表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で命のせんたくをすることになりました。  作者: fuminyan231
2 となりまち
89/266

らいでるとうまにのるとはおもわなかった

 『キューリシューナ』から出た私たちは、戻る途中に何名かの従士達が駆けていくのを見かけた。窃盗でもあったのかと思ったけど、どうも様子がおかしい。街角からまた別の一団が現れて、また駆けていくのだ。


「どうかしたのかな?」


イリーナの呟きに少し不安が見える。おそらく街に散っている従士達が集まっているのだ。何かの事態がおこったのだろうが、私たちにはまだ分からない。


「旦那様!」


一団の中にウェイバール士爵がいるのをカタリーナさんが見つけた。ロザリンド様も驚いているが、当然あちらも驚いていた。


「これはジュン様。お仲間の皆さんも一緒ですか。お前、これはどういう事だ?」


ウェイバール伯父様はロザリンド様に説明を求めているが、経緯(いきさつ)は後だ。


「何かあったんですか?」


私が聞くと、彼は簡潔に言った。


「近くの村に魔物が襲って来ているらしい。君たちはわたしの家にでもいてくれ」


手短にそう言うと、彼らを連れて行ってしまった。


「魔物…近くって言ってたけど大丈夫だよね?」


イリーナは心配そうだが、何とも言えない。規模も何処なのかも、どんな魔物なのかも分からない。ただ、この街は人口で言えば五万を越える都市だ。生半可な魔物だと簡単に撃退されるだろう。そもそもこの街に攻めてきた訳ではない。伯父様はその村に送る軍を編成するために駆り出されたのだ。


「私たちは執政官の所に戻ります」

「え、家には来てくださらないのですか?」


ロザリンド様は、旦那様の言いつけを守りたいのだろうけどこちらも執政官の所に荷物が置いてある。


「いずれ機会を作って伺います。ではまた」


さあ行こう、と二人に声をかける。お辞儀をして、ちょっと小走りに街を動く。


うん?

なんだろう。私の頭に何か聞こえてる。

あの人の声じゃない。


『…て…どう…んだ』


微かに聞こえる。男の人?この感じ…そうか(通話(テレフォン))だ。なんで聞こえるのか分からないけど、確か師匠は暗号化されてない(通話(テレフォン))は盗み聞く事が出来るって言っていた。たぶん、これはそんな状態なんだろう。


「ちょっと待って。呪文を使うから」

「えっ?大丈夫なの?」

「敵ですか?」


あ、二人が微妙に勘違いしたみたい。


「(通話(テレフォン))を使うの。何か聞けるかも」


二人は敵襲でないことが分かると身構えるのをやめた。私は(通話(テレフォン))の呪文を紡いでいく。【翻訳(トランスレイト)】が、呪文の文字である古代語から現代に使われる広域共用語へと変換する。私はその中の構文に『可聴可能な通話を番号を振って、任意の通話に割り込めるように』改変する。


『連絡してきたのは森の風、そうあいつだ。敵はゴブリン、ホブゴブリンの混成隊、約五十。シャーマン一騎確認。現状あいつだけでは村は守りきれない。現在村人十数名を確保して村長宅での防衛戦中、ただ結界は最大で一刻がいいところらしい』

『了解、鋼。グアルコまでは早馬なら半刻以下で着くはずだ。こちらから騎馬で三十送る。魔術兵はいないので森の風に支援要請』

『了解、二番目の兄弟(セカンドブラザー)。ただし向こうも余裕は余りない。場合によっては陥落もある。以上、通信終わり』

『了解、通信終わり』


耳をすませて会話を盗み聞く。秘匿されてないのが幸いしたよ。会話はオルガさんとウェイバール伯父様のようだった。


「襲撃された村はグアルコ、敵はゴブリン以下約五十、ホブゴブリンやシャーマンも確認されてるらしい」

「五十って中規模まで拡大してるのか」


イリーナの説明通りなら残存の兵力がまだ巣穴にはあるはず。


「グアルコとは、先日訓練に出たときの所ですか?」

「そうだよ、こっからは歩いて二時間くらいの小さな村だよ。五~六十人くらいの規模だったと思う 」


その数だと戦闘出来る人間は十人はいない。普通の村は従士も常駐しないし、居たとしても一人か二人。

あ、もうひとつの回線が通話を始めた。耳を塞いで集中する。


もしもし(ハロー)、森の風』

『なによ、オルガ。援軍は出せるの?』


えっ!?ノーリゥアちゃん?


『今いる冒険者(やつら)は馬を持ってない。領軍に要請した。騎馬で三十、半刻以内に着く予定だとよ』

『半刻も待ってたら、みんな焼け死ぬわよ!無論あたしもね!』


…よほど不味い状況なのかな。というかノーリゥアちゃん、別れた後にそこに行ってて巻き込まれたのか…なんて事だ。


『何とかして生きろよ、迅き風がゴブリンに殺されたなんて笑い話にもなりゃしないからな』

『分かってるわよ!せめて魔石補充しとけば良かったなあ』


ノーリゥアちゃんだって相当な魔力があるはずだけど、防御結界も張ってるしその前に結構な量を使っただろうな。乱戦だと(睡眠の霧(スリープミスト))も使いづらいし。


『邪魔になるから切るぞ、酒奢るぜ』

『浴びるほど飲んでやるわ!じゃあね!』


ここで通話は終了した。オルガさんとノーリゥアちゃんの符丁を記録、ウェイバール伯父様の方は魔術装具みたいだけど、たぶん軍の司令官に備品だろう。一応『ウェズデクラウス領軍司令部』としておこう。


