夢の姫
「…さん、ミズキさん、着きましたよ!」
「ん?ドリー、おはよう。ふぁあああ。」
うーん、どうやら寝てしまったらしい。大分疲れていたからなぁ。
「着いたって、どこに?」
「寝ぼけてないで、ほら、見てください。ここが夢見の街、夢語りの街『sleep town』です!」
「おおっ!」
そうだそうだ。
新しい街に向かってたんだっけ。
馬車から顔を出すと、湖に隣接した綺麗な街並みが見えた。
街の大きさは今までで一番小さいな、リダの半分くらいだろうか。
「おっ、ミズキ。起きたな!まったく、お前はもっと魔力のコントロールを覚えないとだめだな。一々魔力切れでぶっ倒れてたら、この先持たないぜ?」
「魔力切れ…。あぁ、何となく思い出してきた。あれ?あれからずっと寝てたの?どれくらい?」
「大体半日位だな。」
そんなに寝てたのか。
そりゃあ、また迷惑をかけちゃったなぁ。
でも、あれはルナの訓練がスパルタすぎるのでは?と思うんだか、どうだろう。
俺が複雑な顔をしていると、ルナが笑いながら言った。
「まぁ、最初にしちゃあ上出来だ!さーて、ここはお前の行きたがってた街だぜ!堪能しないとな、行くぞ!」
それもそうだ。悩んでみても始まらないし、今は目の前のものを全力で楽しもう。
それが、旅ってやつだよね!
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【夢見の街、夢語りの街「sleep town」】
馬車から降りて街の様子を見ると、まず、宿が異常なほど多いことに気づいた。
二件に一件は宿屋と言っても過言ではないほどだ。
「流石夢見の街だね。これ全部宿だよね?」
「そうですよ。この街ならではの光景ですね。」
「うわー、こんなに同業者だらけで、大丈夫なものなの?」
「確かに普通ならあり得ないことですが、この街で見る夢は、不思議と記憶に残りやすいとのことで、興味をもった旅行者が多数泊まりに来ているみたいです。そのため、どこの宿屋も繁盛してるとか。」
へぇ、面白いもんだね~。
「それに、稀に夢に神様が出てきて御告げを与えてくれるなんていう噂もありまして、神様に会うまで泊まり続ける、という人もいるみたいですよ。」
「何かそれは、嘘っぽいなぁ~。ルナは信じる?」
「そうだなぁ、仮に真実だったとしても、ミスティアが死んだ今、会いたい神は特にいないから、たいして興味はないな。」
なるほどね。俺も特に信じてる神はいないし、興味なしかな。まぁ、女神様とかもし居るなら会いたいけど。
「とりあえず宿を探そうか、これだけあれば問題なく取れるよね?」
「大丈夫でしょう。ちょっと行ってきますので、お二人は、先に中央広場に行って、待っていてください。」
「中央広場?」
「この街一番の観光スポットです。きっと今ごろ今日の『夢語り』が始まっている頃ですので、見ておいて損はないですよ。私も直ぐ行きますので!」
そう言い残すと、ドリーは馬車に乗って行ってしまった。
「観光スポットだって!お土産とか売ってるかな?」
「俺は、枕が欲しいな。後ロックにも小さな枕を買ってやりたい。」
「いいね!ルナ、ちょっとワクワクしてる?」
「旅ってのはそう言うものだろ。」
「だね!じゃあ行きますか!剣豪さん!」
俺とルナは、中央広場に着くと、夢語りが始まっていた。
『夢語り』
その日見た夢について住人が語り合い、最も印象に残った夢は、街の夢日記に記録される。らしい。
今話されているのは、体が少しずつ軽くなる病気にかかった少女の話だ。
見た目はそのままなのに、日毎に体重が減っていき、やがては空気よりも軽い体になり、空高く飛んでいく。
大地を離れ、雲を越え、大気を越え、そして、神の住む世界にたどり着き、神から御告げを得たという話だ。
そんな話が次から次へと語られていく。
広場の片隅には、過去の夢日記が置いてあり、自由に手に取り読むことができたので、俺たちも読ませてもらった。
大体の夢は一ページにまとめられていて、一年で一冊の日記帳になっていた。その日記が、もう約100冊つまりは約100年分も保存されていた。
何個か手にとって読んでみたが、実際にありそうな話や、まず起こり得ないであろう話など非常に様々な夢が記録されていた。
ただ、この夢に比較的頻繁に登場する、姫の話が気にかかる。
魔王クラリスの娘を名乗る魔界の姫。
日記帳の管理人によると、夢を見た人は別々なのに、不思議と見た人が口にする特徴に共通点が多いことから、この姫は、実在し、人の夢に関わる力をもっているとされている。
この魔界の姫が夢に出てきたら、決してその話を信じてはいけない。と教えてもらった。
何でも、夢にこの姫が出てきた者は、皆この街を出て魔界に向かおうとして、命を落とすという。
魔界の姫か。確かに日記には、よく魔界の姫が美しいだの、姫を悪魔から救いに行くだの書かれてるものが多い。
人の夢に介入できるお姫様か。
夢魔ってやつなのかね。
とそんなことを考えているとドリーが駆け寄ってきた。
「お待たせしました!宿、良いとこ取れましたよ!」
流石、仕事が早いね~。
その後、5つほど夢語りを聞き、俺たちは宿へと向かった。
宿の中には、枕専門店があり、様々な色、形の枕が売られているとのことなので、とても楽しみだ。
まくら、枕、マクラ。
何とも甘美な響きじゃないか!
