魔拳
「はぁはぁ…。」
どう戦えばいい?
思えばこいつらと会うまでは、まだ順調だった。
キラードッグの群れに囲まれ、サンドワームに食われそうになり、ガライの花の花粉に鼻をやられ、レッドコンドルに再び食われそうになったりもしたが、それでもまだ順調だった。
ちなみにキラードッグ、サンドワームはDランク、レッドコンドルはCランクの魔物だ。
これらの魔物は、群れになって来られるとまだ少し戸惑うが、基本的に攻撃パターンが決まっているから単体なら余裕をもって倒せる程度には慣れた。
ただ、こいつは、こいつは強敵だ。
無音の騎士、Bランク。
音のしない鎧を纏い襲ってくる騎士の霊。
かつてこの地に存在していたガライ帝国の中でも随一とされていた雷鳴騎士団。
無音の騎士は、その中において、暗殺を得意とした精鋭部隊である。
彼らは、とにかく音を立てないことと気配を消すことに全てをかけていたらしい。
そのために、自らの命を断ち、魂を音のしない鎧に定着させたとか…。
狂ってる…。
無音の騎士の大半は、とある掃除屋の逆鱗に触れ滅ぼされたが、その生き残り数名が今もこの地をさ迷っている。と言うのは、
「そいつらは、鎧をぶち壊せば成仏する!一思いにやっちまえ!」
なんて、楽しそうに喋ってるルナの言である。
繰り出される剣撃を何とか避けていたが、後ろから殴りつけられたような痛みを感じた。
「ちっ、もう一人かよ…。」
もたもたしているうちに、一人増えたらしい。
音もなく近づいてくるので、全く気付かなかった。
男の喧嘩はタイマンだろうがよ!と言いたいところだが、こいつらが男か女かもわからない。
くっ、しかも中々連携がうまい。
音がしないっていうのは思ったよりも神経を使う。
特に複数と戦うとき、人はどうしても視界に入らない部分が出てくる。
ただ、さっき斬られたことで分かったことがある。
竜人化したこの状態なら余程のことがない限り致命傷を負うことはない。
現におもっくそ頭を切りつけられたのに、一切血が出てなかった。
いや、まあそれなりに痛かったのだが、でもそれなりだ。
頭を切りつけられたのにそれなりなのだ。
赤蟻みたいな規格外の化け物は別だが、物理攻撃に頼ってくるやつなら、大体は何とかなりそうだ。
あとは何とかこいつらをつかまえないと…。
そう考えていると。
「魔力を感じ取れ!そいつらに気配はない!魔力の流れを感じるんだ!」
ルナから助言があった。
魔力の流れだぁ?
音もしない、気配もないこいつらでも魔力は備わっているってことか?
魔力…、魔力とは…!
わからん。
いや待てよ、竜人化する前俺の魔力はゼロで、した後だと魔力は膨大な量って言ってたな。
する前とした後で身体の変化を感じ取るんだ。
体中に覆われている鱗。
その更に表面を覆っているものを。
集中しろ。
目の前のこいつらのことは一度忘れてもいい。
竜人化前と後で変わっているところ、変わっている感覚を探る。
目を凝らして魔力が漏れていないかを探る。
確かに何か暖かいものがゆらゆら揺らめいている気がする。
目を閉じて、血液の流れを感じとる。
ルナは、魔力は血液と同様に体の中を巡っていると言っていた。
血の流れとは別に体を巡るものを感じとる。
難しい。
「お前の魔力は大きい。体内に収まりきらず外にはみ出すほどだ。慣れれば簡単に感じられるはずだ。」
ルナから助言が入る。
俺は目を閉じ、両腕をだらんと下ろし、全身の力を抜いた。呼吸も一定に、静かに。
確かに竜人化する前とは別に何かがからだをめぐっているのを感じる。
そうしてる間も、無音の騎士は攻撃をやめない。俺はもう打たれるままだ。
確かに目を閉じて、感覚を研ぎ澄ましていると、こいつらが攻撃してくるたびに、何かが近づいてくるのがわかる。
離れて、近づいて、殴られて、離れて、近づいて、殴られて。
よしよし、わかってきたぞ。
しかし、こいつら…。
人を散々斬りまくりやがって、こっちは血は出てないが、痛みは感じてるんだよ…。
だんだんイライラしてきた俺は、全身から溢れ出す魔力と思われるゆらゆらを拳に集中するイメージをしてみた。
集まれ~、集まれ~、俺の魔力よ右手に集まれ~。
よしよし。何となく集まってる気がする。
さぁ、次俺に近づいた瞬間殴り返してくれる。
来るぞ、先ずは、後ろから斬りつけてくる不届き者だ。
喰らえ…、いち、にの、さん!
「このくそたりゃぁーっ!!!!!!!!!!」
と振り向きざまに俺は拳を振り抜いた。
その瞬間、何かが爆発したような音がして、右拳から閃光が走った。
いつもと違う感触。
だが、間違いない。クリーンヒットだ。
無音の騎士はバラバラ砕けちり、俺が殴り付けた方向にあった地面が、放射線状にゴッソリと抉られていた。
眼を開けてみると、右拳が光り輝いていた。
右手を軽く振ると、「ズギャッ!」っと振った先の地面が抉れた。
なんだ?これ?
後ろを振り返ると、残された無音の騎士が、即座に後方に逃げ出していた。
既に100m程離れたそいつに向かって、俺は試しに思いっきり右拳を繰り出した。
すると、再び爆音が鳴り響き、直線状にいたそいつは鎧ごと粉々になった。
「化けやがった…。」
そんな声が、馬車から聞こえた気がした。




