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くるぅりと陽菜に完全に背を向け、あとは素早く手と足を前へ進めるのみだった。
そう、だった。過去形である。
褐色の髪が僅かに助走をつけ、走る際に生じる重力により後ろへ靡いたものの、すぐに髪に生じた揺れは止まった足と跳ね上がった肩により制されてしまった。
ぽふっ、と深森の眼前数センチのところでちいさなちいさな太陽が燃え灯ったからだ。
「!」
意識や前置き、心積もりはなくとも、生きてさえいればしっかりと火は危ないものだと知っているし認識は深い。故に、火を見たらば刻まれた認識の回避能力から全力で身を退くことくらいは出来る。
驚きから口を引き締め、火を全力で回避できた安堵から危機を通りすぎた後の心臓の並みならぬ焦りが鼓動の回数で深森にどれだけ怖かったかと言うことを諭した。
ばくばくと素早く大きく鳴る心臓に服の上から両手をあてて高鳴りすぎた鼓動を抑えようとするのは最早生き物の性なのではないのだろうかと深森は本気で思う。
ふよりふよりと浮き、ぽつと揺れるちいさな火の前で褐色の瞳に涙を浮かばせる深森の横にとん、と陽菜が寄った。
「…………ごめんなさい、お姉さん」
金糸の長い髪が陽のように照る。申し訳なさそうな声音はそのまま素直に表情にも出ていて、深森に深く頭を下げた。
下げて、陽菜は顔をあげてすぐに左手をくるりと掲げ、翻し、それを合図にしたかのようにちいさな火はふるると素直に揺れた。