枕、それは間違いなく世界落ち着くアイテムランキング1位のアイテムだ。
ちなみに2位は布団。3位はランプだろう!
よし、まずはマイ枕の購入だ!
俺は、沸き立つワクワク心全開でお店のドアに手を掛けた。
【枕専門店~猫の微睡み~】
「いらっさいませ。」
出迎えてくれたのは、15、6くらいの少女だった。少しぼーっとした感じの印象を受けるが、可愛らしい子である。
中に入ると流石は枕専門店と言ったところか、見渡す限り、枕、枕、枕だ。
通常の枕や抱き枕はもちろん、角を持つ種族向けの枕や、豆粒位まで小さくなる枕や、食べても食べても無くならない綿飴のような枕なんて言うのもある。
ふむ。
「何かお探しでしか?」
物色中の俺たちに向かって先ほどの少女が声をかけてきた。
よし、ここは一つ、この店のレベルとやらを見定めてやるか。
「そうだなぁ。ちょーぜつ気持ち良くて、頭を乗せた途端に、ふわふわと素敵な夢の世界に連れていってくれて、寒い日はポカポカ温かくて、暑い日はちょっとヒンヤリ気持ちいい、更には、フワッと良い匂いがするような枕を探しているんですよねー。あっ、そば殻はダメですよ、羽毛もダメ、ちょうどよく低反発なやつが良いですね!」
「ねえよ!」
あっ、ルナの稲妻の様な突っ込みが俺の後頭部を打った。
わかってるよ。ちょっとしたジョークだよ。ジョーク。
「はい、ございまし。」
「え?」
「ございまし。」
うわぁ、あるんかい。
「こちらでございまし。」
少女に案内されていった先には、真っ白な雲の様な枕だった。
なんでも、空島「スカイガーデン」の王様が使っている物と同じ物とのことだ。
何とお値段金貨500枚。
…………。馬鹿野郎。
その後、しばらく店内を物色して、羽毛で作られた枕を3つと、ロック用にも一回り小さい枕を購入した。
何と、俺の奢りだ。全部で銀貨2枚だしね。
「おっ、もうこんなに暗いんだ。」
外を見ると、辺りはもう真っ暗だった。
「ここら辺は一日の三分の二位は夜ですからね。もう休みましょうか?ミズキさんは、来る途中だいぶ寝ていたのでまだ眠くないかもしれませんが。」
いや、そんなことはないぞ。たぶん布団に入ったら3秒で寝れる。
そう豪語して布団に入った俺は、案の定3秒で眠りについたのだった。
そして、その日、俺はとても大事な夢を見た。
「…けて、…助けて、助けて!」
夢の中で俺は、一人の女性に話しかけられた。
耳が長く、青い髪の女性だ。二十歳くらいだろうか。
美しい人だった。
いや、何と言うか、人とはまた違う美しさがあった。
そして、この声には聞き覚えがあった。
間違いない。俺をこの世界に呼んだ声だ。
「あんた、誰だ?」
「私は、ロキ。魔王クラリスの娘です。今あなたの夢を通じてあなたに語り掛けています。お願いします私を、私達を助けてください。」
おお、随分といきなりだな。
待てよ。そういや昼間、魔王の娘と名乗る女が出てきても信じるなって、広場にいたおっちゃんが言ってたな。
ただ、無視はできない。何て言ったって、やっと見つけた手掛かりだ。
「まず、先に答えてくれ、俺は、葉山水希という。人間だ。地球に住んでいた俺を、異世界に呼んだのは、あんたなのか?」
「はい。私です。」
マジか、やっと見つけたぜ、召喚者。
「あんたは、今どこにいる?俺は、元の世界に帰れるのか?そもそもなぜ俺を召喚した?それに、助けるってなんだ?それは、俺じゃなきゃダメなのか?それと、あんた美人だな、今度お茶しないか?」
さりげなく、デートにも誘っておいた。チャンスは無駄にしない男だ、俺は。
「すみませんが、全てを話している時間はありません。私は今、魔界にいます。父を、クラリスを止めてください。それは、あなたにしかできないことなのです。」
「俺にしか?なんでそうなる?俺より隣で寝てるルナの方がずっと強いぜ。」
「ルナ?その者が誰か知りませんが、この世界の住人では彼には勝てません。」
「どういうことだ?もっと詳しく教えてくれ。」
「すみませんが、もう時間がありません。夢から覚めたら、まず、魔法都市マジックフォレストに行き、魔女アリアを訪ねてください。彼女に会えば…あな…だけが頼……なので…。」
女の体がボヤけるように消えていく。
「待て!俺は元の世界に帰れるのか?」
「おい!」
ガバッ!
眼を開けると、そこには、まだ寝ているルナとドリー、ロックの姿があった。
くそっ、何なんだよ。あの女。




