↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で命のせんたくをすることになりました。  作者: fuminyan231
2 となりまち
64/266

おとこたちのかいこうとさけののこりが

今回は偉大なるエルフさま、ノーリゥアの視点になります(笑)

 「あれ? お前だけか」


 オルガがようやく来たけど子供たちはお眠の時間らしいので帰ったと伝える。ジュンとイリーナは成人前だし、フランにしても世間ずれしてそうには見えない。

 まあ、無理させることないわ。


「もうそろそろ店仕舞いよ?」

「悪い、ライデルがめんどくさくてな」


 彼女達にはいずれ必要になるとはいえ、やはりあれはアクが強いわよね。


「上手くいったの?」


 そう聞くと彼は笑顔で答えてきた。面倒とか言いながら笑ってるなんて。


「それはもうバッチリさ。それにしても[(強制の誓い(ギアス))の巻物(スクロール)]なんてよく持ってたな?」

「あれはあんたの友達の魔術師から貰ったものよ。いつかの仕事の時に報酬としてくれた奴」


 フレスコって言ってたかな? 実家が巻物(スクロール)職人って言ってたような。


「お前んとこのはギアスだったのか。ウチのは(転移門(ディメンションゲート))だったぜ?」


 あら、中身は全部違ったのかしら? 確かあの時に渡した巻物は全部で六つ。私とオルガ、ティアードにレートライア姉様にグルリム爺とエリィで分けたんだっけ。たしかザイムはいらないって断ったんだ。……自分で作れるからって言ってたけど。


「しかしライデルはなんであんなにユーニスの事に御執心なのかね?」


 うん?

 知らないのかな。


「あれはサトルのせいよ」

「サトル? 『勇者サトル』のせいってどういうこった?」


 話せば簡単な話なんだけどね。まあ、いいわ。話してあげよう。


「サトルは少女趣味(ロリコン)だったのは知ってるわね?」

「ああ。まあ、女の子にモテたいって気持ちは野郎にはつきものだからな」


 少女趣味(ロリコン)でも、彼はそこまで嫌がられる事はなかった。少なくともそれを周りに同意や強要する訳でもなく、『好きなものは好きだ』という姿勢を貫いていたからだ。

 ……少なくとも私はキライにはならなかった。

 私の事、大事にしてくれたから。


「ライデルはちょっと奇行に走るからね。彼の嗜好と彼の行動をいっしょくたに考えるのは良くないわ」


 私は少女趣味(ロリコン)が悪い訳ではないと思う。好きとか嫌いは人それぞれ。

 だけど、いまのライデルの行動は目に余る所が多い。

 サトルは寡黙で(いわお)のような、頑健で力強い男だった。それ故に、女の子、特に小さい子にはすこぶる評判が悪かったけど。

 とても繊細でお菓子作りが得意な人だったのに悲しい事だ。


「子供の頃のライデルに会ってからは、彼の中の同好の(こころざし)を見つけたようで、よくこの街(ウェズデクラウス)に遊びに来てたのよ」

「『勇者』の英才教育か……なるほどね。全く理解できない」


 それはそうでしょ。わたしだって無理だもの。

 でも、子供の頃のライデルは素直でかわいい子だった。今回の事も、そんな昔の彼がまだ残っているんじゃないかと思っての発案だったのだ。


「この宿の基本構想もサトルが提唱していたのよ。清潔で行き届いたサービスをして冒険者も貴族も平民も、みんなが気持ち良い空間で癒される寛ぎの時間を提供する。この世界の根幹にある争いとその悲劇を少しでも減らせればと願っていたの」


 ただ、彼はそれを自分ではやらなかった。

 ライデルにやり方を示し、魔力炉を与え、まだ(ライデル)が十代半ばの頃に流行り病にかかり、あっさりと死んだ。

 [転生の宝珠(オーブ・オブ・ナロー)]を使うために。


「だからお前、この宿にずっと泊まってたんだな。サトルとライデルの作り上げた物だから」


 ちびりとグラスを傾けて琥珀色の液体を舐めるオルガ。

 いつもの火酒(ヴァインブラント)はサトルの好きだった銘の物だ。ただ(サトル)の場合、自分で嗜むのではなく、お菓子に使っていたのだが。


「ちょっと貰うわよ」


 言うが早いか、オルガの持つグラスを奪い去り、半分ほど飲んでしまう。

 くぅ~、きくなあ!

