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「蝉川さんと平良さんのご関係についてはいかがですか。あなたの目から見て、お二人は同じグループのメンバーとしてうまくいっていましたか」
「特別仲が悪かったということはなかったと思いますよ。オーディションの四次審査以降は一ヶ月間の合宿形式でおこないましたが、同じ時間を長く過ごせば当然ケンカになることもある。ですが、それはそれ。誰もが高みを目指す者として意見を戦わせた結果ですから、根に持つのはナンセンスでしょう。もっとも、そういう性格が見えてしまっていた参加者は不合格にしましたので、最終合格者の八人はグループとして問題なく活動していける子ばかりが残ったはずです」
小さな疑問が首をもたげた。先ほど会議室で聞いた話と少し印象が異なる。
「深瀬岳さんは、一匹狼タイプの方だと伺いましたが」
「彼はソロには向きません」
青塚は断言した。
「一人でやらせてもあの子は伸びない。深瀬岳という突出した個性を生かすには、むしろグループで活動させる必要がある。彼には子役の経験があるので色眼鏡で見る向きもまったくなかったわけではありませんが、他の子たちが彼をどう見ているかはさておき、少なくとも私は、深瀬はBillionに加入させることで彼の中に眠る才能がより大きく花開くと判断しました」
成美は納得してうなずいた。天才音楽家は人を見る目も優れていて、実際に深瀬岳はBillionのメンバーとして成功を収めている。平良倫瑠とは仲よくやっていたというから、他のメンバーともまったくうまくいっていないということはないのだろう。
「では、グループ全体での関係も良好だったわけですね」
「私の知らないところで起きたことまではわかりませんが、なにか困ったことがあれば直接私に相談するようにと彼らには言ってありますし、マネージャーを頼った時には必ず私の耳に入るようになっていますから、グループ内で大きなもめごとがあったということはこれまで一度もないはずです。世間的にも、Billionは仲よし七人組として認識されているようですしね」
「そうですか。では、蝉川さんが個人的に殺される原因を作っていた、といったことにお心当たりは?」
「ないと信じたいのですがね。それこそ、プライベートについてはさすがに私も全員の事情を事細かに把握するというのは」
青塚は首を横に振る。当然だ。彼が面倒を見ているオフィスブルーの所属アーティストはBillionだけではない。蝉川玲央が個人的にどこで誰とつながっている、なんて話をすべて把握することはマネージャーでさえ不可能だろう。平良倫瑠との関係も良好だったとするなら、蝉川が殺された動機はいったいどこにあるのか。
そう、動機だ。
犯人が蝉川を殺した理由が平良倫瑠にあるとして、犯人はなぜ蝉川の命を奪わなければならなかったのか。怨恨の線なら、たとえば平良倫瑠はすでにこの世を去っていて、蝉川は平良倫瑠の死になんらかの形でかかわっているということか。それを知った何者かが、復讐として蝉川を殺害した。
いや、そうとも限らない。犯人は平良倫瑠がBillionとしてデビューを飾れなかったことに不満を持った者という可能性もある。とするなら、蝉川個人を標的にしたわけではなく、グループそのものを崩壊させることが目的なのかもしれない。あのメッセージカードの示す意味はやはり次の犯行の予告で、一人ずつ順番に、七人全員を殺していく。それが犯人の真の目的なら――。
「まだなにか、私にお聞きになりたいことがありますか」
青塚に声をかけられ、思考に没頭していたことに気がついた。水を向けられたので、最後に一つだけ確認しておく。
「昨日の深夜……午後十一時から午前一時頃ですが、どちらに?」
「アリバイ確認というやつですね。なるほど、私は容疑者の一人に数えられているというわけですか」
「誤解なさらないでください。みなさんにお伺いしていることです」
「まぁ、いいでしょう。昨日はここでBillionのライブを鑑賞したあと、まっすぐ帰宅しました。今朝家を出るまで、ずっと自宅に」
「どなたかに証明していただくことは?」
「妻と娘が一緒でしたが、家族の証言は参考程度にしかならないと聞いたことがあります」
「おっしゃるとおりです」
「では、私には確かなアリバイがあるとは言えませんね、残念ながら」
あまり残念そうに聞こえなかった。やましいことがなければそれも当然かもしれないが。
「ありがとうございました。大変参考になりました」
「ご苦労様です。またなにかありましたら遠慮なくお声がけください。協力は惜しみませんよ」
「助かります。……もしよろしければ」
立ち去ろうとした青塚の背中に、成美はもう一声かけた。青塚は音もなく振り返る。
「彼らに、よく注意して生活するようにとお伝えいただけますか」
「というと?」
「皆さん、蝉川さんには殺されるような理由はないと口を揃えておっしゃいます。仮に蝉川さんが個人的な理由で殺されたのではないとするなら、犯人の目が残る六人にも向いていると考えられなくもありません」
「なるほど。犯人の狙いはBillionというグループそのもの。蝉川はBillionのメンバーだったから殺された、と?」
「検証すべき可能性の一つとして視野に入れているという程度です。しかし、排除できるだけの理由も根拠も今はない。彼らを無闇に怯えさせたくはありませんが、注意しておくに越したことはないと思います」
青塚は納得した顔で深くうなずく。
「私から彼らによく言っておきましょう。これ以上なにも起きないうちに犯人が捕まることを祈っています」
最後の一言は嫌味ととらえるべきだろうか。青塚は端正な微笑を残し、会議室へと消えていった。
我知らず、息をつく。思いのほか神経をすり減らして会話をしていたことに今さらながら気がついた。
青塚遼太郎。彼の話はどこまで信用できるだろう。
スマートフォンが着信音を響かせる。本堂かと思ったが、液晶に表示された意外な名前に成美は両眉を跳ね上げた。仕事中にかけてくるなんて珍しい。緊急の用か。