「ど、どうだったの?」


イリーナが聞いてくる。よほど私が青い顔をしていたのだろうか、フランが手巾(ハンカチ)で汗を拭いてくれている。


「そこに、ノーリゥアちゃんがいるみたい」


私の言葉は二人にちゃんと届いただろうか。否、ちゃんと声に出せていたか。

こんな一大事が起こっているにも関わらず、街は夕闇に染まっていき人々は仕事帰りに料理屋や酒場に脚を向けていく。

暮れ泥む街並みの中にいる私たちは、しばし途方にくれたのだった。



とは言え、本当に途方に暮れていた訳ではない。私は私なりに打開策を考えていた。徒歩二時間というとだいたい八~十キロほど。騎馬の早さは三十~四十だから三十分前後で着くはず。けど、従士の装備によっては早さはかなり変わる。また、部隊としての行軍は単騎の行軍と比べるとかなり遅くなる。逆に負担荷重が少なければ少ないほど、単騎であればもっと早くなる。


「ライデルはどこに居ると思う?」

「えっ?ライデルさん?」


イリーナは少し考えて、『宵闇のサルビア』じゃないかなと言った。さっきの伯父様の話にはライデルの事は言及してないけど、居たらいうはずだと思う。なら他に確率が高いのは彼の経営している宿だ。


「二人はヤゼンさんの所か執政官の所へ」


言うが早いか、駆け出す私。面食らって慌てたのか、それでも私を追う二人。だけど、雑踏の中を走る私と二人の距離はどんどん引き離される。


「おじょうさまーっ!」


フランの悲鳴のような声が遠くに聞こえる。でも、今は、許してほしい。私たちの旅が始まる前に、終わらないために。


「ライデルはどこっ?」


ライデルの宿(宵闇のサルビア)に着いた私は受付のお姉さんに噛みつくように聞いた。彼女は、うろたえながらも執務室を指差して今はそちらにおりますと答えた。私はすぐさまその部屋のドアを開けて中に入る。


「ん、どうされた。乙女よ」


ライデルはキョトンとした様子で聞いてきた。私は机に手を叩きつけてこう言った。


「馬を出して。一番速い子で、私を乗せて」


彼は少し驚いていたが、特に断る様子も逡巡する事もなく承りましたと椅子から立ち上がった。そのまま部屋を出て裏手に出ると厩舎へと向かった。


「遠乗り用の駒ですが、早さならこのヴィントが一番です」


厩舎の職員が、鞍と鐙等を持ってきた。二人で手早く付けている。もう一人の職員も来て、足回りを確認しているようだ。大きさで言えばそんなに大きくないけど、賢そうな顔立ちの可愛い子だ。戦場に連れていくのは気が引けるけど、今はお願いします。


「さ、上に」

「うわっと」


いきなり脇の下に手を入れるなよぅ。びっくりするじゃないか。ひょいっと持ち上げられ、ストンと鞍の上に下ろされる。職員が膝まづき、ライデルはその背に足を置いてひらりと鞍に跨がる。


「留守を頼むと副支配人に伝えてくれ」


返事を待たずに彼は手綱を入れて、街へと駆け出す。宿の門を出る所で、フランとイリーナが辿り着いて息を切らせてるのを見た。


「ノーリゥアちゃんは、必ず助けるよー!」


大声で叫ぶが、聞こえたかどうか。私の後ろのライデルがようやく口を開く。


「デートのお誘いではなかったのですか?」


は?

お前、私がデートするから馬を出してと言ってきたと思ってたのか?


「そんな訳無いでしょ。グアルコの村まで最速で。ノーリゥアちゃんがピンチなの!」


後ろからライデルが大きくため息をつくのが分かったが、鞭を入れて速度を上げてくれた。


「分かりましたよ、お嬢様。振り落とされないように」


街の通りを疾走するヴィントは、人にぶつかる様子もなく駆け抜ける。ライデルの騎乗技術が高いのか、街の住民の危機意識が高いのかは分からないが、事故が起きなければそれでいい。


僅か数分で城門まで辿り着くと、集まっていた従士達を尻目に一気に駆け抜けていく。


「何ですかあれは?」

「グアルコへの援軍よ。ゴブリンの群れに襲われてて、そこに運悪くノーリゥアちゃんがいるの」


手短に説明すると、彼はやはり嘆息した。


「私は剣も持ってきてはおりませんが」


細かいことを気にしないで。私だって鎧を着てない。まったくもって普段着のままだ。スカートでないのは幸いしたけどね。


「勝算はあるのですか?」

「状況は分からないけど、何とかなるよ。別に見てるだけでいいからね?」

「ご冗談を。あなたに剣を捧げた身なのに傍観しろとでも?」

「剣は持ってないんだよね?」

「言葉のあやと云うものですよ」


夜道を走らせるのは危ないので(指向性光(フラッシュライト))で道を照らす。光源は私の短杖だ。走る度に揺れ動くが、背に腹は変えられない。


「おお、煙が見えますな」


遠くにたなびく黒煙がいく筋か。おそらくその下がグアルコの村。ノーリゥアちゃんは無事だろうか。村人たちは。今はともかく、一刻も早く。


「急ごう。もっと早く」

「ヴィントが潰れてしまいますよ」

「それは可哀想だ。ほんの少しでいいから早く」

「…無茶を仰るなぁ」


私達を乗せた(ヴィント)は、街道をひた走る。グアルコの村へ向けて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