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ボーイズアイドル殺人事件  作者: 貴堂水樹
第三章 あるアイドルの告白

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30/42

3-1.

 仁木を病院へ緊急搬送した救急隊員と入れ違うように、地元警察である愛知県警の面々がホールに押し寄せ、関係者、そして客席への指示誘導を一手に引き受けてくれた。警視庁の所属である成美や本堂と面識のある捜査員はおらず、互いの腹を探りつつの合同捜査が開始された。

 現場の指揮を執る愛知県警刑事部の阿知波あちわ警部補に、成美は事件当時の状況を事細かに説明した。

 ライブの開演から一時間、MCタイムのゲームコーナーを終えた頃、仁木魁星が突如ステージ上で苦しみ出した。全身の痙攣とチアノーゼが出ており、彼が重度のピーナッツアレルギーであることをBillionのメンバーが指摘。アナフィラキシーショックが起きたことを悟り、常備していたというエピペンを探すが見つからず、ショック症状は緩和されないまま緊急搬送。仁木の所持品の中から東京で起きた蝉川玲央殺しの時と同じ赤いメッセージカードが四枚発見され、それぞれ貴島慎平、三栗谷悠斗、今岡灯真、依田瑛士を示しているものと推測された。蝉川の事件の際には仁木の存在をにおわせるカードがあったことから、これを殺人予告と見る線がより濃厚になったことも付け加えておく。

「計画的犯行ですな」

 阿知波警部補がシュッと細い顎を撫でながら言う。

「犯人はなんらかの方法で被害者にピーナッツを摂取させ、ショック症状が起きた際に注射する薬を奪い去った。アナフィラキシーショックは発症から三十分が勝負と言われていますから、時間稼ぎのために手荷物から薬を抜き取ったのでしょう」

「えぇ。おそらくはまだこの会場のどこかに」

 仁木が搬送されるまでの間、本堂を中心に動けるスタッフを総動員してエピペンの捜索が続けられた。しかし、現在も発見には至っていない。愛知県警の到着後、外注スタッフを含めたライブ関係者全員が身体検査を受けたにもかかわらず、だ。いったいどこへ隠したのか。あるいは、すでにこの会場の外へ持ち出されてしまったのか。

「ピーナッツの摂取経路については?」

 阿知波警部補が成美に尋ねる。

「ライブの最中、被害者はなにか食べたり飲んだりしましたか?」

「私の知る限り、被害者が経口摂取したのは水分補給用のステージドリンクだけです。ペットボトルのキャップに穴を開け、そこにストローを通したものをスタッフが開演前に準備しておくんだそうです」

「では、そこから?」

「可能性は一番高いでしょうね。たとえば、ストローの内側に薄くピーナッツバターを塗ったものを会場に持ち込み、仁木のネームラベルが貼られたステージドリンクの一つに忍ばせておく。あとは仁木がドリンクを飲むのを待つだけ。ストローを一本こっそり持ち込んだところで怪しまれることもないし、ステージ裏を行き来する人間なら誰にでもチャンスはあったのではないでしょうか」

「あの、主任」

 本堂が控えめに挙手をした。

「それってヘンです」

「なにが」

「僕、子どもの頃に生卵で蕁麻疹じんましんが出たことがあるんですけど、食べてから十五分もしないうちに全身がかゆくてたまらなくなったんです。食べ物のアレルギーってほとんどがそんな感じらしいんですよ。摂取後すぐに症状が出る」

 そういうことか。成美はきびすを返し、ステージ裏に向かう。出演者にドリンクを手渡す係をしていたスタッフは、他のスタッフと一緒に一か所に集められて待機していた。

「仁木さんにドリンクを手渡したのはあなたでしたよね」

 スタッフの一人に成美は尋ねる。担当の若い男性スタッフは自分が疑われていると思っているのか、この世の終わりというような顔をして「はい」と答えた。

「仁木さんにドリンクを手渡したのはいつ?」

「い、いつ……?」

「彼は何回、あのドリンクに口をつけたんですか」

「あ、あぁ……えっと、三回、かな」

「三回」

「はい。ソロコーナーが始まる前と終わったあと、それからMCに入った直後です」

「三回とも同じボトルを渡した?」

「そうです。ドリンクはメンバーごとにラベルで色分けされて、メインステージの裏とセンターステージの下にそれぞれ用意されてるんですけど、センターステージのほうは演出の都合もあって、ライブの後半でしか飲むタイミングがなかったはずです」

 本堂の指摘は正しかった。ドリンクのストローにピーナッツバターを仕掛けておいたとするなら、最初に給水をしたソロコーナーのタイミングで仁木は倒れていなくては辻褄つじつまが合わない。だが実際には、仁木は三度目の水分補給後にアナフィラキシーショックを起こしている。どういうことか。

「ボトルのストローを途中で抜いたり、新しいものに取り替えたりすることはありますか」

「ストローですか? ないですよ。水に弱い機材もありますし、飲み終えて空になったボトルは終演後にまとめて片づけますから、ライブの最中にストローを抜くことはありません」

 他のスタッフにも確認すると、全員が同じ回答だった。実際に仁木にドリンクを手渡したスタッフが嘘をついている可能性もあるが、自分が真っ先に疑われるとわかりきった状況の中で殺人を犯すのは犯人の心理としてやや考えにくい。そもそも彼らドリンク係は全員、今回のライブではじめてBillionと一緒に仕事をしたというから、容疑者としてふさわしいとは思えない。

 ドリンクのボトルから摂取したのではないのか。

 だとしたら、仁木はどこでピーナッツを口にした?

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