地竜の卵
地竜との戦いは終わった。
地竜を街のはずれで倒すことができため街に大きな被害はなく、ミグルーも無事だった。
負傷者も新鮮な竜の肉を食べることで、大半の傷は元通りに治るらしい。
「お嬢ちゃんありがとう!強いな~。どうやってそんなに強くなったんだい?」
「兄ちゃん空が飛べるんだなぁ。地竜の皮膚を切り裂くなんて中々できるものじゃない。」
「ママー、キリンさんだよー!可愛いね~!」
住民は俺たちに感謝や称賛の言葉を何度もかけてきた。
ただ、俺は素直に喜ぶことはできなかった。
死者18名。今回の騒動で亡くなったトカゲ族の戦士たち。いかに竜の血肉をもってしても彼らを生き返らすことはできないのだ。
トカゲ族の戦士団団長からは、「戦士とは死ぬものだ。何かを守って死ぬことは、誉れであって恥ではない。」と言われたが、それでも『死』というのは、とても重いものだ。
ルナは強い。凄まじく強い。
今回もルナのおかげで、多くの人が救われた。
俺ももっと強くなりたい。
自分だけでなく、大切な仲間を守れるように。
そして、自分の目に映る人々を守れるように。
その日、トカゲ族の戦士の墓前でそう強く思った。
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翌朝、目を覚ますと、イグルー兄妹が宿を訪ねてきた。
トカゲ族の団長も一緒だった。
「街を救ってくれた英雄を称えたい。」とのことだったが、仰々しいのは好きではなかったので、俺たちは代わりに街の案内をお願いすることにした。
何せこんな立派な地下街を見て回る機会は、中々経験できるものではない。
新しい世界で2つ目の街だ。きっとまた知らないものや見たことのない場所に出会えるに違いない。
そう考えると、ワクワクしてきた。
イグルー達は、お安い御用と言って街を案内してくれた。
トカゲ族の団長は、名をゲイルと言った。
肌は緑色の鱗に包まれていて、大きな尻尾を持ち、背中には三又の槍を差している。
とても強そうだ。
ゲイルは基本寡黙だったが、俺たちが質問すると何でもしっかりと教えてくれた。
ルナはトカゲ族を信頼できる種族と言っていたが、ゲイルを見ていると何となくその言葉が理解できた。
今回の騒動を引き起こしたミグルーに対しても、ゲイルは咎めることも怒ることもなく、普通に接している。「モグラ族は眼が悪い。単純に運が悪かっただけで何も気にすることはない。」と言っていた。
人のミスをどうこう言うよりも、まずは自身を鍛え、街を守る力をつける。
それが戦士団団長の務めだとのことだ。
「責めるのは、まず自分から。直ぐに誰かのせいにして押し付けるのは簡単だけど、誰も救われない。」
前の世界で先輩が言ってた言葉を俺はふと思い出した。俺の好きな言葉だ。
あの先輩、前世はトカゲ族かもしれないな……。なんて思って少し笑えた。
ゲイルの話によると、この街は地下48メートルに作られたものであり、天井の土砂が落ちてこないように魔術でコーティングしているとのことだった。
なので、昨日の様なことがない限り天井が落ちて生き埋めになるといったことはないそうだ。
昼間は、モグラ族は穴を掘り、トカゲ族は街の見回りと地上へ狩りに出かける。人族はこの街では数が少なく、商人や鍛冶屋、魔術師等をしてるという。
街の人口は1万人程度。トカゲ族4割、モグラ族4割、人族1割、他種族1割といったところだ。
街の中心の大穴の端々に小さな洞穴が無数にあり、その中でもお勧めのスポットを見せてもらった。
【紫色の水晶で覆われた地底湖温泉】
紫水晶は魔力の結晶体であり、その地底湖温泉は入ると魔力が回復する。
俺たちは魔力とは縁はないのだが、特別に入る許可をくれた。
