満月の夜
旅に出て、3日が経った…。
日が落ちたので、今日はここまでにしようと告げると、あと少しで小さな湖があるので、そこまで行こうとドリーは言い、馬車を走らせた。
その日は、満月だった。
しんと静まり返る砂漠の中で、車輪の音だけがガラガラと鳴っていた。
「止まれ!!」
ルナが突然言った。
ドリーは、馬車を止め、ルナを見る。
「灯りを消せ。盗賊だ、囲まれてる。」
ドリーは、言われた通りに灯りを消した。
ルナの見立てでは、人数は八人。その中に手練れが二人。
対象との距離は200メートルほどで、前方に二人、左右に三人ずつ。
弓を持っているのが、三方向に一人ずつ。とのことだった。
辺りは闇に囲まれていて、俺には全く分からなかった。ドリーもだ。
ヒュンと音がした。
そして、その瞬間ルナが動いた。
キンッ!と複数回、何かがぶつかる音がした。
「馬が狙われてる。なかなかいい腕だな。」
気付けば、ルナは馬車から降り、両腰の剣を二本とも抜いていた。
ルナには見えているらしい、ルナの足元を見ると、彼女が剣で叩き落した物であろう矢が三本落ちていた。
まじか…。
ここら辺は安全と聞いていたから、完全に油断していた。
油断…?
いや、そもそもこういうことがあることを俺は理解していなかった。
覚悟も無く、旅行気分で浮かれていた。
死は突然にやってくる。
ここは、そう言う世界なんだ…。
腰に差した曲刀『銀月』を手に取る。
だが、手足が震えている。上手く動ける気がしない…。
「ど、どうしたらいい?」
ルナに尋ねると。
「んー。まぁ、任せろ。」と言い、そしてその瞬間、ルナは消えた。
「ぐわぁあぁあ!!!」「うわあああ!!!」「きゃぁあああ!!!」
三方向から、同時にうめき声が上がった。
何だ??
ドリーを見ると、俺と同じで訳が分からないといった表情だ。
そして、しばらくそのまま途方に暮れていると、ルナが戻ってきた。
「もう、灯り付けていいぞ。」
灯りをつけて、ルナを見ると、両手で盗賊二人の首根っこを掴んでいた。
手足は、布で縛られて無力化されている。
そして、そいつらをポイッとこっちに放り投げた。
「ぐぇ。」「ぐわっ。」
一人は、男の鳥人だ。
顔は人の顔だが、茶色の翼が生えており、目が特徴的だった。鷹の鳥人だと思う。
もう一人は、女の獣人だ。
こちらも顔は人の顔だが、尻尾と猫耳がある。コスプレでなければ、黒猫の獣人だろう。
「恐らく、このグループのナンバーワンとツーだな。」
「さーーーって、楽しい楽しい尋問の始まりだ。」
ニヤリと笑ってルナは言った。
_______________
盗賊グループの二人は怯えていた。
この小さな10歳程度の少女に怯えていた。
俺とドリーの二人も怯えていた。
この小さな可愛い美少女に怯えていた。
殺気が凄まじいのだ。
「お前ら、黒影だろ?ここで何してた?」とルナが尋ねると、
「黒影!?」
「黒影って、盗賊王の一団じゃないですか!!」とドリーが慌てた様子で言った。
黒影?盗賊王?初めて聞く名前だ。
「それって有名なの?」と俺が尋ねると、ドリーは信じられないという顔をしていた。
「ミズキさん知らないんですか!?黒影は、盗賊王スール=シャドの一団ですよ!千ある盗賊団の頂点に立つ大盗賊団です。」
「団長のスール=シャド!副長のビッグ=ガン!大魔法使いのラビ=リズレット!他にも名のある猛者たちがごろごろと!」
「何でそんな奴らが!?大抵は評判の悪い貴族のところに奪いに入るぐらいで、旅人を襲った例なんて最近は全く聞かなかったのに…。」
ルナは、これを見ろと言って、盗賊二人の手の甲を指さした。
黒い月のマークが刻まれている。
「この黒い月の入れ墨は、あそこの団員の証だ。」
「おい、ここはお前らのアジトからは相当離れているだろう?何をしていた?さっさとしゃべれ。」
ルナが鼻先に剣を突き付けると、鷹の目の男は観念して喋り出した。
「だ、団長の命令で、今日辺りここに来る旅人を襲うように言われた。」
「理由は?」
「わからない。ただ、もし旅人の中にジジイがいたら何もせず戻ってくるように言われた。」
「お前らの手には負えないと。」
ルナの目の色が変わった。
「他に何か言っていたか?」
男はしばらく何かを思い出そうとしていたが、何も思い出せなかったようで、黙りこくってしまった。
鳥頭ってやつだろうか……。
「あ、後は、そいつらは黒い大剣を持っているはずだから、ジジイがいない場合はそれを奪って来いとボスに言われたにゃ。」
黒猫が言った。
「ふぅ。」
一つ息を漏らし、ルナは剣を鞘に戻した。
「お前ら、帰って。シャドに伝えろ。」
「俺の名は、ルナ=ウインド」
「ザン=フィールド唯一の弟子であり、この黒剣を背負う者だってな…。」
「後、貴様がこの剣を狙うなら直接取りに来いと、そう言っとけ。」
ルナはそう言い、二人の拘束を解いた。
「わかった。か、必ず伝える……。」
二人が去った後、ルナは俺たちに「すまんな。あいつらは俺の客だ。」と言った。
ルナが、背負っている黒い大剣。
その剣はいつも鎖と布で雁字搦めにされており、簡単には抜けないようにされている。
封印のようなものだろうか。
なぜ、その剣が盗賊王なんて大物に狙われているのか。
なぜ、その剣を俺たちが持っているとわかったのか。
なぜ、俺たちがここを通ることを知っていたのか。
わからないことばかりだった。
取りあえず、その日は、湖に辿り着いたところで、各自眠りについた。




