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魔術師ラビ

 「ラビ!」


 「ガン…、入るときはまずノックをしろ。」

 「そして私のことは師匠と呼べと何度言ったら…。」


 「うん?誰だそいつらは…。」


 眼と眼が合った。

 こいつが、ガンの師匠のラビさんか…?


 雪のように白い肌に青く澄んだ瞳。

 青と黒のマントを身に纏い、手には先端に大きな青色の宝石がついた杖を持っている。

 また、頭には小振りの王冠を被り、その脇には長い耳がピーンと伸びていた。


 ウサギだ!ウサギの獣人だ!


 見るからにフカフカな毛並みに、俺は思いっきりモフモフしたい衝動に駆られた。

 あぁ、困った。俺は『うさぎモフモフしたい病』なのだ。

 しかし、機嫌を損ねてしまったら大変だ。

 ここは我慢我慢…。


 「ラビ!ちょうどいい、探してたんだ!」

 

 赤蟻の言葉にウサギはニコリと笑うと、杖をトンッと地面に打ち付けた。

 同時に、赤蟻の頭上に大きな氷の塊が現れ、彼の頭を打った。


 『ガツンッ』


 「いてっ!」


 「師匠と呼びな。」


 モフモフはどうやら怒っているらしい。

 というか、今の魔法か?攻撃魔法は初めて見たぞ。

 どうやってやったんだろう。


 「で、今日はいきなり何の用だい?そっちの三人絡みかい?」


 「いてて、ああ、こいつらは、この前うちとやり合った3人組だよ。」

 「召喚師を探して旅をしてるんだって、ラ…師匠なら何か知ってるかと思って。」


 「ほう、あんたらが、あの…ね。」

 「とすると、うちの愛弟子の腕を焼き切った黒竜の化身っていうのはあんたかい?」


 ギロリと、睨まれた。

 う…、お…怒ってるのだろうか…。


 「師匠!こんなのは別にいーんだよ。怖い顔しないで、ほらほら、ニンジンだよ!!」

  

 『ピクピク』

 目の前にニンジンを差し出されたモフモフの耳が小刻みに震え出した。

 なんだか眼もとろーんとしている。

 

 「う、うむ、まぁ、当事者がいいと言っているのに、私がどうこう言うのもな。」

 『ポリポリ』

 ニンジンの先っぽの方をポリポリとかじる姿がとても可愛い。 


 「召喚師…ねえ…。ポリポリ。なんでまたそんなものを探してるんだい?」


 俺は今までの経緯と自分が異世界から召喚されたことについて話した。


 「異世界から召喚されてきただって!?そんなバカな!」

 「異世界召喚というのは、過去や未来から何かを召喚するよりも遥かに難しい。使用する魔力量も膨大、時間軸の把握に、異世界との通信手段の確立も必要。その他にも…ブツブツ…。」

 「そもそも時間軸を…ブツブツ…。」


 うさぎさんは何やらブツブツと呟き自分の世界に入ってしまった。


 「師匠…?」


 「ブツブツ…」


 「ほいっ。」

 赤蟻がまたニンジンを取り出した。


 「むっ!」

 その差し出されたニンジンを手に取りポリポリとかじる。

 

 どうやらこのやり取りは日常の様だ。

 今度来ることがあれば、ニンジンを大量に持って来よう。


 「師匠、結局心当たりはないの?」


 「まぁ、まて。異世界、異世界ねぇ…。なぁ、黒竜の、何か証明できるものはあるかい?」


 証明か…、うーん。何か今持っているもので、前の世界の物は…。

 俺は、ポケットを弄り、持っていたブルーベリーガムと一口グミ、栄養ドリンクを取り出し、机の上に並べた。


 「前の世界で持っていた物です。証明にはならないかもしれないけど…。」


 「どれどれ…。」

 「何だい?この板状の物は。」


 「それはブルーアイっていうもので、視力を飛躍的に上昇させるとか…。」


 「ふーん、これがブルーアイね。随分変わった紙に包まれているね。」


 「ん…?これは…。」

 「!!!」

 「これは、解呪の実!!!解呪の実じゃないか!!!」

 

 うさぎは、一口グミを手に取り、驚愕の声を上げた。


 「もう、何百年も前に死滅した大樹ユグの実…。やっと、やっと見つけた…。まさかこんなところで…。」

 うさぎの目に涙が浮かんでいる。


 「あ、あの…?」


 「あ…ああ、すまん。黒竜の、あんたが異世界から来たってことは信じるよ。」

 「こんなものを持っている者は、まずいないからね。」

 

 「それとまず自己紹介をさせてくれ。」

 改まった様子で、ウサギさんは背筋を伸ばしてこちらを向いた。


 「私はラビ。盗賊団黒影随一の魔術師で、ここでは団員に魔術と体術を指南している。」

 「客人よ。召喚師について私が知っていることはすべて答えよう。私の持っている物で欲しいものがあれば全てを差し出そう。」

 「だからと言っては何だが、この解呪の実、どうか譲ってもらえないだろうか?」

 

 うさぎは深々と俺に頭を下げた。

 この様子…、どうやら訳ありの様だ。

 

 「丁寧にどうも。私はミズキと言います。こっちの小さいのはルナ。こっちはキリン族のドリーです。」

 「えーっと…。ラビさん、それ何に使うんです??」


 「ああ、団長にかけられた不死の呪いを解きたいんだ。」


 不死の呪い…。

 ドリーが言ってたやつだな。


 「団長はね、死神ローランを殺したことで、永遠に死なない身体を押し付けられたのさ。」


 ん?死なない身体。不老不死ってことだよな。

 それはそんなに辛いことなのだろうか?

 あの時、ルナに右腕を切り落とされた時も、一瞬で元通りになっていたし、無敵の身体ってことだろ?

 

 「あの、死なない身体って、不老不死になるってことですよね。それをわざわざ解くなんて勿体無くないですか?」

 俺は思っていたことを聞いてみた。


 「勿体無い?滅多なことを言うもんじゃない。死なない身体。随分便利なものと思われがちだが、あんなに辛く悲しいものはない。」

 「飯を食っても味はしない、水を飲んでも渇きは飢えない。抱きしめたときの人の温もりも、何もかも感じない。呪われた身体さ。」

 「それにあれは不死ではあるが不老ではない。」

 「団長は元々長寿でね。ロクに歳を取らないから今は見た目も綺麗なものだが、時が過ぎれば少しずつ歳は取る。いずれは肉が腐り落ち、骨だけになる。そして、そうなっても死ねないのさ。」

 「自我を失い、心さえも失い、生きる屍になって永遠にこの世を彷徨う。団長はね、生きる権利を生きたまま奪われたのさ。黒龍の、あんたはそれでも羨ましく思えるかい?」


 俺は言葉を失ってしまった。

 生きる権利を生きたまま奪われた…か…。

 それはきっと辛いことだろう。


 「そして、その呪いを解けるのは、解呪の実。あんたの持ってるその実だけなのさ。」


 「だからね。それを手に入れるためなら、私は何だってする。」

 

 「し、師匠?」


 ラビの身体に青い冷気が集まっていく。目に見えるほどの強大な魔力が杖を中心に渦を巻く。

 周りの空気もざわめいているのがよくわかる。


 「それでも断るというなら、あんた達を殺してで『いいですよ』も奪…、え?」


 「だから、いいですよ。どうせ持ってても使わないものだし。」


 「え?い、いいのかい?そんな簡単に?これはもう二度と手に入らぬぞ?」


 「うーん、でも特に使う予定もないしね。ルナ、ドリー、どう思う?」


 「いいんじゃねえか。死ねないっていうのも嫌なもんだろうしな。ミズキの好きにしろよ。」

 「私もいいと思いますよ。美味しものを美味しいと思えないのは、それは不幸なことですよ。」


 「よし、じゃあ決まりだ!」

 「はい、これ!」

 俺は、一口グミもとい解呪の実をラビに手渡した。


 ラビは、ぽかーんと口を開けて放心している。

 身体に集まっていた冷気もどこへやら消えていた。


 「師匠?」

 赤蟻がラビの顔を覗き込んだ。また涙目になっていた。


 「…。ありがとう…。なぁ、何かお礼をさせてくれないか?」

 ラビが涙をぬぐって俺に言った。


 お礼か…。よしっ。


 「そしたら、モフモフさせてくれ!」


 「も、もふもふ?」


 「ほらほら、こうやって…。」

 俺はラビの頭をなでなでしてみた。

 ふかふかで温かくて、とてつもなく気持ちいい。


 「うわーーーー、超モフモフだ!」


 「むっ、こら、人の頭を。」

 

 「いいじゃん、ちょっとだけ、ちょっとだけ。はぁ、可愛いなぁ」


 「むぅ、まぁ、こんなんでいいなら。」


 「ぷ、師匠、可愛いだって。」

 

 「ぬぬぬぬぬ…。まぁ、いいだろう、解呪の実のためだ。好きなだけモフモフとやらをすればいい。」


 俺はウサギを抱きしめてモフモフを堪能しながら、召喚士のことについて再度尋ねた。


 「異世界召喚には、魔王クラリス。こいつが関わっているのは間違いないね。時を超える悪魔さ。」


 今度は魔王ですか…。


 「ちなみに魔王クラリスって、女性じゃないですよね?」


 「男だが、それがどうかしたか?」


 男か…。違うな。 

 あの時聞いた声は、確かに女の人の声だったんだよ。

 しかもすごくいい声の。


 「あの、俺が召喚されたとき、女性の声が聞こえたんです。『こっちに来ないか?』って、だから、きっと俺を召喚したのは女性の召喚師だと思うんですが、どなたか心当たりはないですか?」


 「女性ねぇ…、無い訳ではないが、異世界の者を召喚できる程の魔力を持つ者となると…。魔女ウィンミルの血族か、若しくは私くらいの者だろうね。」


 「ウィンミルの血族の一人が、魔法都市マジックフォレストに居るという話を聞きました。まずはそこに行き情報を集めようと思っています。」


 「そうかい。まぁ、あそこならあんたを召喚した召喚師の手掛かりが掴めるかもね。」

 「ただ、さっきも言ったが、異世界召喚となると魔王クラリスが関わっているのは間違いない。時術を極めている者はあいつだけだからね。」

 「まぁ、魔法都市の先には、魔界につながる道もある。場合によっては、魔界に行ってみるといいだろう。」


 魔界か…。

 行きたくねえ。

 ドリーを見ると、ブンブンと首を振っている。

 わかってる。その反応で十分だ。俺も行きたくねえ。

 ただ、ラビの話を聞くに、魔法都市よりも魔界の方が脈はありそうだな。やだなぁ…。


 「ラビさん、色々教えてくれてありがとうございました。」


 「いや、それはいいんだが…。」


 「ん?」


 「そろそろ放してもらえないだろうか…。」


 くっ。このまま持ち帰ろうか本気で迷っていたのに…。

 俺は、抱きかかえていたモフモフを解放した。


 「ふぅ…、あんた達これからどこか行くのか?」


 「えっと、黒影にも少し話を聞いてみるつもりです。後は星雲の丘を見せてもらおうかと。」


 「そうか、団長のところに行くなら、私も行こう。」

 「解呪の実のことも伝えたいしね。」

 「しかし、今日はめでたい日だ。久し振りに団長の笑った顔が見れそうだ。」


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