なんと温泉は混浴だ。
「いやぁ~、気持ちいいなぁ~!」とルナは真っ先に入っていったが、この爺ちゃん今自分が美少女ということを忘れているのだろうか……。
くっ、動揺するな31歳!俺もズババッと服を脱ぎ、温泉に飛び込んだ。
き、気持ちいい~~。そういえば、風呂に入ったのはもう何日振りだろうか……。生き返る…。
ドリーは、他種族の裸はあまり気にならないのだろうか。
「私も失礼しますね。」と言って俺とルナの真ん中に入ってきた。
そして目を閉じて、歌を2,3曲歌ってくれた。
久し振りにゆったりした時間を過ごすことができて、大満足だった。
【二つの首を持つ竜の化石の発掘場】
今から約2千年前に滅んだとされている『双頭竜』の化石。
あまりに大きいため、まだ頭から首までしか確認できていないが、その大きさは推定全長100m程度とされている。
地竜でさえ20~30m位だったが、この化石は首と頭だけでそれ以上の高さがある。
こんなのが昔は暴れまわっていたのかと思うとゾッとした。
お勧めスポットの見学も終わり、俺はモグラ族がどうやって穴を掘っているのか気になって、穴掘り現場を見せて欲しいというと、イグルー兄妹は嬉しそうに「実演してあげるモグ!」と言ってくれた。
そして10メートルくらい掘りかけの洞穴につくと、よいしょっといってイグルーは洞穴内に置いてあったスコップを持った。
よいしょよいしょと掘り進めるイグルー……。
イグルーよ、その爪は飾りか??
そう言いたかったが、ほってる姿が可愛かったのでほほえましく見学させてもらった。
一通り街を見学させてもらった後は、街のみんなで竜の肉を食べた。
生でもイケるとのことだったが、俺は焼いたものを食べた。
これがもう、めちゃくちゃ上手かった。
牛肉に近いがもっと弾力があってジューシーだ。甘みもありなんだか食べると力がみなぎってくる。
ルナもドリーも旨い旨いと食いまくっていた。
しかし、ルナの胃袋はどうなっているんだろう、サイ○人並みに食っている。
ドリーは、いくつか干し肉用にもらっていた。これでこれからの旅もだいぶ楽になるだろう。
さて、街も堪能したし、水も食料を補給させてもらった。
出発の準備も整い、今後の行程について相談していた時に、昨日地竜が出てきた洞穴に来てほしいとゲイルから伝えられた。
俺たちが洞穴まで駆けつけると、そこにあったのは大きな卵だった。
ダチョウの卵の2倍位の大きさがある。
地竜の卵ということだ。
卵の周りには、街の住民が大勢集まっており、どうするべきか議論をしていた。
地竜は人には懐かないから、直ちに割ってしまおうという意見が大半だ。
昨日街で暴れた地竜のことを考えると、憂いの目は摘んでおくべきという考えは妥当だろう。
「その卵、俺がもらう!」
そう言ったのは、ルナだった。
「地竜の数は少ない。今回1匹俺が殺しちまったからな、こいつは俺が責任を持って育てよう。」
竜には気性の荒いものもいるが、地竜は比較的穏やかだし、生まれたときから一緒にいれば恐らく問題はないだろうとのことだった。
街の住民も反対する者はいなかった。
ギョッとしたのは、俺とドリーだ。
「竜の卵!?うーん。どうしましょうミズキさん。」
俺に振るなよ…。
「そうだなぁ……。ちゃんと世話はできるのか?」
「大丈夫だ、任せろ。」ルナは言った。
何だろうこの感じ。子猫を拾ってきた娘にお父さん飼ってもいい?と言われている親の気持ちが少しわかった。
俺は子供のお願いには弱いのだ。
それに少し竜の赤ちゃんには興味があるしな。
「わかった。俺たちで育てよう。」
そんなこんなで、我が一団に新しいペットが加入したのであった。




