【閑話】死神殺しの少年
【盗賊王『黒影』のアジト】
昔の夢を見た……。
俺がまだ赤ん坊の時の夢だ。
砂漠の真ん中で、俺は死にかけている。
喉が渇いた。水が飲みたい。
そう思って、砂漠を彷徨っている夢だ。
聞き飽きた砂の音と身がよじれるほどの乾き。
死と常に隣り合わせの感覚。
出生と同時に砂漠に捨てられた俺にとって、その感覚のみが生だった。
ただ、その感覚も次第に失われ、目を開く力も無くなり、瞼が閉じていく。
そんな中、誰もいない砂漠に、俺のすぐそこに、黒い布を纏った大きな男が立っていた。
右手にその大男の身の丈ほどもある鎌を持ち、俺を見て笑っていた。
「私は死神『ローラン』。あなたの来世に幸あらんこと。」
そう言って、死神が大きな鎌を振り上げるのが見えた。
「ああ、死んだな。」と思った時、身体が勝手に反応した。
死神が鎌を振り下ろすよりも早く、俺の腕が男の体を貫いていた。
何が起こったかはわからない。
ただ、命を奪いに来た死神を殺したことで、俺は以後死ねない身体になった……。
___________________
「シャド?」
目を覚ますと、真っ赤な服を着た男がこちらをじっと見ていた。
「おはよう、ガン。」
『ビッグ=ガン』。うちの盗賊団『黒影』の副長をやっている男だ。
そして、殺戮街で出会った俺の最初の友人だ。
背は小さく細身の体にもかかわらず、うちの一団では誰よりも力が強い。
その小さくて怪力、そして赤い服をこよなく愛するというところから、巷では『赤蟻』と呼ばれている。
「うなされていたけど、何か怖い夢でも見たのか?」
「あっ!あれだろ?俺が死んでいなくなっちゃう夢とか?それなら心配無用だ!俺様は無敵だからな!ふははははは!」
こいつの声を聴いていると気が休まる。
「ああ、そうだな。安心したよ。ありがとう。」
そう言うと、ガンは笑って、手に持っていたリンゴを投げてきた。
彼の好物だ。
「朝食の差し入れだ。それ食ったら、ちょっと聞いてほしいことがある。鷹目と猫目が帰ってきたからな。下で待ってるぜ。」
恐らく、ザン=フィールドの黒剣の件だろう。
俺はリンゴを食い終わり、下へと降りて行った。
__________________
「そうか……。失敗か。」
「すみません。とても我々の手には負えませんでした……。」
「団長。申し訳ないにゃ。あいつただ者じゃないにゃ。」
鷹目と猫目はそれぞれ反省の姿勢でこっちを見ていた。
「別に咎めるつもりはない。楽にしろ。」
「それにしても、黒剣を持ってるのがジジイじゃなくて、10歳前後の少女とはな……。ザン=フィールドの弟子か。その話が本当なら、俺が行くしかなさそうだ。一先ず、そいつらの動きは常に把握しておけ。」
「祭りか?」
近くでやり取りを見ていたガンが聞いてきた。
「たぶんな。」
俺は笑ってそう言った。
退屈な日々が、久し振りに楽しくなりそうだ。




