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空には星が綺麗

 「お前らか…。」


 ドアを開けると、椅子に座っていた黒影は、顔を上げてつぶやいた。


 「なんだ?その神剣を渡す気になったのか?」


 「その気はないとさ。ただ代わりにこんな物を貰ったよ。その黒竜の遣いからね。」

 そう言ってラビは、先ほどの実を黒影に手渡した。

 

 「ん?これは…解呪の実…か?」

 「なぜ貴様らがこれを持っている?」


 俺はラビに話したのと同様に今までの経緯を黒影に説明し、召喚師の心当たりについて尋ねた。


 「召喚師か…。ラビから聞いたのだろう?」

 「異世界召喚なんて真似ができるのは、魔王クラリスを置いて他にはいない。」

 

 やはり魔王か…。

 勇者は何やってんだよ勇者は。


 「しかし、あの男は危険すぎる。」

 「ルナ。ザン=フィールドの弟子と言うからには、あの男のことくらいは聞いているだろう?」

 「一番因縁が深いのは、間違いなくお前の師匠だ。」


 「少しはな。」

 答えたルナの表情が珍しく強張っている。


 「ならわかるだろう。あの男には近づかないことだ。」

 「元の世界に戻るのが目的だとしても、そんな願いをすんなり聞いてくれる奴じゃない。」

 「何の理由で貴様を召喚したか知らんが、せいぜい利用されて殺されるのが落ちだ。」


 「ふん。聞かせるさ。力づくでな。」

 ルナが言った。


 流石ルナ。最強の剣士だ。 

 と思ったが、ルナの様子が少しおかしい。右手が少し震えていた。

 本気(マジ)か?そこまでの相手かよ。


 「ほう。ならば聞こう。」

 「黒竜の遣いよ。名をミズキと言ったか?」

 「貴様、魔王と戦ってでも元居た世界とやらに帰りたいという意思はあるか?」


 ルナとドリー、そしてみんなの視線がこっちに集まった。


 どうだろうか…。

 正直よくわからない。

 今思えば元の世界の生活は嫌なことだらけだった気もする。

 まぁ楽しいこともあったはずなんだけど、ここ数年は特に生きてる気がしない、そんな屍のような生活を送っていたように思う。

 

 それに比べ、今の生活は楽しい。

 痛いことは凄い増えたし、危険なことは物凄い増えた。

 だけど、今の生活は、本当に、本当に楽しい。

 仲間も本当に最高だ。

 

 ただ…、


 「元の世界で、会いたい人がいる。」

 「たった一度でいいんだ。俺はどうしてももう一度その人に会いたい。」


 自然とそんな言葉が出た。


 「何だ?恋人か?」

 黒影が軽く笑ってこっちを見た。

 ただ、軽口かと思ったが、眼はまっすぐ俺を見ていた。


 「いや、恩人さ…。」


 俺はあの人にまだ感謝の気持ちを伝えきれていない。

 それは、友達や恋人や両親と会うことよりも俺の中で大事なことだった。


 「この世界は好きだし、その時が来たら名残惜しくもなるだろうけど、そこは譲れない。それに」


 「それに?」


 「あっちの世界でやることやったら、またこっちに呼び寄せさせるさ。力づくで。」


 「ふっ、気に入った!」

 「貴様もまた豪胆だ。いいだろう。魔王と戦うときは、俺も力を貸そう。」


 「いらねえよ。」

 ルナが言った。


 「そういうな。貴様が魔王一人を仮にどうにかできたとしてもだ。魔王クラリスには7人の妻と3人の側近、それに黒竜、更には数え切れない程の護衛がいる。あいつら全員を相手取るのは容易じゃないぞ。」


 「ふんっ。ただクラリスは俺が殺る。」


 「因縁か…。まぁそれもいいだろう。俺はあいつの首に興味はない。」


 「いやいや、殺しちゃったら俺帰れないから!」


 この二人に話させておくと、勝手に危ない方向に話が進んでいくので怖い。


 「むっ、そうか。じゃあ、ギリギリ生かしておいてやる。たぶん…。」


 たぶんて、ルナ。どんだけ魔王嫌いなんだよ。


 「って、でもさ、団長さんはここに居るんだよね?そんな直ぐに助けに来れるの?」


 「シャドでいい。」

 「行けるさ。俺には月影があるからな。」


 「月影?」


 (「ミズキさん。月影っていうのは、この世界唯一の飛行船です。」)

 (「満月に浮かぶ黒い影って聞いたことないですか?」)

 ドリーが小声で俺に言った。


 うっ。きっとこの世界では有名な話なんだろうが…。

 ドリー…。すまん。知らない。


 (「黒影の持つ飛行船は、空を自由に飛び回るんですよ。」)

 (「その速さは、空を流れる星よりも早いと言われています。」)


 「そういうことだ。」

 「ただ、俺たちは満月の夜しか動かない。もし、魔王のところに行くなら、満月の夜を選びな。」

 

 「そん時は俺たちも行ってやるぜ!」

 ガンが言い、隣でラビが頷いた。


 昨日の敵は今日の友ってか?

 まぁ、強い味方が増えるっていうのはありがたい話だね。


 「という訳だ。遠慮なく解呪の実はいただこう。」

 「シャドはパクリと一口グミもとい解呪の実を飲み込んだ。」


 『もぐもぐ。ごくん。』


 「シャド!」

 ヒュンと何かをガンが投げた。


 「やっぱり、最初に食うのはこれだろ。」


 真っ赤な果実。リンゴだ。


 シャリと一口、リンゴを噛む音がした。

 

 「旨いだろ?」

 

 「……………。」


 「シャド?」


 「…、あぁ…。旨い…。ああ、旨いな…。」

 その目には少し涙が浮かんでいた。

 

 やっぱり旨いものを旨いと思えるのは幸せなことだよね。

 今度こいつにもカレーを食わせてあげよう。


 「お前らはさっさと行け。この先が星雲の丘だ。それも目的だったのだろう?今日はきっと星が綺麗だ。」


 黒影に急かされ、俺たちは黒影の私室内にあるドアを開き、円柱状に切り取られた小高い丘『星雲の丘』へと架けられていた橋を渡った。

 

 丘の上には直径5m程度の小さな草原が広がり、その下にはガラスのように澄んだ湖が360度見渡す限りに広がっている。


 日はとうに落ちており、持っていた灯りの火を消すと余計な光は何一つなくなった。

 辺りは真っ暗で、しかしだからこそ、一面の星空が眩しかった。


 上を見ると数え切れない程の星空が広がっており、下を見ると同数の星達が湖面に写し出され輝いていた。

 まるで星空に包まれているような、そんな感覚に落ちた。


 何か願えば、すんなり叶ってしまうんじゃないかと思うくらい。

 空は綺麗で、星は綺麗で。しばらく俺たちは言葉を失った。


 「……。」


 「ねえ、流れ星が落ちる間に願いを3回唱えると叶うって知ってる?」


 「何ですかそれ?」


 「俺の国での言い伝えさ。」


 「へぇ。」


 「なぁ。」


 「ん?」

 

 「流れ星が流れますようにっていうのは、何に願えばいいんだ?」


 そんなことを言い出すから、俺は笑ってしまった。


 (「この三人の楽しい旅が、最初から最後までどうか続きますように…。」)

 ミズキの愛刀である曲刀「月影」ですが、黒影の飛行船の名前を「月影」にしたため、「銀月」に変更いたしました。

 違和感を感じる方いらっしゃるかもしれませんが、ご了承願います。ぺこり。

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