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ボーイズアイドル殺人事件  作者: 貴堂水樹
第二章 あるアイドルの失踪

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13/42

1-3.

「音信不通になったんですよ、突然」

 深瀬が再び口を開いた。

「メジャーデビュー一ヶ月前のある日を境に、倫瑠はレッスンに来なくなりました。プレスリリースの直前で、テレビやラジオへの出演予定もあったのに、携帯にかけてもつながらず、自宅にも戻っていない様子だった。倫瑠は沖縄出身だけど頼れる家族はいなくて、ダンスをやっていた頃の仲間たちに尋ねても誰ひとり行方を知らないと答えた。三日が経っても戻らず、手の打ちようがなくなり、ついに社長が倫瑠をグループからはずす決断を下しました。表向きには自主的に脱退したっていうていでね」

 彼らの所属する音楽事務所、オフィスブルーの社長はさらに、今後は平良倫瑠について一切口にしないようにときつく言いつけたという。その時すでに終えていたレコーディングも平良の声を抜いて録音し直し、ミュージックビデオも平良を除いた七人で撮った。Billionは七人組ボーイズグループ。平良倫瑠のことは忘れろ。社長はそう言っていたと深瀬は語った。

「その後、平良さんの行方は?」

 成美が尋ねると、深瀬は首を横に振った。

「わかりません。社長が警察に捜索願を出したって話は聞きましたけど、見つかったって話は……なぁ?」

 貴島も首を横に振る。依田は長い髪をかき上げながら「仮に見つかってたとしても、社長がおれたちに教えてくれるかどうか」と言った。誰も期待していないのだろう。平良倫瑠のことは忘れろと言った社長の言葉は、彼らにとって絶対のものであるらしい。

「それで、三栗谷さん」

 成美の視線が三栗谷に移る。

「なにかお気づきになられたのでは?」

 三栗谷は自信のなさそうな声で答えた。

「玲央くんの胸にあったっていうカードのことなんですけど」

「はい」

「書かれていた歌詞……〈未来はボクらの手の中さ〉っていう魁星くんのソロパート、あれ、魁星くんのパートになる前は倫瑠くんのソロパートだったんです」

 どういうことだ。成美がピンと来ていない顔をしていることを三栗谷は悟り、詳細に説明した。

「『EVERLASTING』という楽曲は、オーディションが終わってすぐ、デビュー曲だと聞かされて練習していた曲なんです。その頃にはまだ倫瑠くんもBillionのメンバーとして一緒にレッスンをしていたから、おれらと同じようにソロパートがあって」

 なるほど、そういう事情か。「つまり」と成美は三栗谷の言葉を引き継いだ。

「例の赤いカードに書かれた歌詞は、本来なら平良さんが歌うはずだった。そういうことですね?」

「はい。他にもデビュー前に練習していた楽曲が二つあって、ソロ以外も含めて、倫瑠くんが歌を担当していたパートはすべて誰かが代わりに入る構成に変更されました」

 成美は確信した。犯人の狙いはこれだ。やはり、選ばれた曲にも歌詞にも意味があった。

 犯人は、平良倫瑠の存在をほのめかしたかった。この事件の発端は間違いなく、平良倫瑠の失踪にある。

 深瀬が唐突に立ち上がった。険しい表情を浮かべて席を離れ、まっすぐ出入り口の扉に向かう。

「どちらへ?」

 成美が問うと、深瀬は無駄のない動作で振り返った。

「灯真の様子を見てくるだけですよ」

 愛想のない口調はわずかに怒気をはらんでいるように聞こえた。深瀬が会議室から姿を消すと、誰かが大きく息をついた。

「おれ、正直忘れてた、倫瑠のこと」

 貴島だった。

「あいつがいなくなったばかりの頃は、毎日のようにあいつのこと考えてたのにな。デビューして、忙しくさせてもらって、目の前のことをこなすのに必死になってるうちに、いつの間にか……」

「みんな一緒だろ」

 依田がフォローする。

「今はもう、あの人といた時間のほうが短くなってる。おれたちを応援してくれてる人の中には、あの人の存在すら知らないって人もいると思う。悲しいことだけど、人間って忘れる生き物なんだよな。薄情だって言われても、そういうもんなんだから仕方ないっていうか」

「おれは」

 三栗谷がうつむいたまま声を上げた。

「おれは一度も忘れたことなんてないよ、倫瑠くんのこと。深瀬くんだってそうだと思う。倫瑠くんと一番仲がよかったの、深瀬くんだから」

「そうかもな」と依田が言った。

「真逆の性格してんのに、なぜか仲いいんだよな、あの二人。倫瑠が誰とでも分けへだてなく付き合えるタイプの男だったってのは大きいだろうけど。深瀬は一匹狼タイプだから」

「でも狼は本来群れで生活して、家族を大切にする動物だよ。深瀬くんもきっとそう。倫瑠くんはいつか必ず戻ってくるって、誰よりも強く信じてるんじゃないかな」

「はぁ? 本気で言ってんの、それ」

 仁木魁星がふてぶてしい態度で言った。

「今さら戻ってきたって、あの人の居場所なんてないでしょ。戻ってくるとも思えないし」

「どうして。なにか事情があって連絡が取れないだけかもしれないじゃん」

「事情ってなに? ていうかおれ、思ったんだけどさ。玲央を殺したの、ミッチーなんじゃないの」

 成美を含めた全員の顔色が変わる。「ちょっと待て」と貴島が怖い顔をして身を乗り出した。

「おまえ、さすがに言っていいことと悪いことがあるぞ、仁木」

「なにいい子ぶってんの、キジー。キジーだって考えなかったわけじゃないんでしょ。玲央と一緒に見つかったっていうあの赤いカードからミッチーのことが浮かんだ時、もしかしたらって」

「おれは……」

「倫瑠くんのはずがない」

 三栗谷がやや声を張る。

「倫瑠くんはそんな人じゃない。人殺しなんて……あんなに優しかった倫瑠くんが、そんなことするわけない」

「同感だな」

 依田が険しい表情で腕を組む。

「それに、こんなことは言いたくないけど、倫瑠だって今でも生きてるかどうか怪しいだろ」

「どういう意味だよ」と貴島。

「倫瑠もすでに死んでるって言いたいのか、瑛士?」

「考えてみろよ。二年も経ってるんだぞ、あの人と連絡が取れなくなってから。おれたちってさ、オーディションの時からテレビに出て、それなりの数の人がおれたちの顔を知ってるわけだろ。そんな中で、警察も捜してくれてるのに見つからないなんてあり得るか? あの人が今でもどこかで生きているんだとしたら、絶対に誰かの目に止まるはずだろ。特にあの人は背が高いし、ダンスの世界大会も経験してる有名人だったんだから」

 依田の意見は、成美にもなるほどと思わせるものがあった。

 彼の指摘どおり、国民的タレントでなくとも、顔と名前が世に出ている人物なら捜索時の手がかりは得やすいし、警察が聞いて回っていることが世間に知れればまず間違いなく噂が立つ。あのアイドルは自主的にBillionを抜けたのではなく、どうやら行方不明になったらしいと。このご時世、噂はネットを介して一気に拡散される。先ほど本堂に平良倫瑠について調べさせた時にも確認したが、世間の認識は「平良倫瑠は自主的にBillionの活動を辞退した」というところで止まっている。つまり、警察から平良倫瑠の行方について尋ねられた人はいない?

 これまで静観の姿勢を貫いてきた成美だったが、口を開かざるを得なくなった。

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