大樹と祈りの街
大樹と祈りの街 「happy tree」
街の真ん中には大きな樹があり、死者の魂はそこに眠ると言われている。
この地方では、死者との結婚が認められており、この街の中心にある樹の下で結婚式が行われる。
木の葉は、死者の数に等しいといわれ
花の数は、結婚の数に等しいという
この樹は一年中枯れる事は無く、付けた花は二人の気持ちが途絶えるまでは、永遠に散らないと言われている。
____________________________________
霧の館を出発して、2週間ドリーは大層ご機嫌だ。
あの気味の悪い館の主人からのプレゼント(サイン入りの自筆原稿)が気に入ったらしい。
「ドリー、その本面白いの?」
「ええ、面白いです!特にこの『天使ができるまで』っていう話は興味深い話ですね。『身体が軽くなる病気にかかったらそれは神に選ばれた証、いずれ空気よりも軽くなり、天界に住む神の元へ引き寄せられ使徒となる。』みたいなことが書かれてます。これってほんとですかね?」
「んー、どれどれ…。」
ドリーから本を借りて、何となく流し見をしてみると、『悪魔の作り方』、『種族の始まり』なんて嘘くさい話が幾つも書かれていた。
前の世界にいたときなら、「100%嘘だね!」と断定するのだが、この世界のことはまだわからないことだらけだしなぁ。
「正直よくわかんないけど、クロス=マーシャルって、あんまり嘘は書かないんでしょ?」
「そうですね。ほとんど全ての話が、実話ですので、きっと真実なんでしょうね。ルナさんはどう思います?」
「身体が軽くなる病っていうのは、昔聞いたことがあるな。何でも、神ミスティアが死ぬ直前に流行った病で、大半はそのまま衰弱して死んじまったが、一部の人間は、空に浮かんで消えちまったって話だ。ミスティアと何らかの関係があったんじゃないかって言われていたから、あながち嘘でもないんじゃないか?」
「へーーー。」
「ほーーー。」
「あっ、本また貰っていいですか?」
「ああ、ごめん。ただ、運転中はあんまりよそ見しないでね。」
俺が本をドリーに返すと、また続きを読み始めた。
まるで、漫画の新刊を読む時の俺みたいだ。
「そういや、次の街ってドリーの故郷なんだって?どんなところ?」
「いいところですよ。緑が多く、祝い事の絶えない街です。」
そう言ったドリーの横顔は、どこか哀愁の漂うものだった。
帰るのは久しぶりなのだろうか…。
故郷ねぇ…。
俺の故郷、札幌ではもう時期雪まつりだったな。
もし無事に帰ることができて、この世界と行き来できるようになったら、みんなで一緒にロックの雪像でも作りたいもんだ。
俺も少しノスタルジックな気分になりながら、進む道の先を見る。
石や岩ばかりの道が、少しずつ整備された道になり、辺りに緑が増えていく。
ドリーが弦楽器を取り出して、歌を歌った。
旅人についての歌だった。
日常に飽き飽きした一人の男が、知らない世界に憧れて旅に出る。
どこの世界にも、よくある歌だ。
旅…ね…。
昔よく旅に出たいって思ってた。
知らない世界に憧れて、旅人なんてものに憧れた。
俺は今その旅の中にいるわけで、この先もきっと、知らない場所や知らない人、知らない物をたくさん見るだろう。
___
後ろには見たことのあるモノしかないから 戻り道はしない
でも 全てをもし 見る事が出来たなら
僕は どこに 戻りたくなるのかな
___
ドリーの歌のワンフレーズが頭に残る。
もしこの旅が終わった時、俺はどこに戻りたくなるんだろうか。
【旅人】
同じ日常なんて もうまっぴらだから
僕は旅に出る
無限の世界を見もしないで 有限の中で死んでいく
そんなのは もったいないから
この街を出て この国を出て
色んな物を見て
色んな土を踏み
色んな人と笑おう
後ろには見たことのあるモノしかないから
戻り道はしない
でも
全てをもし 見る事が出来たなら
僕は どこに
戻りたくなるのかな




