地竜との戦い
大変だ!大変だ!と一人のモグラ族が騒ぎ立てている。
ただ事ではなさそうだ。
こんなに焦っているモグラを見るのは俺も初めてだ。
だが、イグルーは冷静だった。
「取りあえず落ち着くモグ!深呼吸するモグ!」
そう言って緊張をほぐすように促した。
スーハ―、スーハ―と深呼吸する。
「ふぅ、少し落ち着いてきたモグ。あっ、後お茶ももらっていいモグか?」
イグルーはお茶を出してあげた。
ゴクゴクと飲んでいる。
「ふぅー、落ち着いたら少し眠くなってきたモグ。寝てもいいモグか?」
「いや、ダメだろ!」
くっ、思わず俺が突っ込んでしまった。
「そうだったモグ!大変なんだモグ!ミグルーが、地竜の逆鱗に触れてしまったモグ!!」
どうやら、イグルーの妹であるモグラ族のミグルーが、穴掘りをしていたら地竜の巣につながってしまったらしい。
そして、そのまま気付かずに、そこで寝ていた地竜ごと掘り進もうとしたところ、逆鱗に触れてしまい、怒り狂った地竜は、暴れまわりながら、今この街に向かってきているというのだ。
「困ったモグ。トカゲ族の戦士団もほどんどやられてしまったモグ。もうすぐここにも地竜がやってくるモグ。とりあえず、直ぐに地上に避難するモグよ!」
なるほど、ヤバそうだな……。ルナの方を見る。
「地竜か……。アレが暴れたら、この街の天井が落ちてきて生き埋めになりかねんな。よし、俺達が行こう。案内してくれ。」
「お、お前子供じゃないかモグ。いいから逃げるモグ。」
「いや、そうなんだが……。大丈夫だ、任せろ。」
ルナの目は真剣だ。
「この子はこう見えて、一流の剣士なんだ。俺も、そこにいるキリン族のドリーも行く。俺たちに任せてくれないか?イグルーには、右手を治療してもらった恩もあるし、助けになりたい。」
「わ、わかったモグ。ついてくるモグ!」
そして、俺たちは、街の奥にある洞穴の方へ向かった。
『グォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!』
物凄い雄たけびが響き渡る。ビリビリと腹まで響いてくる音だ。
それだけで天井からパラパラと土が落ちてくる。
「近いぞ……。」ルナは言った。
地竜の顔が見えた。ついさっき洞穴から街へと入ってきたところだろう。
街の中心部に向かわせまいと、トカゲ族の戦士が必死で戦っている。
まずいな。近くを見渡すと、大勢のトカゲ族の戦士が倒れているのが見える。
俺は、即座に翼を生やし竜人化した。
「ドリーとイグルーは、周りの戦士の手当てを頼む!」
「ミズキ、お前は俺と来い!」
「素手で殴るなよ!地竜の鱗は岩山より硬い。腰の曲刀を使え!ある程度は効くはずだ!」
「後、間違っても地竜の正面には立つなよ。地竜のブレスを受けたら粉々になるぞ。」
目の前に地竜がいる。思っていたよりでかい。まるで山だ。
「俺は左からやる!お前は右だ!ほんの少し気を引くだけでいい!無理して死ぬなよ!」
ルナは俺のことをある程度信頼してくれているようだ。片側を任せてくれた。
ルナと別れ、右側から回り込む。
まずは、状況把握だ。
多くの戦士が、槍で地竜を攻撃しているが、全く傷をつけられていない。
これが竜の鱗か……。鱗を狙うのは得策ではないな……。
いや、俺は注意を引くだけでいい。当てやすい左前足を狙う!
腰に差していた曲刀『銀月』を抜いた。
竜人化したとき、視力が上がることは知っていたが、動体視力も上がっていることに気づいた。
物凄いスピードで、腕やら尻尾やらが振り回されているが、動きがはっきりと見えた。
俺は一気に近づいて左前足を斬りつけた。キンッ!とはじかれるかと思ったが、スパッと斬れた。
『ギギャアアァアオオオ!!』
地竜の身体が仰け反った。
イケる!
力が飛躍的に上がっているからなのか、この曲刀の切れ味が凄まじいのか、あるいはその両方か。
わからないが、鱗で覆われた地竜に傷をつけることができた。
振り回される爪を避けながら、地竜の左側面を斬りまくる。
効いている、だが、致命傷は与えられていない。
やはり狙いは、頭か……。
幸い俺には翼がある。
俺は猛スピードで竜の横顔に近づき、曲刀を振り下ろそうとした。
取った!
そう思ったその時、物凄い速度で竜の首がこちらに向いた。
眼が合った。
ヤバい!
地竜は大きく息を吸い込み終えており、後はブレスを吐くだけの体勢になっていた。
口の中から、燃焼した何かが溢れ出てくるのが見えた。
あっ、やっちまった。これ、間に合わねえや。
神に祈る時間も無い。俺は死を覚悟した。
『ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!』とブレスが吐き出されたと同時、俺の目の前には小柄な少女が立っていた。
そして、少女は剣を上段に構え、竜のブレスを断ち切った。
熱風が、髪を焦がす。
「だから言ったろ?正面には立つなってよ!」
ルナは、地竜の鼻先に剣を突き刺し、顔面を思いっきり蹴り飛ばした。
『ズドーーーーーーーン!!』と大きな音がして、地竜は倒れ、息絶えた。
一発か…。
…。
また、助けられてしまった。
調子に乗って勝手なことをしてしまった。
注意を引くだけでいい。無理はするな。
そう言ってくれたのに、俺は自分の力に浮かれて、俺だけでなく、ルナまでも危険な目にあわせてしまった。
俺は、恐る恐るルナを見た。怒られるかもしれない。「ごめん」そう言いかけたときに、ルナは振り返って俺に言った。
「な?竜って格好いいだろ!」
その時のルナの顔は、きっといつまでも忘れない。そう思った。




