイクスタンドにピーナッツバターを塗っておく。たとえばイヤホンモニターにピーナッツバターを塗っておく。たとえば衣装にピーナッツバターを塗っておく。これが可能だった人物は、限られるどころかかなり大勢いる。リハーサル終了後、あるいは本番中にこっそりピーナッツバターを仕掛けることは、ステージ裏を出入りできるライブの関係者なら誰にだってできたはずだ。平良倫瑠絡みで動機のあった者に絞っても同じことで、たとえば今岡灯真の衣装をピーナッツの仕掛け場所に選べば、今岡に殺人の罪を着せることもできそうだ。

 思いがけず、頭をかかえることになった。ようやく犯人に近づけたと思ったのに、これでは振り出しに戻ったも同然じゃないか。

 モニターの前でうなっていると、背後から本堂に声をかけられた。

「主任」

「なに」

「樹くんから電話が入ってます」

 勢いよく振り返る。本堂が自らのスマートフォンを成美に差し出していた。

 成美は自分のスマートフォンを確認する。着信は入っていない。最初から本堂にかけたのか。なぜ。

 無意識のうちに本堂を睨みつけながら端末を受け取り、成美は息子からの電話に出た。

「いっちゃん?」

『あ、母さん? ごめんな、忙しいのに』

「なにかあったの? どうして私に直接かけてこないのよ」

『母さんにかけてもすぐに切られると思ったからさ。ちなみに俺、もう家に帰ってるから安心して。梨里亜のお父さんとお母さんにはよくお礼を言っておきました』

 百点だ。ライブが中断になったからか、予定よりも早く帰宅できたらしい。

「それで、私になんの用事?」

『母さん、仁木魁星にピーナッツを食べさせたヤツ、誰かわかった?』

 なぜ知っているのだ、仁木魁星がピーナッツアレルギーで倒れたことを。

 改めて本堂を睨む。本堂は「僕は悪くない」と言いたげな顔でぶんぶん首を横に振った。なるほど、樹はなにか本堂の弱みを握っていると見た。本堂は脅され、事件の詳細について樹にしゃべらされたらしい。

「まだよ。ようやく方法がわかったところ」

『へぇ。その方法ってのは?』

「犯人はおそらく、仁木の右手の指先にピーナッツの成分が付着するような仕掛けを準備していたのよ。MCに入る直前の楽曲、最後に全員で投げキッスをする振付になっているの。つまり仁木はその瞬間、自らの唇に手を触れる。指先から唇へ移ったピーナッツの成分は、ステージドリンクで水分補給をした時に体内へ取り込まれ、MCの最中にアナフィラキシーショックを起こした。ステージドリンクにあらかじめピーナッツを仕込んでおいたという線はすでに消えてる。今話した方法以外には考えられない」

『なるほど。で、母さんはどのタイミングで仁木さんが右の指でピーナッツに触れたと考えてるわけ?』

「仁木が倒れた時間から逆算すれば、彼の指先にピーナッツの成分が付着したのは彼のソロコーナーが終わったあとのことだったってところまではわかってるのよ。でも、なにに触れたことで指にピーナッツの成分がついたのか、誰が仕掛けたのか、それがまだわからないの」

『……母さん、それ、マジで言ってる?』

「え?」

『そんなところで悩んでんのかよ。それじゃあ犯人になんてたどり着けるわけないって』

 どういう意味だ。いや、ちょっと待て。

「樹、あんたまさか」

 わかっているのか、樹には。犯人が誰なのか。仁木の指にどのタイミングでピーナッツの成分が付着したのか。

 樹はいつもとなんら変わらない淡々とした口調で言った。

『本堂さんから聞いたよ。仁木さんだけじゃなく、Billionのメンバーが飲むステージドリンクはライブのスタッフさんが準備したもので、ライブ中も同じスタッフさんが管理をまかされてるんだってな。それって、他の備品にも同じことが言えると思うんだけど、どうかな』

 他の備品。なるほど、そうかもしれない。

 たとえばマイクスタンドなら機材をセッティングするスタッフ、衣装なら衣装担当のスタッフというように、スタッフはそれぞれ自分に与えられた役割に沿って動いているはずだ。不備があれば担当スタッフの責任になることは明白で、ゆえに管理や整備には徹底して気を配るに違いない。無関係の者に不用意に手を触れられれば不審に思うだろうし、人によっては「触るな!」と怒鳴ることもあるだろう。運よく人の目を盗んでピーナッツバターを仕掛けられたとしても、管理担当のスタッフがにおいや妙なベタつきに気づいて拭い取ってしまうことも考えられる。

 さらに言うなら、担当スタッフの中に仁木と同じ重篤なピーナッツアレルギーを持っている者がいないとも限らない。事前に仕掛けておくことで、アレルギーを持っているスタッフのほうが仁木よりも先にうっかり口に入れてしまうことが絶対にないとは言い切れないのだ。計画的に動いている犯人が、そんな綱渡り的な犯行計画を立てるとも思えない。

「そうね。でも、だとしたら犯人は、仁木だけが触るものに確実にピーナッツを仕掛けられた人ってことになるけど、そんな人、どうやって絞り込めばいいのよ。本番前に仕掛けておくことが難しいのはわかった。でも、本番中にチャンスのあった人だって何人もいるでしょ」

『そんなことないって。誰にも怪しまれることなく、確実に仁木さんにピーナッツを食べさせることができた人って一人しかいないよ』

 まさか。この条件下で、百人を超えるライブ関係者の中からたった一人にまで絞られるというのか。

「誰なの」

 成美は恥を捨てて息子に問う。

 一拍の間を置いて、樹は言った。

『今岡灯真だよ』

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