 私の飲んでる黒麦芽酒(シュバルツビア)が水みたいに感じる。


「おいおい、またお前はひとの酒を勝手に……」


 そうは言うが、悪い気はしてなさそう。

 たまには強いお酒も良いものだわ。

 口の中に残る酒精の香りはあのお菓子の香りと同じ。

 ────食べられなくなってもう二十年位経つのか。時が経つのは本当に早い。


「そういうことなら、あの(強制の誓い(ギアス))はちょっと手厳しかったんじゃねえの?」


 オルガの言いたいことは分かる。けど、サトルは不実な事はしなかった。その弟子ならば、やり遂げて欲しいのだ。


「フランを裸にして自分も素っ裸でいたんだから、あれぐらいは厳しくしないとねぇ?」

「ああ、それなんだがな? どうもひん剥いたのは本当にライデルじゃないらしいぜ」


 はあ? 何をどうしたらそんなことが出来るのだろう?


「え、それどういう事? ジュンがなんか変な専用呪文(オリジナルスペル)でも作ったってこと?」


 ジュンの魔力は明らかに尋常じゃないが、それ以上に厄介な能力でもあるの?


「あいつ自身が言ってたけど、あいつの権能(ちから)って奴の一つだそうだ。詳しくは教えてくれなかったから今一つ納得は出来ないけど」

権能(ちから)……」


 本当に『勇者』みたいな娘だ。

 けど、エルザムの娘というのは間違いないとは思う。


「そういえば、ティアードは元気?」


 私の言葉にオルガは嫌味っぽく返してきた。


「元気でなかったら、王様交代してるって。まだまだ死にそうにないよ」


 たしかにまだそういう話しは聞いてない。オルガ達より十歳くらい年上だから、そろそろ危ない時期だとは思うけど。


「人間は早く死んじゃうからね。気を付けてよ……あなたも」


 酔ってるからかな。少しお節介な事言っちゃってる。私も歳をとったのかなぁ。まだ八十位なのに……


「おい、おい、寝るなよ。また人に運ばせる気か……」


 遠くからオルガの声が聞こえる。どうせなんにもしないんでしょうから、適当に運んでちょうだい。私の周りの男はみんな意気地無しなんだから。まったく……









 私のまえに誰かが立っている。

 ここはどこだろう。

 見たことあるような景色。

 貴族の館みたいだからエルフの里じゃなさそうだ。


『よう、ノア。久しぶりだな』



 ノア……


 私をそう呼ぶのはアイツだけのはず。

 つまりこれは、夢だ。

 なんで今ごろ出てきたのよ。

 ……わたしがいちばん淋しかった時に一度も出てこなかったのに。


『悪いな、夢に出るのすら難しくてな』


 ────ばか。


 ばか、ばかぁ。

 ひとの気も知らないで、勝手に転生とか……相談してほしかった。

 わたしを頼って欲しかったのにぃ……


『泣かないでくれ。別にお前が嫌いだった訳じゃないんだ。あのときはああするしかなかったんだ』


 ちゃんと説明してよ。どうして?


『それは今は言えない。ただ俺は俺のままじゃダメだったんだ』


 あなたがダメな所なんて、少女趣味(ロリコン)くらいじゃないの。そのために転生したって意味分からないわ?


少女趣味(ロリコン)は悪くはない! それだけは譲れない!』


 ……あ、やっぱり。

 あなたは変わらないわね。それだけは譲れないっていつも言っていたから。


『……すまない、怒るつもりはなかったんだ。魂に刻まれたモノは中々治らないんだ』


 ふぅん。生きてても、死んでも、夢の中ででも。

 あなたはあなたのままなのね。


『残念だが、俺も変わる……変わってしまう。転生の秘術とあのオーブは似て非なる物だったようだ』


 ───どういう事? いったい何があったって言うの?


『すまない、時間切れのようだ。だけど、おれは君のそばにいる。だから寂しがらないでくれ……』


 ちょっ……サトル! お願い消えないで!!

 私の命を捧げてもいいから、大いなる世界樹(サーディエナン)よ、サトルを助けて……

 わたしから、うばわないで……!


『あいし……て……』





「サトルぅ!」


「────大丈夫ですか?」


 ────聞こえてきたのは綺麗な声。

 サトルの野太い声じゃない。

 私の顔を覗きこむ顔はよく整っていて亜麻色の髪をなびかせている。


「うなされていたようで……お水はいりますか?」


「ノーリゥアちゃん、大丈夫?」

「オルガさんが深酒してたって言ってたけど……平気?」


 ……んん、ここは私の部屋か。子供たちがベッドの周りで心配そうにしていた。

 フランが水差しから水を陶器のコップに注いで渡してくる。

 イリーナはベッドにのしかかるように、ジュンは反対側でベッドに腰かけている。


「ちょっと、ね。ゆめを見てたのよ」


 内容は、当然言えない。

 私の大事なあのひとのゆめだから。


 服の袖に付いたあのお酒の匂いは、まだほのかに残っている。

 その残り香は、まるであの人そのもののような。


 そんな風に思えたのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。