大樹「ユグド」
「ここが、大樹と祈りの街『happy tree』です。別名『死者と生者を繋ぐ街』と言われています。」
へぇ…。ここがドリーの故郷か…。
街のすぐ側には大きな川が流れており、木々も生い茂っている。
街並みは、今まで見てきた石造りの家とは違い、木造の家が多い。
自然が豊かなことが関係しているのかな。
街行く人は、獣人が多く、人はほとんど見かけないな…。
鹿や馬、キリンに象、多くの獣人が集まっているようだ。
何か癒されるな。いい街だ…。
「ドリーの故郷、いいところじゃないか。」
「死者と生者を繋ぐ街ってのはどういう意味なの?」
「この街では、近隣に住む全ての死者の管理がされているんですよ。」
「そして、その死者と生者との結婚を認めていて、希望する者には結婚式を執り行ったりと、死者の魂を非常に大切にしていることでも有名なんです。」
ドリーは、少し得意気な様子で答えてくれた。
わかる。わかるよその気持ち。
故郷に自慢できる所があるっていうのはいいよね。
死者との結婚…か…。
前の世界では、聞かない話だ。
結婚っていうのは、『これから先を生きる者のため』、そんな風に漠然と思っていたけれど、『残された者を慰めるため』、なんて考えが、この地にはあるのかな。
そういうのも素敵だなと思う。
「まぁ、そんな理由もありまして、死者との結婚を求める方が毎日続々とこの街に集まってくる訳です。」
「それと、この街のシンボルをご紹介しましょう。皆さん、あそこを見てください。」
ドリーが指さした先、街の中央には、ここからでも良く見えるほど巨大な樹がそびえ立っていた。
「あの大樹は『ユグド』といい、死者の魂の眠る場所と言われています。」
「この近辺で人が死ぬと、ユグドの葉が一枚増え、死者との結婚が行われたとき、一つの花を付けることから、死者の魂と深く結びあってるとされています。」
えー、またまたー。
そんな御伽話みたいなこと、有り得るの?
目を凝らして良く見てみると、葉っぱに何か書いてある。
「日付と時間?後は、人の名前…かな?あの葉っぱには、何が書かれてるの?」
「ミズキ、よくあんな遠くのものが見えるな!」
ルナが驚いてこっちを見てきた。
確かに…。
最近目を凝らすだけで、竜人化したとき並みの視力になるみたいなんだよなぁ。
「あそこにかかれているのは、ミズキさんの言う通り、日付と時間、人の名前ですね。」
「日付と時間は、樹に葉っぱがついた時の時間、つまりは、誰かが死んだときの時間です。」
「そして、人の名前が書いているものは、死んだ人が特定できたもの、名前の代わりに番号がついているものは、まだ死者が特定できていないものです。あの葉の一枚一枚に、死者の魂が宿っているんですよ。」
「凄いな、あの葉っぱの一枚一枚を誰かが管理してるってことか。」
「そういうことです。この街では、ユグドの葉の管理を専門に行っている者が数多くいますからね。」
「死者が宿る樹っていうのは、世界の他の土地でもあるみたいですが、ここまでしっかりと管理されているのは、ここだけでしょうね。」
はぁ~、凄いね、こりゃ。
「結婚式って、今日もやってるかな?」
「大体毎日行われていますからね。行ってみます?」
「「もちろん!!」」
ルナも同時に頷いた。
死者と生者の結婚式かぁ。
不幸にも死に別れた恋人が、この地の真ん中にある大樹の下で祈りをささげ、結ばれる。
ロマンチックな話だ。
俺たちは、真っ先に街の中央にあるユグドの元に向かった。
凄い人だ。
ただ、何かもめているような…。
「少し様子がおかしいですね。ちょっと、何があったか聞いてきます。」
そう言って、ドリーがユグドの周りに集まっている獣人の中に入って行った。
「俺たちも行こう!」
ルナも駆け出し、俺も後に続く。
ユグドの麓に着くと、ドリーは、大きな角を持つ鹿の獣人に話しかけていた。
「ドリーじゃないか!随分久しぶりだな。いつの間に帰ってきたんだ?」
「お久しぶりです。ジェイルさん。ちょうど今着いたところです。」
「お前、随分名を上げたな!この街までお前の活躍、伝わってるぜ。地竜を倒したんだって?」
「いえ、あれは…。それより何かあったんですか?」
「ああ、帰ってきてそうそうで悪いんだが、少しいいか?」
「大丈夫です。」
「ここ半年くらいの話なんだが、この樹のことで少し困ったことがあってな。」
「困ったこと?」
「最近人が死んでも葉っぱが付かないんだ。」
「葉っぱが付かない?何かの間違いじゃないですか?」
「俺もそう思いたいんだが、近辺でもう100人以上死者が出ているのに、一枚も葉が付いていないんだ。この街で式を挙げようとして何人も死者の恋人や婚約者が街に訪れているが、この有様でよ…。」
「それとな。あれを見てくれ。」
樹に付いていた数枚の葉が、枯草色に変色して今にも樹から落ちそうになっている。
「葉が、枯れている…。」
「こんなことは、今までなかった。」
「死者の魂が、何か悪いものに憑りつかれちまったんじゃないかって話も出てる…。」
確かに、少し不気味だ。
「後な…。レインの婚約者だったシャロンが、数日前に事故で亡くなってな。」
「その葉もつかねえもんだから、シャロンの魂がどっか行っちまってるんじゃないかって、皆不安になってよ…。今色々と調べているところなんだ。」
「しかし、こんなことは初めてでな。何の手掛かりもない…。」
「お前旅先で何か聞いたことはないか?知っていることがあったら何でもいい。教えてくれ。」
「そんなことが…、そうですか、シャロンさんが…。」
聞けば、レインという人は、この街の長の一人息子で、今は街の守備隊長をしているらしい。
少しせっかちなところがあるが、強く、人望も厚い人で、昔ドリーに戦い方などを教えてくれた恩人だそうだ。
何とかしてあげたいが…。
俺もドリーも途方に暮れていた時、ルナが話し始めた。
「人が死んで葉をつける樹っていうのは、世界の各地にある。」
「その樹に葉が付かない理由は、誰かが死者の魂を食っているからって話を聞いたことがある。」
「『魂食い』ってやつだ。今回の件、詳しくはわからんが、霊界で何か起こってるんじゃないか?」
「そっちの子供は?」
「彼女は、ルナさんです。私の旅仲間で、地竜を倒した張本人です。」
「なっ!こんな子供がか!?」
「いや、それより霊界って…。」
「死者の世界さ。ただ、確認したきゃ、死ぬしかないな。」
死ぬって、それじゃあ八方塞がりじゃないか…。
「ルナ、どうにかならないの?」
「生きたまま霊界に行ければ何かわかりそうだが、そんな方法、俺は知らん。」
「死神と言われた黒影辺りなら何か知ってるかも知れんが…。」
黒影か…、確かにあの一団なら誰かしら何か知っているかもしれない。
「あっ!」
そんなことを考えていたら、ドリーが何かを思い出したかのように、肩に掛けていた袋を漁り始めた。
「霊界、死ななくても行けるかもしれませんよ。」
「ドリー??」
ドリーが、取り出したクロス=マーシャルの直筆原稿、そこには、【霊界の行き方】と書かれた頁が開かれていた。
クロス=マーシャル直筆原稿
【目次】
・天使ができるまで
・悪魔の作り方
・種族の始まり
・霊界の行き方
・魔界の行き方
・天界の行き方
・空と海に分かれた街




