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黒影

 「おや、気が付いたかい?まだじっとしていた方がいいさね。」


 目を覚ますとそこには知らない老婆が居た。

 ここはどこだ…。

 よく思い出せない…。


 「あんたは…?」


 「ルナの昔馴染みさね。命があって良かったさね。」


 ルナ…。

 そうだ!赤蟻!!

 俺はガバッと身を起こし周りを確認した。

 

 良かった。居た。

 少し離れたところでルナは立っていた。

 

 あれ?というか体の痛みが消えている。

 腹も肋骨も元通りになっている。

 

 「ん?まだどこか痛むかね?」


 「あんたが助けてくれたのか?ドリーは!?」

 

 「キリンの獣人のことかい?隣をよく見てみなさいな。」

 

 そう言われ、指された先を見ると、ドリーが眠っていた。

 外傷はない、どうやら傷の治療は終わっているようだ。


 「生きてるんだよな?」


 「大丈夫、生きてるさな。ただ、そっちの子は、血を流しすぎていたからね。当分寝かしといたほうがいいさね。」

 「あんたも身体はまだ動かんだろ。ゆっくりしてな。」

 「後はあの子に任せりゃいいさ。」


 良かった…。


 「俺は、どれくらい寝ていた?」


 「ほんのちょっとさね。お前さんは運がいいよ。黒影と剣神の戦いなんて、きっとこの先何百年も語り継がれるだろうさ。」

 「まぁ、語り継ぐものが居れば、の話だがね。」


 ルナを見ると、ルナの前には赤蟻以外にも一人見知らぬ男が立っていた。

 黒髪長髪の黒づくめの男。その男の右手には巨大な鎌が握られており、漆黒の刃からは禍々しい黒煙が発生している。

 見ているだけで、死を想像させられる。

 こいつか…。この男が盗賊王スール=シャドか。



 ルナは強い。それはわかってる。

 ただ相手は、あの赤蟻以上なんだろ?それにその赤蟻も片腕を失っちゃいるが、まだまだ余力たっぷりって感じだ。

 さすがに不安だぜ。

 

 「ミズキ…。任せろ。」

 ルナが振り返らずに言った。

 その手には水晶でできた剣ではなく、雁字搦めに封印されていた黒剣が握られている。

 

 ったく。わかったよ

 俺がごちゃごちゃ考えてても、何にもなりゃしねえな。

  

 「死ぬなよ。」


 「当然。」


 その言葉を合図に、3人が動いた。

 2対1。

 

 ルナが二人に向けて横なぎに剣を振るう。

 その斬撃が二人を襲う。先ほど大地を真っ二つに切り裂いた斬撃だ。辺り一面の木や岩はすべて切り払われた。

 その斬撃を交わした二人が、左右からそれぞれ攻撃を仕掛けた。

 赤蟻がナイフでルナの腹部を薙ぎ払う。ルナはそれを躱すと同時に、コマのように体をひねり、黒剣を黒影に叩き付けた。

 大きな音とともに大地にヒビが入った。

 だが、その一撃は黒影の大鎌で受けられている。

 その間にまた赤蟻がルナに攻撃を仕掛ける。

 そして、それを避けながらルナは黒影と剣を交えていた。

 凄まじい速度で、それを数度繰り返した後、一度3人は離れた。


 「がぁ!くっそ、当たんねえ。ダメだこいつ、俺の手に負えん!」

 赤蟻が悔しそうに頭をガシガシ掻きながら言った。


 「アジトでレイクもやられてる。一瞬でな…。こいつは俺がやる。お前は下がってろ。」


 「レイクが!?まじかよ…。」


 ん?アジト?何の話だ?

 まさかとは思うが…、ルナお前…。


 「ザンフィールドの弟子か。剣筋も身のこなしも奴によく似てるな。」

 「ザン、いやフレイか、奴はどうした?なぜ貴様がその剣を持っている?」

 黒影が口を開いた。


 「元々これは俺のものだ。欲しけりゃ奪えよ。盗賊なんだろ?」

 

 「ふっ、そういうところもよく似てる。」

 ニヤリと笑って、黒影が大鎌を構えた。


 ルナもそれに呼応するように黒剣を上段に構えた。


 月明かりが二人を照らす。

 そして、雲と雲が闇を繋いだその瞬間。


 再び二人が動いた。

 二人が交わると同時、『ガキン』と一度だけ鈍い音が鳴った。

 小細工はない。勝負はたったの一撃だった。


 大鎌の刃が折れ、大地に突き刺さった。

 ルナの剣は大鎌の刃を砕き、黒影の右腕を切り落とし、そして、その先の大地をも深々と切り裂いていた。

 

 勝負あった。よな…。だが、黒影の様子がおかしい。


 鎌が砕かれたことや、右腕が切り落とされたことにではなく、黒影はルナの大剣を見て眼を見開いていた。


 見るとルナの黒剣は、黒から白へと変わり、金色に輝いていた。

 その光は、まるで絵本やおとぎ話で聞くような神秘的な光だった。


 「馬鹿な。神が死んだとき黒く染まった神剣が…。貴様を認めたとでもいうのか。使徒でもない貴様を…。」


 ルナは、よくわからんと言う顔をしながら、剣を眺めている。

 そして一言、「知らん!」と言い放ち、剣を鞘に納めた。


 「これでもういいだろ。これ以上俺たちにかかわるな。俺たちもお前たちを潰す気はない。」


 「はっ、くくくっ、たった3人の旅人が俺たちを潰すか…。」

 「いいだろう。その剣、貴様が死ぬまでは預けておいてやる。」


 そう言った黒影は、落ちた大鎌を無くなったはずの右手で拾い上げた。

 気付けば、黒影の腕は再生し、鎌も元通りになっていた。

 

 『黒影は、自分を殺しに来た死神を殺したことで死ねない身体になったんですよ。』

 ドリーが言ってたっけか…。死ねない身体ね…。バケモンしかいないのかよ。

 間違いない。ここは異世界の中でもさらに異世界だ。


 赤蟻ももう戦う気はなさそうだった。

 赤蟻の左手は生えてはこなかったが、特に気にしてない感じだ。


 じっと見ているのに気づかれたのか、去り際に赤蟻に言われた。


 「俺はお前が気に入ったからな。今度飯食わしてくれ。喧嘩しねえからよ。頼むぜ。」

 

 だってさ。


 思わず笑っちまったよ。その姿はただの子供にしか見えなかったから。

 「気が向いたらな。」

 なんて、安易に答えてしまった。


 二人が去った後、ルナが言った。

 

 「あー、腹減った。ミズキ晩飯抜きは冗談だよな!?」


 はぁ、こいつに危機感っていうのはないのかね…。


 「どうだろうね、隠れてこそこそ何かしてた人にはお仕置きが必要だしなぁ。」


 そんな俺たちのやり取りを見て、老婆は笑っていた。

 

 はぁ、疲れた。

 ルナが昼間どこ行ってたのかだとか、この婆さんは何者なのかとか、色々聞きたいことはあるが、全部後だ。

 

 「取りあえずルナ。俺とドリーをおぶって、家まで連れてって。そしたら、晩飯は考えるよ。」

 

 「本当だな?任せろ任せろ!」


 そして俺とドリーはルナの小さな背中におぶさり、老婆とともに半壊した家へと向かった。


 まぁ、この惨劇の中でカレーが無事な訳ないんだけどね。

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