魔王の娘 ロキ
まだ、みんな寝てるな。
ベッドから起き上がり、みんなの方を見ると、よだれを垂らしながら寝ている二人と一匹。
実に気持ち良さそうだ。
「どんな夢を見てるのやら。」
それにしても、あの女。
「助けて、か…。」
あれは、ただの夢だったのか?
妙にリアルな夢だった。
今だって、目を瞑れば、あの女の顔がはっきりと思い出せる。
会ったこともないのに、詳細にだ。
青く長い髪に赤い目、透けるように白い肌、折れそうなくらい細い手足、人間離れした美しさ、ロキという名前。
魔王クラリスの娘か…。
しかし、魔王の娘がなぜ魔王の邪魔をするんだ?
たしか魔王には七人の妻がいると黒影が言ってたが、その全てが魔王と同じ方向を向いている訳ではないのか?
というか、そもそも魔王の目的ってなんだ?
やっぱり世界征服とか?
てか、俺を呼んだのは、何のため?
魔女アリアって、ソフィアさんの弟子だよな。その人に何の関係があるんだ?
ここはどこ?
わたしはだあれ?
「ふー、わからん!!」
「何がです?」
「うわっ!」
気付けば、ドリーが起きてこちらを見ていた。
「もう何もかもだよ。ドリーは何か変な夢見た?」
「そうですね~。私は、五つほど夢を見ましたが特に変わったものはありませんでしたね。強いて言えば私が魔法を使う夢ですかね。風魔法をひゅるりらと。」
「へぇ、ドリーの魔法、ちょっと見てみたいな。案外正夢かもよ?」
「どうですかね。ミズキさんはなにか変わった夢を?」
「まぁ、ルナが起きたら話すよ。しかし、すごいね。普通ならもう夢の内容なんてほとんど忘れてるはずなのにさ。」
ルナが目を覚ましたとき、俺は、二人に今日の夢の内容を伝えた。
「その女は、ロキと名乗ったんだな?」
「ああ、うん。」
「そうか。」
「知ってる人?」
「クラリスの二番目の妻ロトスの子だな。ロトスはクラリスの妻の中では幾分まともな方だ。」
「じゃあ。」
「あいつの娘の話を鵜呑みにするな。まぁ、だからといってやることはかわらんがな。俺たちは、元々アリアって魔女にも会うつもりだったし、魔界にも行くつもりだった。何も変わらんさ。」
まぁ、確かに。
やることはかわらない。
まず、目指すのは、魔法都市マジックフォレストだ。
「いや、一つ変わったな。」
「ルナ?」
「ロキがミズキを呼び出したんなら、クラリスを殺しても問題はない。」
ニヤリとルナの口端がつり上がった。
その笑顔には、誰も寄せ付けない、なんというか鬼気迫るものがあった。
なぜ、そこまでルナは魔王に拘るんだろうか。
――――――――――――――――――――
それから三日後俺たちは街を出た。
三日滞在したのは、またロキと名乗るあの女に夢で会えるかもしれないと思ったからだ。
しかし、結局あれ以降一度もあの女は現れなかった。
もちろん俺以外の二人の夢にも、広場で行われる夢語りにも手がかり一つ無かった。
「次は、砂漠を抜け、闇の大森林の手前にある『大樹の街 リグルディア』を目指しましょう。」
ドリーが地図を広げ、次の目的地を指差した。
距離的に見て、一か月程度というところだろうか。
それにしても、リグルディア?どっかで聞いたような気がするな。
なんだっけ。まあ、いいか。
いや、待てよ。こう言うギリギリ思い出せそうなことを思い出す努力を怠ったときが、ボケ老人になる第一歩だと、昔ばあちゃんが言っていたな。
うーん。
リグルディア、リグルディア…。
あああ、ダメだ。思い出せん!
いや、頑張れ!頑張れ俺!
って、そんな拘ることじゃないな。
まっ、いっか。
ボケ老人ロードに、足を踏み入れようじゃないか。
それに、思い出せないことは、重要なことじゃないってじいちゃんが言ってたしな。
俺はじいちゃんを信じることにしよう。
「木の上にある街ですが、中々いい街ですよ。ルナさんのマントの素材なんかもリグルディアの木の綿ですし。」
「それだ!」
思わず叫んでしまった。
ああ、スッキリした。去らばボケ老人ルート。
「どうかしました?」
「いや、なんでもない。そこまで街はないの?」
「小さな街はいくつかありますので、寄りながら行きましょう。さて、まずは、砂漠を越えますよ!」




