冒険家「クロス=マーシャル」
「やはり旅は良いな~。」
「色んな奴に会えるが良い!色んなものが食えるのが良い!色んな街に行けるのもいい!」
ルナはここ最近ご機嫌だ。
前回の洞穴の街を出てもう一週間が経つ。
相変わらず俺たちは砂漠を南西にまっすぐ進んでいる。
その間ずっとルナは地竜の卵を抱きかかえている。
いや抱きついてると言った方が正確だろう。実際卵の大きさはルナの半分以上の大きさがあるのだ。
「ルナは何をしてるんだ?」
「ん?卵を温めてるんだよ。無事産まれてほしいからな!にゅふふ~」
ずっとこの感じである。やれやれ。可愛いやつめ。
「ドリー!次の目的地は砂漠の王国って言ってたっけ?」
「そうですよ。砂漠の王国『moon night』。世界で最も夜の長い国と言われています。」
「元々は内乱により争いの絶えない国だったようですが、今の王様になってからは国内は比較的平和です。まぁ、国の周りには盗賊が多いので商人は苦労しているようですが…。」
「盗賊王のアジトも近いの?」
「そうですね。彼らのアジトも近くに存在すると言われています。」
「冒険家であるクロス=マーシャルの著書【死んでも見たい絶景スポット10選】には、彼らのアジトについてこんなふうに記されています。」
____________________
盗賊団【黒影】の本拠地は 砂漠の王国から少し離れた森の中にある湖上の孤島
その孤島にある 『星雲の丘』と呼ばれる丘は 星に手が届きそうになるくらい星が近く 下に広がる湖の液面には星空が広がる
魚は空を泳ぎ 雲は湖に遊ぶ
光り輝くその丘にいると、星に包まれているような気持ちになれるというが、団員以外その景色を見た者はいない
なお、その場所にいつも座っている団長「スール=シャド」は、一通り愛で終えた宝石をその湖に投げ入れるという
___________________
「何か随分ロマンチックなところに住んでるんだね。というか、盗賊団のアジトってそんなに有名になっていていいものなの?」
「それだけ彼らの力が強いということですよ。拠点の位置がおおよそ掴めているのに、誰も手が出せない。それどころか、実際アジトに近づこうとする人すらいないようですしね。」
ルナの方をちらっと見ると、何かを思い出そうとしているような顔をしている。
行ったことがあるのだろうか…。
前回のこともあるし、あの盗賊団とはいずれまた会う気がするな…。
はぁ、怖えなぁ…。
そう思っていると、明るい声でドリーは話をつづけた。
「それに、近くの街には【夢見の街】なんて言われる街もありますよ。」
「こちらは、夜の長いこの土地柄らしい街で、きっと気に入ると思いますよ。」
「クロスの本にも書いてますよ。」
またクロス=マーシャルか。凄いな。何者?というか何歳だよ!
凄い古い話から、最近と思われる話まで。よくもまあ色々書いたもんだ。
「クロス=マーシャルってさ、何者なの?」
「もう何千年も生きている魔族の冒険者ですね。彼は世界中を旅しながら本を書き生活しているそうですよ。」
「時には空を飛び 時には海底に潜り 時には人の格好で 時には魔物や天使の格好で 時には空気になって 時には光になって…。って、最後の方は嘘だと思いますけど。」
「って、魔族ってそんなに生きるの!?」
「魔族は元々長生きの方が多いですからね。でも彼は特別長寿らしいですよ?」
ふむ。クロス=マーシャル恐るべし……。
んーと。どれ、おっ!あったあった!夢見の街
俺はクロス=マーシャルの手記を手に取り、該当するページを開いた。
_________________
夢見の街「sleep town」
この街で見た夢は 細部まで鮮明に記憶に残り
翌朝 目を覚ましても 不思議と忘れることは無い
夢見の街、夢語り街
その日見た夢を、それぞれが持ち寄り、語り合う。
楽しい夢も、不思議な夢も、怖い夢も、飛び飛びでよくわからないものであっても
大切に大切に、伝えられる。
その日最も印象に残った話は、記録として残される。
今日の一番は、空で暮らすおばあさんの夢。
天国に人がどっと押し寄せて、ぎゅうぎゅうづめになったため
空にはみ出してしまったおばあさん。
ふわふわの雲に囲まれた 白い静かな空間で
外の景色が気になった
雲を両手でそっと広げ 窓を作って覗いて見ると
そこでは虹色に光る 雪の結晶が作られていた。
光に冷気が集まって 少しづつ形になって
雪のできる高さから 雪の積もる地上まで
ゆっくりゆっくり 落ちていく
それはとっても綺麗で きっとどこよりも優しい景色
話が終わって一息つくと 夢見の街の日は陰り 夜が枕を持ってくる
今日はどんな世界に行くのか わくわくしながら目を閉じる
それじゃあ 行くよ 夢の扉へ
そしておやすみ 良い夢を
_________________________
「あっ!この街行きたい!」
「やっぱり!」
そう言ってドリーは笑った。
なーんだ。ほっこりしそうな街もあるじゃんか。
こっちの方が俺向きだ。
ルナじゃないけど、旅っていいね。知らないことがいっぱいだ。
_____________
形容詞が思いつかない
森を抜けた直後 私は目を奪われ 息をすることを忘れた
湖という名の硝子の鏡の上に立ち
儚い朧な月光を纏った
あまりにも不確かで 現実離れした美しさ
きっと 月がここにありたいと 強く願ったのだろう
そう思わされるほど完璧な 光と闇の共存が この城を包んでいた
___________________
(クロス=マーシャル「盗賊のアジト」より)




