天国へのバス
「ルナは、残念ったモグね。」
モグラ族のイグルーが言った。
霊界行きのメンバーに若干の変更があり、今天国行きのバス停の前で待っているのは、俺、ドリー、レイン、イグルーの4名だ。
言い換えると、人間、キリン、豹、モグラの4名だ。
獣人に囲まれてしまった。
地獄ね。
一体どんなところなのだろうか。
もしここが日本で、俺が携帯を持っていたらWikipediaで調べるところだが、ここにそんなものはない。
ここでいう地獄が前の世界でいう地獄と同じものとは限らないのだが、イグルーの反応を見るとあまり良くないところなのだろう。
「地獄は、残酷な鬼で溢れていて、生前の罪を償わせるためという名目で、ありとあらゆる苦痛を与え、精神がズタボロになった後に魂を消滅させ一切の無に帰す、というからな。」
レインが苦々しい顔で言った。
うっわなにそれ、思ってるよりきついじゃん。
「はぁ…。」
そうなのだ、ルナが地獄行きなのだ。
今の少女の姿になってから、悪いことはしてないと思うから、少女の姿になる前、伝説の剣豪ザン=フィールドその人だった頃の行いなのだろう。
そんな昔のことなら、神様も許してやって欲しいもんだ。
まぁ、今現在地獄行きだとしても、ルナはまだ10歳だ。
人生先は長い。これから先の行いでいくらでも変わっていくだろう。
『今のままだと志望校不合格確実だぞ!もっと頑張れ!』ってのと同じさ。
死ぬときにはめでたく天国に合格できるさ。
なんて、心配している我らであるが、当の本人は地獄も退屈しないで良さそうだとか言っていた。
強がりではなく、本心っぽいから何ともルナらしい。
そんなことを考えてると、死の世界に変化が訪れた。
バス停奥の空間がグニャリと歪み、その歪みから白い光が溢れでた。
眩む目を細めて、光の方を見ると輝く翼を持った二頭の白馬が現れた。
白馬は光り輝く大きな車輪のついた箱を牽いている。
そして、その箱側面に付いている小窓から数名の乗客がこちらを覗き込んでいた。
ペガサスが牽く金の馬車…。
これが天国へのバスか。
あまりの美しさにしばらく見とれていると、中からこれまた美しい女性が現れた。
白い翼が良く似合う天使のような顔をした女性だ。
いや、ようなじゃなくて本物か?
「どうぞ、死後の世界へ。今までお疲れさまでした。さぁ、お乗りください。」
綺麗な声だな。
俺が本当に死んだときにも是非この人に来てほしいものだ。
回りの三人も同じようなことを考えていたのか、少し顔が赤い気がする。
てか、イグルー、テンション高いな。
バスに飛び乗り早く早くと促している。
あいつは修学旅行とかを思いっきり楽しむタイプだな。
嫌いじゃないよ。うん。
イグルーの後に続き、中に入ると、一番奥に案内された。
一番奥に空席はなく、あれ?っと思っていたら、バスが後方にニョーンっと餅みたいに伸びて、伸びたところにぽんぽんぽんぽんっと新しく席が湧いて出た。
「まるで生きてるみたいだな。」
「私たちは死んじゃってますがね。」
レインの独り言に、ドリーが相槌を打つ。
俺は、即席でできた4つのイスの一番右奥の窓側に座った。
昔から窓側が好きなのだ。
暗闇以外に何か景色とかが見えるなら見たいし。
座って、辺りをキョロキョロ見渡していると、バスの先頭でさっきの女性が話し始めた。
白い髪に白い服、白い翼。頭の上に光輪がある。
イメージしていた天使像にぴったりだった。
ちなみに俺たちの頭の上にも光輪がある。
さっき試しに触ってみようとしたら指がすり抜けたから有機物ではないようだが。
「えー本日は、こちらペガサス号に御乗車いただき誠にありがとうございます。こちらのバスは、天国行きとなっております。これから、お亡くなりになった方を順次回収いたしまして、終点天国まで私ミールアリスがご案内させていただきます。お困りの点などございましたら、何でもご気軽にお申し付けくださいませ。」
なんかバスガイドみたいだな。
挨拶の後も、天国の観光スポットや決まり事、有名人の話など明るく楽しそうに話してくれた。
とても綺麗で優しそうな人だ。
流石は天使と言ったところか。
ただ、その横にガイドのほほんとした雰囲気とは真逆の男が座っていた。
上半身は裸、ズボンは所々焼け落ちたような穴が開いており、腰と背中に大小バラバラな剣が数本。
その剣一本一本から禍々しいオーラを感じる。
そして、この男、明らかに戦い慣れしてる。
俺は、最近相手の強さが何となくわかるようになってきた。
魔力っていうのは、本来誰にでも備わっており(竜人化前の俺以外)、魔術回路を通して体外に放出させると『魔法』になるし、体内に循環させ身体強化に使うと『闘気』なる。と以前ルナに教えてもらった。
強い奴は、この魔力のコントロールが上手く、無駄がないというか、昔の俺みたいにダダ漏れしてるようなことがない。
体を覆う魔力は、普通の人はゆらゆらと体の周りを揺らめいていて、戦いとかになるとこうグワッと全体量が増える感じなんだが、強い奴っていうのは、普段魔力は体の周りを綺麗に覆っており、揺らめきが少ない。
戦いの時も、必要な箇所だけを強化させたり、弱めたりしている。
俺も最近は、魔力の揺らめきを抑える練習はしているのだが、中々上手く行かない。
ルナは、お前は馬鹿みたいに魔力があるから、多少漏れても尽きることはないなんて言っていたが、それでも必要な時に魔力切れになるようなことは避けたい。
以前赤蟻と戦った時、竜人化が解けたことがあったが、今になって考えてみると、おそらく魔力切れだったのだろう。
あの時は、焼き尽くす息とかいろいろ使っちゃったしな。
魔力があほみたいにあってもあほみたいに使えば無くなる、つまりはそういうことだ。
それに引き換え、ルナの魔力コントロールは天才的だ。
普段体を覆う魔力は最低限で、揺らめきも全くない、
攻撃する時も、攻撃する体の一点のみ魔力を強化させ、防御の時も、受ける一点のみをインパクトの瞬間に無傷で済む量だけ瞬時に体から引っ張ってくる。
他のところに打撃を受ければ間違いなく致命傷になるのに、それでもそのコントロールをルナは間違えたことがない。
昔魔界の3分の一を消失させた男だ。
持っている魔力量は恐らく相当なものがあるはずなのに、無駄遣いしないのだから、もはや付け入る隙がない。
少し話が横道にそれたが、あのガイドの横に立っている男も、魔力の揺らめきが全くない。
もしかしたら、ルナまでとはいかないにしても、匹敵するくらい強いのかもしれない
霊界で起こっている異変に備えた用心棒といったところか。
なんてことを思い、男の方をずっと見ていたら、眼があった。
何かこういう勘の鋭そうな人は苦手だ。
俺たちが実は生きてるということはまだ気付かれない方がいいだろうし、あまり眼を合わせないようにしなくちゃ。
そう思い、目線を反らした先、天使の足元にあった、少し汚れた灰色の羽を俺は、何となく眺めていた。




